新型コロナウイルスの出現とともに、私たちを取り巻く社会は一変。ウイルスとの共生が求められるなか、私たちの日常はどのようなものになってゆくのか。先の見えない世界を生きてゆくヒントを、さまざまな分野で活躍する識者の方たちが一冊の本を通じて語る

BY JUN ISHIDA

 第3回は写真家のホンマタカシさん。緊急事態宣言下で読んだという百年文庫の『心』と佐々木正人さんの『あらゆるところに同時いるーアフォーダンスの幾何学』を通して、不要なものの大切さについて語ってくれました。

“不要”なものの大切さ

 コロナ禍で考えさせられたのは、何が要か不要かということでした。こうした状況下では誰もが「要」のことばかり言いますが、逆に改めて「不要」なことの大切さを感じましたね。例えば新型コロナに対して文学が必要かと問われれば、不要なのかもしれません。実用書ですとか、もっと直接役に立ちそうなものに人の関心は集まるのでしょう。コロナ禍で、そうした傾向が強まることが僕は怖いんです。

 今回、百年文庫の『心』と佐々木正人さんの『あらゆるところに同時いる―アフォーダンスの幾何学』を挙げました。『心』には、ドストエフスキーの『正直な泥棒』と芥川龍之介の『秋』、そしてプレヴォーの『田舎』という3つの短編小説が納められています。今の状況に対して示唆するものがあるのかと言われれば、全くそうではありません。でも、すごく豊かな世界が書かれています。この三作品だけでなく、文学はそういうものだと思うんです。

画像: (左)『心』百年文庫¥750/ポプラ社 (右)『あらゆるところに同時いるーアフォーダンスの幾何学』佐々木正人 著¥2,500/学芸みらい社 PHOTOGRAPH BY NAOMI ITO

(左)『心』百年文庫¥750/ポプラ社
(右)『あらゆるところに同時いるーアフォーダンスの幾何学』佐々木正人 著¥2,500/学芸みらい社
PHOTOGRAPH BY NAOMI ITO

 百年文庫は、編集者が一つのテーマに沿って無関係の三作を選び、一冊の本としてまとめているのですが、知らない作家の作品に出会えるのも魅力ですね。世界の文学ってこんなに広いんだ、ということを教えてくれます。今年の初めぐらいからこのシリーズを買い始めて、緊急事態宣言の最中は時間があったので、結構読みましたね。文学の果てしない広がりが感じられて、素晴らしいなと思いました。

『あらゆるところに同時いる―アフォーダンスの幾何学』(佐々木正人著)も同様に、新型コロナに関係するものではありません。「ダーウィンの方法」という章は、チャールズ・ダーウィンの遺作となった『ミミズと土』について書いているのですが、進化論を唱えたダーウィンは晩年ミミズの研究に没頭したそうです。ミミズは、土の中に穴を掘って眠る際に、穴の中が乾燥しないように葉を使って穴に蓋をします。ダーウィンは、ミミズがいかに葉っぱを穴に引き込むかをひたすら試して、見て、記述したそうなのですが、それって何の役に立つのだろうかと思って。僕自身は、ダーウィンの「ひたすら見る」という姿勢に共感しました。

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