19世紀のイギリスの、二人の女性の出会いと、燃え上がる感情を繊細に描いて高い評価を得ている映画『アンモナイトの目覚め』。自身の生い立ちや想いを込めて作品をつくり続けるフランシス・リー監督のインタビューをお届けする

BY YUKO TAKANO

 13歳にしてアカデミー賞にノミネートされたシアーシャ・ローナンと、『タイタニック』で大ブレイクし英国を代表する大女優に成長したケイト・ウィンスレットのふたりが初共演を果たした『アンモナイトの目覚め』。19世紀半ばにイギリスで古生物学者の道を歩んだメアリー・アニングの生涯に目を向ける。オリジナル脚本をスクリーンに焼き付けるのが、フランシス・リー監督だ。

画像: フランシス・リー監督と、主演のケイト・ウィンスレット。古生物学者のメアリー・アニングを描くにあたり、化石の扱い方なども細やかに演出 © 2020 THE BRITISH FILM INSTITUTE, BRITISH BROADCASTING CORPORATION & FOSSIL FILMS LIMITED

フランシス・リー監督と、主演のケイト・ウィンスレット。古生物学者のメアリー・アニングを描くにあたり、化石の扱い方なども細やかに演出
© 2020 THE BRITISH FILM INSTITUTE, BRITISH BROADCASTING CORPORATION & FOSSIL FILMS LIMITED

 長い間歴史からかき消されたメアリーの存在を知ったきっかけ、そして映画化の動機について明かす。「友達のプレゼントを探していたんだ。磨いた石とか、化石みたいなものが欲しいなと思っていた。インターネットでリサーチしていると、メアリー・アニングの名前が頻繁に上がってきた。それで彼女について知りたくて資料を読んだ。最も興味をそそられたのは、彼女の境遇だった。貧しい労働者階級の出身の女性で、教育もほとんど受けていない。そんな彼女が、当時を代表する古生物学者として名を残した。階級に支配された当時のイギリスでいかに彼女が認められるようになったのかについて――」

 メアリー・アニングは英国南西部のライム・レジスで生まれ、13歳でイクチオサウルスという魚竜の非常に珍しい全身化石(大英博物館蔵)を発掘、時の人となる。家庭は貧しく、幼くして父を亡くし兄と伴に家庭を支えた。人生の大半は観光客相手に地元の海岸で発掘した化石を売り生計を立てた。
「僕がアーティストとしてやりたかったのは、僕の目に映った彼女を描くことだった。僕なりの解釈によるメアリー・アニング。どんな女性だったか、ほとんど人物像が残っていない人を現実的に描くのは不可能であるから。だからこの映画では自分の考えたメアリー像を作り出したんだ。いろいろ興味深い事実を発見したよ。メアリーの発掘したアンモナイトを購入したのは、大半が男性だった。彼らは購入後、自分が発掘したかのように自分の名前を付けた。そのせいで彼女の発掘したアンモナイトの行方の多くが分からないんだ」

画像: ケイト・ウィンスレット(左)とシアーシャ・ローナン(右)という実力派二人による渾身の演技に注目が集まる © 2020 THE BRITISH FILM INSTITUTE, BRITISH BROADCASTING CORPORATION & FOSSIL FILMS LIMITED

ケイト・ウィンスレット(左)とシアーシャ・ローナン(右)という実力派二人による渾身の演技に注目が集まる
© 2020 THE BRITISH FILM INSTITUTE, BRITISH BROADCASTING CORPORATION & FOSSIL FILMS LIMITED

 雨の日も、風の日も、日々海岸で化石発掘に励むメアリー。母と二人での営む化石店に、ある日ロンドンから収集家のマーチンソン夫妻が訪ねてくる。夫の頼みで、流産から鬱をわずらう妻のシャーロットを一時自宅で引き受けることになるのだ。裕福な家庭の妻に対しメアリーは最初反発を感じるが、次第に二人の心はうちとけ強い絆が生まれる…というのが彼の生み出した物語。メアリーの人柄や人間関係、恋愛などに関する情報は一切なかった。しかし産業革命で栄えた当時の英国は圧倒的な男性支配の社会であったはず。そんな逆境の中、歴史に足跡を残したメアリーの人生を、リー監督は逞しい想像力で繊細に綴った。この脚本に魅了されたのは二人の大女優。主役のケイト・ウィンスレットは撮影の数か月前からロケ地に先入りして、古生物学の先生について発掘作業なども学んだという。

