映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』で主演を務めたウィレム・デフォーにインタビュー。キャリア40年にしてなお謙虚さを失わない名優が語る、難役へのアプローチ方法とは

BY KURIKO SATO

『潜水服は蝶の夢を見る』などで知られる映画監督にして画家、ジュリアン・シュナーベルのたっての希望により、その新作『永遠の門 ゴッホの見た未来』でゴッホに扮したのが、今年64歳を迎えたウィレム・デフォーだ。シュナーベルとは『バスキア』『Miral』に続くこれが3度目のコラボレーションとなった。

 パリを捨て、アルルに赴いてからのゴッホの最晩年を描いた本作は、シュナーベルがその画家としての視点からゴッホの探求を浮き彫りにする。ここに映し出されるのは悲劇的伝説をまとった不幸な画家というよりは、孤高の探求のなかにも芸術的な至福を味わっていたアーティストの姿だ。デフォーの瑞々しく魂を震わせるような演技が、そんなゴッホの姿を一層感動的なものにしている。監督の盟友でもあるデフォーはこの難役にどう挑んだのか、話を聞いた。

画像: ゴッホは自然の中に身を浸し、新たな視点でまだ見ぬものを描こうと模索していた © Walk Home Productions LLC 2018

ゴッホは自然の中に身を浸し、新たな視点でまだ見ぬものを描こうと模索していた
© Walk Home Productions LLC 2018 

「ジュリアンがゴッホについての映画を撮ると聞いて、なるほど、ぴったりだなと思ったし、どんな作品になるのかすごく興味を惹かれた。なんといってもジュリアンも画家で、僕らとは見る目が異なるからね。演じるにあたってはまずゴッホのことをリサーチし、そしてジュリアンから絵の描き方を習った。彼は僕が実際に絵を描くことを望んだんだ。短い期間で画家になったというつもりはないが、彼から教わったことで、これまでとは異なるものの見方を覚えたし、視野が広がったよ。たとえばどう色彩にアプローチしたらいいか、どんな構想で絵を描き、そしてそれをどう捨てていくか、といったことを」

 ゴッホが実際に滞在したアルルの地で行われた撮影を、デフォーはこう振り返る。
「ジュリアンにとってゴッホと自然との結びつきは特別なものだったから、制作の早い段階で僕らは、ゴッホがたくさん自然のなかを歩き回る姿を描くことにした。撮影に入る前から、ゴッホが歩いた地を散歩し、気になったところで足を止め、絵を描いたりした。それは僕にとっていい訓練になったし、そのとき得た感覚は撮影の間ずっと僕のなかで大切な真髄だった。そういうことを通しておのずからゆっくりとゴッホの中に入っていくことができた。

画像: ゴーギャン(左:オスカー・アイザック)はゴッホと一緒に暮らし、やがて去ってゆく © Walk Home Productions LLC 2018

ゴーギャン(左:オスカー・アイザック)はゴッホと一緒に暮らし、やがて去ってゆく
© Walk Home Productions LLC 2018 

 ジュリアンのやり方はなにごとにもオープンで、撮影現場でも勘を頼りにいろいろと試す。だから予想外のことが生まれるし、とても自由で新鮮だ。僕は演技プランを考えたり、このシーンで自分が演じるキャラクターがどう見えるかといったことはまったく考えない。それよりも、役を素直に体感することで、キャラクターを生きたい。彼がどんな人物かを解釈するのではなく、彼という人間のなかに宿ることを目指したと言えるかな」

 そんな彼にとって、「伝説の画家」ゴッホはどう映ったのだろうか。
「ゴッホはなによりも、自然を通してはっきりと神に接触できたと感じていたと思う。彼は色、光、遠近法を使い、周囲の世界に反応することで神に触れたい、永遠なものに近づきたいと思っていたんじゃないかな。だからまだ見ぬものを追って、自分のヴィジョンをキャンバスに描こうとしていたのだと思う」

画像: 自ら耳を切った理由は、“世界に対する自分自身のビジョンに恐れをなしたから” © Walk Home Productions LLC 2018

自ら耳を切った理由は、“世界に対する自分自身のビジョンに恐れをなしたから”
© Walk Home Productions LLC 2018 

 もともと前衛的な演劇からキャリアをスタートしたデフォーは、80年代に映画界に入って以来、デヴィッド・リンチ、ウェス・アンダーソン、ラース・フォン・トリアーといった個性的な監督たちと組む一方で、その存在感を請われ『スパイダーマン』シリーズや『アクアマン』など、ハリウッドのブロックバスターにも出演。またマーティン・スコセッシの『最後の誘惑』でキリストに扮したかと思えば、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』では、モーテルの心優しい管理人に扮し、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。本作のゴッホ役ではみごとヴェネチア国際映画祭の男優賞に輝いている。

 つねに色に染まることなく、どんな役柄にも馴染みながらそこに確固として佇む存在。そんな彼にとって、役を演じるとはどういうことなのだろうか。
「僕にとって映画とは監督のヴィジョンだ。こんなことを言うとお世辞に聞こえるかもしれないが、俳優としての自分の仕事は監督のヴィジョン、彼らが求めていることを体現すること。そしてそれは僕の喜びでもある。というのもそれによって僕自身も解放され、予想もしなかったことを体験し、驚きを得ることができるから。だから監督が誰かというのが僕にとってもっとも大切な要素だし、作品の規模に拘らず監督のパーソナルな映画というものに惹かれる。ジュリアンはもちろん、スコセッシもそういう監督だし、ラース・フォン・トリアーもそう。彼らのような監督と組むことで、自分もまた未知のものを発見することができるんだ」

 キャリア40年あまりを経てなお謙虚に、しなやかに変貌し続けるデフォー。彼が個性的なフィルムメーカーから引っ張りだこになるのも、大いに頷ける。

『永遠の門 ゴッホの見た未来』
11月8日(金)より、新宿ピカデリーほかにて全国公開
公式サイト

 

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