BY NATSUME DATE, PHOTOGRAPHS BY SHINSAKU YASUJIMA
熊川哲也率いるKバレエカンパニーが新たなプロジェクトを発表して話題だ。K-BALLET Opto(Kバレエ オプト)は、新たな才能や異なるジャンルとのコラボレーションなどを通じて活動の幅を広げ、ダンス界に新たな光(=Opto)を生み出すことを目指して誕生。9月30日・10月1日に旗揚げ公演を行う。
Kバレエといえば、芸術監督・熊川哲也の新演出による、ゴージャスで洗練された全幕物のクラシック・バレエを上演するカンパニー。そんなイメージが定着するなかで上演された2017年の『Fruits de la passion~パッションフルーツ』は、意外性に満ちた珠玉の小品だった。熊川哲也と、ネザーランド・ダンス・シアターなどヨーロッパのコンテンポラリー系ダンスの最前線で活躍してきた渡辺レイという異色の共演によるもので、一見スタイリッシュなセレブ・カップルの脳内で愛憎バトルが展開するという、洒脱でコミカルで意表を突くデュエットだったのだ。
渡辺が当時を語る。
「最初は、熊川さんとカンパニーのために何か作品を創ってほしいという依頼だったのですが、動いているうちに『一緒にやってみるのも面白いかもしれない』となって、すごく短時間で生まれた作品でした。熊川さんとは同期で17歳のころから知っていますが、思考プロセスや作品へのアプローチが違う2人なので、お互いにどうなるか見当がつかない状態で、表現を出し合っていくプロセスが楽しかった。私たちはまったく異質なんですが、たとえば直感的に出てくるユーモアだとか、音の感じ方など、感覚的には似ているところがあって、同じ方向を向いていることが実感できたので、あのような作品ができたんだと思います」
ダンサーとしてのタイプや性格は異なっても、感性や技術のクオリティは共通するレベルに位置していることを、身をもって確認できた機会だったのかもしれない。その後、熊川からKバレエ カンパニーの舞踊監督の大任を引き受けることとなり、さらに、新たに立ち上げるKバレエ オプトでも、舞踊監督を兼任することになった。熊川の元、古典バレエを極めたこのバレエ団に、エッジの効いたコンテンポラリーの要素を注入することを託されている。
「熊川さんは、日本で王道のクラシック・バレエを上演できる環境を作ってきました。そしてこのタイミングでダンサーたちに、かつて自分がそうであったように、色々な芸術家、作品と出会うことで自分に向き合う機会を与えたいという思いがあるのだと思います。日本ではコンテンポラリー・ダンスは『難しい』とか『暗い』とか言われていますよね。私は、このイメージを変えていく必要を、強く感じています」
実際バレエ・ファンの中にも、コンテンポラリーは「どう見たらいいのかわからない」と苦手意識を持つ人も少なくない。
「たとえば、気温が高くて暑い日だったら、 “暑い“と自分が確かに感じているわけですよね。そうやってありのままに感じることが、コンテンポラリーの楽しさだと思うんです。世界には、言葉で説明しきれない抽象的なことが溢れているのだから、そのうちの何かが舞台にのせられているのを見て、観客ひとりひとりが何かを感じれば、それでいいものなんですよ。わかりやすいストーリーや解釈を与えられると安心できる気持ちはわかりますが、他者や情報に左右されず自分の感覚を研ぎ澄ませることも、大事なんじゃないかなと」
自身の振付作品でも、決して“わかりやすさ”を求める風潮に迎合しない。
「そこは闘いだと思っているので、妥協してわかりやすいだけの作品を創るつもりはありません。いや、私だって個人的には暗い作品は好きじゃないんですよ(笑)。エネルギーが漲り、感情の起伏に富んでいて、無理に頭を使って理解する必要などない作品を、観ていただきたいと思っているんです」
Kバレエ オプトの初回公演で上演される、いずれもタイトルに“プティ”がつく3作品のうち、渡辺は『プティ・バロッコ 小さな真珠(ゆがんだ真珠)』を振り付けている。トウシューズをハイヒールに履き替えた女性ダンサーたちの挑発的な動きで始まるオープニングから、しっかり攻めの姿勢だ。
「バロック=ゆがんだ真珠。女性も男性もパーフェクトではない姿や弱さを抱えながら、どれだけ強さと美しさを見せることができるのか。とにかく、ダンサーたちにはヘトヘトになるまで踊ってほしいと思って創りました。そこまでいって初めて伝わるものがある、ということを示したいんです」
さらに、
「コンテンポラリーを踊るのにもクラシックの基礎は必須ですが、クラシックしか経験していないと身体の機敏な重心移動が難しかったり、ひとつひとつの動きを流れるように繋げることが、なかなかできなかったりします。こればかりはもう、何度も何度も繰り返して、身体に叩き込むしかないものなので」
と、妥協を許さない厳しい指導者の顔も覗かせる
ほかの2作品の選定でも、振付家本人がカンパニーを訪れ、直接ダンサーたちと作品を創り上げる環境を確保することに、プライオリティを置いた。
「もちろん、大御所振付家の既存作品も経験してほしいと思っていますが、若い振付家と一緒に新たに創っていく作業は、ダンサーにとって得難い勉強になるし、その後の成長につながるものなんです。このオプトの目的も、新しいものを生み出すという点にあるので、いまはこの体制を優先したいと思っています」
「やりたいことが多すぎてね」と苦笑しながらも、ブレない姿勢が頼もしい。Kバレエが打ち出す新たな展開が、かなり楽しみになってきた。
『K-BALLET Opto 「プティ・コレクション」―プティ・プティ・プティ!』
上演作品:
「プティ・セレモニー “小さな儀式”」 メディ・ワレルスキー振付
「プティ・メゾン “小さな家”」 森優貴 振付
「プティ・バロッコ “小さな真珠(ゆがんだ真珠)”」 渡辺レイ振付
上演期間:2022年9月30日(金)12:30開演・17:30開演
10月1日(土)開演12:30開演・17:30開演
会場:KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉
住所: 神奈川県横浜市中区山下町281
料金:S席¥9,000 A席¥7,500 B席¥3,000※イス付立見席 (全席指定・税込)
チケット予約:
インターネット/MY Bunkamura(予約ページはこちら)
電話/Bunkamuraチケットセンター(10:00~17:00)
03-3477-9999
ほか各種プレイガイドにて取扱い(詳細は公式サイトにて)
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