「ケイトは僕自身と同様、役づくりに惜しみなく時間をかける人だ。二人で撮影の数か月前から準備を始めた。メアリーという人物像を作り上げていくため、可能な限りすべてのことを知ろうとした。ケイトはメアリー・アニングが発掘作業をしたのとまったく同じ海岸に行って、発掘を学んだ。ぼくらはメアリーの足跡を追い、彼女と同じ海岸に立ったんだよ。ケイトはメアリーが使ったのと同じ古い道具を使い、アンモナイトを掘った。実のところケイトは、発掘者としてかなり腕をあげたんだ。非常に彼女の演技の大きな助けになったと思う」

画像: 自身も俳優の経験を持つリー監督。映画監督としてデビューを果たしたのは40歳を過ぎてからだ © 2020 THE BRITISH FILM INSTITUTE, BRITISH BROADCASTING CORPORATION & FOSSIL FILMS LIMITED

自身も俳優の経験を持つリー監督。映画監督としてデビューを果たしたのは40歳を過ぎてからだ
© 2020 THE BRITISH FILM INSTITUTE, BRITISH BROADCASTING CORPORATION & FOSSIL FILMS LIMITED

 英国北部ヨークシャーの農家に生まれ育ったリー監督。演劇学校を出て俳優として舞台やテレビで活躍した後、監督へ転身した。オックスブリッジ卒をはじめ、エリート階級の出身者が多くを占めるイギリスの演劇・映画界に見えない壁を感じたと打ち明ける。

「俳優は15年くらいやった。仕事はあったが、俳優として自分が特に優れていたとは感じなかったし、自分に向いているとも思わなかった。それで演技をあきらめた。脚本と監督をずっとやりたいと思っていたが、やりたいと胸を張って言える自信もなかった。労働者階級の出身で、高い教育も受けていない。僕にとって映画業界はエリートの世界に見えたんだ。40歳になったとき、もし自分が本当に映画を作りたいと望むなら、今やらなければ永久にできないと思った。だから実行に移さなければならないと」

 3本の短編映画を作り、そこにサンダンス映画祭をはじめ英国インディペンデント映画賞などを受賞することになる2017年の長編デビュー作『ゴッズ・オウン・カントリー』が続いた。これは今や最も注目される若手俳優ジョシュ・オコナー(『ザ・クラウン』にチャールズ皇太子役で出演)主演のドラマだ。家族の経営する農場を任され肉体的にも精神的にも孤独な主人公と、移民労働者との出会いと愛を描き、『アンモナイトの目覚め』と同様、雨が降りつける厳しいイギリスの気候を背景にしたラブ・ストーリー。あのエミリー・ブロンテの『嵐が丘』のような自然の中で逆境に立ち向かう孤独な主人公、階級社会など、描かれるテーマにも共通点が多い。

「僕の制作した2本の長編映画は両方とも階級に触れている。ある人々には回ってくる人生のチャンスも、ある人々には回ってこない。僕の作品に登場する労働者階級のキャラクターは、この社会の中で最も声を持たない人々だ。それがまさに僕自身の背景なんだよ。僕は労働者階級で同性愛者。その点をスクリーンに反映し、掲げたいと思う。敬意をもって彼らのような人々に目を向けてもらいたい。彼らの声を聴いてほしいと思うんだよ」

画像: 『アンモナイトの目覚め』予告編 配給:ギャガ © 2020 THE BRITISH FILM INSTITUTE, BRITISH BROADCASTING CORPORATION & FOSSIL FILMS LIMITED youtu.be

『アンモナイトの目覚め』予告編
配給:ギャガ
© 2020 THE BRITISH FILM INSTITUTE, BRITISH BROADCASTING CORPORATION & FOSSIL FILMS LIMITED

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『アンモナイトの目覚め』
TOHOシネマズ シャンテほか、全国順次公開中
公式サイト

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