シェイクスピアと日本の古典、そしてロックの名盤を自在に操り、極限の愛を描く。誰も見たことのない世界を現出してきた野田秀樹が、いま到達した新たな境地

BY NORIHIKO YONEHARA, PHOTOGRAPHS BY KISHIN SHINOYAMA

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 野田秀樹が疾走している。
 劇作家、演出家、役者として1970年代後半から頭角を現し、80年代以降、世間から注目を浴び続ける日本演劇界の旗手だ。彼がもっか上演中なのが、NODA・MAPの最新作『Q』:A Night At The Kabuki(野田作・演出・出演)である。英国のロックバンド「クイーン」の傑作アルバム『オペラ座の夜』の全12曲にインスパイアされた舞台。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の後日談と源平合戦の世が奇想天外に溶け合い、そこにクイーンの楽曲が緊密に絡む。

画像: 野田秀樹(HIDEKI NODA) 劇作家・演出家・役者。東京芸術劇場芸術監督、多摩美術大学教授。1955年長崎県生まれ。東京大学在学中に「劇団夢の遊眠社」を結成。数々の名作を生み出す。’92年、劇団解散後、ロンドンに留学。帰国後の’93年、演劇企画製作会社「NODA・MAP」を設立。演劇界の旗手として国内・海外を問わず、精力的な活動を展開。 2009年、名誉大英勲章OBE受勲。’09年度朝日賞受賞。’11年6月、紫綬褒章受章

野田秀樹(HIDEKI NODA)
劇作家・演出家・役者。東京芸術劇場芸術監督、多摩美術大学教授。1955年長崎県生まれ。東京大学在学中に「劇団夢の遊眠社」を結成。数々の名作を生み出す。’92年、劇団解散後、ロンドンに留学。帰国後の’93年、演劇企画製作会社「NODA・MAP」を設立。演劇界の旗手として国内・海外を問わず、精力的な活動を展開。
2009年、名誉大英勲章OBE受勲。’09年度朝日賞受賞。’11年6月、紫綬褒章受章

 東京での開幕は10月8日。約3時間の大作は「極限の愛」を伝える特筆すべき舞台となった。言語遊戯が炸裂し、身体が弾ける1幕。求心力で世界を「愛」という名の切ない懐かしさへと収斂(しゅうれん)させる二幕。生き延びてしまったロミオとジュリエットと、若き日のふたり、その4人がまるで音符となって深い愛の歌を奏でるようだ。クイーンの曲、そしてフレディ・マーキュリーの麗声は、物語が進んでゆくにつれ、その芯に不可分の調べとなって溶け込む。野田は言う。
「クイーンは曲の力がすごいですね。発表当時もロックというふうに聴こえてこなかったし、全然違うものが出てきたと思いました。ロックのアルバム全曲と正面から向き合って芝居を作るのは初めてでした」

 東京大学在学中に結成した「劇団夢の遊眠社」(’76年~’92年)による作品、『ゼンダ城の虜』『野獣降臨(のけものきたりて)』『半神』などは多くの支持を受けた。『贋作・桜の森の満開の下』に出てくる「オニ」→「クニ」のように、戯曲は「言葉遊び」「言語変奏」の構造を内包。古典作品のリミックスも得意だ。身体をさらす役者であることにもこだわる。言語と身体は相まって目に見えない社会の壁をこじあけ、観客は割れ目の向こうに国家のあり方や普遍的な感情など「何か」を見てきた。故十八代目中村勘三郎とタッグを組んだ「野田版歌舞伎」は歌舞伎界に新風を吹き込んだ。

今回の企画は『オペラ座の夜』の出版権を持つソニー・ミュージックパブリッシングなどが、クイーン側に「アルバム全曲使用による新たな芸術作品を制作するアイデア」を示したことから始まり、クイーン側も前向きになった。その後、ソニー側が、この企画の実現には劇作家・演出家として国内外で高く評価されている野田秀樹しかいないとオファーし、野田率いるNODA・MAPとソニー・ミュジックとの共同企画として本格始動したという。

画像: 役者としての身体性にもこだわり続けてきた野田。稽古場にて

役者としての身体性にもこだわり続けてきた野田。稽古場にて

 それにしても『オペラ座の夜』は、『クイーンⅡ』と並んでロックの枠におさまらない名盤との誉れが高い。「ボヘミアン・ラプソディ」をはじめ、バラード「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」など名曲が並ぶ。たまたま同時期に企画が進行し、2018年秋に公開されて世界的ヒットを記録した映画『ボヘミアン・ラプソディ』でも、これらは重要な曲として位置づけられた。野田は「あえて映画を観なかった」という。「描く世界観は違うので、気負いはなかった。曲は非常にバラエティに富み、演劇的。今回は詞を読み込みました」。オファーを受けた当時、野田はNODA・MAPの新作公演として『ロミオとジュリエット』の後日談をテーマにした戯曲を構想していた。そこにクイーンの詞が刺さった。

「『ボヘミアン・ラプソディ』では少年が殺人を犯す。なぜ、この子は人を殺したのだろうか。どういう状況で『ママ』という言葉が出てきたのか。ガリレオ・パートも、変なフレーズだなと思っていたところが実は裁判シーンなのだとわかったりした。『ラヴ・オブ・マイ・ライフ』も含め、『ロミオとジュリエット』に近いのではないか、と思ったのです」。かくして野田は、NODA・MAPの新作のために準備してきた企画と、クイーンの企画を融合することを発案する。

 

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