障害のある俳優たちが、ブロードウェイの演劇やハリウッド映画、そして評判の高いテレビ番組にキャスティングされるケースが増えつつある。彼らは、アーティストであると同時にアクティビストとして活躍する新しい土台を創造してきた。エンターテインメント産業とその観客たちがもつ常識に異議申し立てをし、「インクルージョン」という言葉が、真に何を意味するのかを問い直すために

BY MARK HARRIS, PHOTOGRAPH BY STEFAN RUIZ, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 そんな状況が変わるのを何十年も待ち続けている俳優たちもいる。リドロフは『セサミ・ストリート』に出演していたリンダ・ボーブのことを憶えている。彼女は1980年代に育った子どもたちがテレビで見ることができた、ごく少ない聴覚障害者のうちのひとりだった。ノヴィッキーは、ロン・ハワード監督のファンタジー映画『ウィロー』(1988年)で身長約107cmのスター、ワーウィック・デイヴィスを見たときのことを「ものすごい衝撃だった」と言う。「身長の低い子だった僕が、自分もヒーローになれるんだって思った」。

 その衝撃は、スポーツにのめり込んでいた彼を演劇に転向させたほど大きかった。彼は今、自分が執筆した脚本に登場するビリー・バーティという小人症の役を演じることで、道を切り開いていく俳優としてスターになることを望んでいる。彼のこの作品の脚本は、ディスアビリティ・リストに名を連ねることになった。これは年に一度発行されるブラックリストと呼ばれる、調査によって裏づけられた映画業界で最も人気のある脚本リストの派生形だ。ノヴィッキーは進化の速度は速まっていると信じている。

 ゴールドもそうだ。私が彼と話したときには、彼は、オフ・ブロードウェイで上演する予定だった舞台『三人姉妹』のリハーサルに臨むところだった。この作品に、彼はふたりの障害のある俳優を起用した。さらに、2017年にロンドンでチャールズ・ディケンズ原作の『クリスマス・キャロル』の最新版が上演されてから、多くの障害のある俳優たちがタイニー・ティムを演じてきた。この役はこれまでほとんど障害者によって演じられることがなかった役だった。その作品が昨年ニューヨークで上演されたときには、脳性麻痺のあるふたりの少年がタイニー・ティムの役を演じた。

「マディソンが車椅子の俳優としてブロードウェイの舞台で初めて主役を務めてから、アリがトニー賞を受賞するまで、たった2シーズンしかたっていないんだ」とゴールドは言う。「今、いろんなことがどんどん起きている」。すべての劇場が閉鎖され、表現する機会が全員に均等に与えられていないことについて熱い議論が交わされている今、よりよい未来のビジョンには、障害のある俳優たちが必ず含まれていることを期待するのは、もう高望みではないだろう。

 フェリスは、Amazonで配信される新しいヤングアダルト向けのシリーズ番組『Panic(原題)』の最初のシーズンの撮影のために、2020年のはじめに、テキサス州のオースティンにいた。このシリーズでは、小さな町に住む若者たちが、町から脱出する手段としてコンテストに臨み、賞金を得ようと競争する。「状況はよくなっているのかな?」と彼女は尋ねる。「そうかもしれない。でも、それじゃ最終目的は何? 真の意味で全員を代表するようなアートを作りたいなら、私たちは、まだまだ実現にはほど遠いところにいる」「時には、人はエンターテインメントを逃避する手段だと見ていると思う」と彼女は言う。「たとえば、銀行強盗が出てくる映画を見たいとか、セクシーな人々のセックスシーンを見たいとかね。それはそれでいいと思う。でも、障害がある人だって同じようにセクシーだし、彼らだってセックスをするし、何かを盗ったりするのだって、もしかしたら彼らのほうがうまいのかもしれない。この際正直に言うけど、私が刑務所にこっそり持ち込んだものは、本当にすごかったんだから」。

 彼女は冗談で言っているのではない。彼女には受刑者の友人がいる。そして、車椅子の後ろのポケットにはいろんなものを詰め込むことができるのだ。この話からわかるのは、実に多くの人々が、障害のある人を無意識のうちに過小評価し、彼らが実際に目の前にいても、彼らの存在に目を留めることすらしない、という事実だ。とにかく、これは面白いストーリーだ。ひょっとしたらいつか、この話を、彼女本人がスクリーン上で演じる日がくるかもしれない。

PRODUCTION: LAUREN STOCKER. ON-SET PRODUCER: ELISE CONNETT AT 143 PRODUCTIONS. PHOTO ASSISTANT: PATRICK LYN. LOCATION: 99 SCOTT STUDIO.

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