回顧録『SPARE』を出版して話題のヘンリー王子とメーガン妃。トラウマや家族の機能不全を克服する救済の物語に寛容なアメリカのメディア報道でも、どうやら潮目が変わりつつあるようだ。

BY SARAH LYALL, TRANSLATED BY T JAPAN

 ヘンリー王子とメーガン妃(サセックス公爵夫人)は、この2年間、自分たちのストーリーを語るために、そして自分たちを英国王室やタブロイド紙、批評家やアンチの犠牲者として見せるために、オプラ・ウィンフリーに秘密を明かし、同情的なテレビ取材陣に再び明かし、6部構成のNetflixシリーズを制作して主演し、ヘンリーの場合は、俳優ダックス・シェパードのポッドキャストの "Armchair Expert" にも登場した。

 そして今、数百万ドルの費用をかけてゴーストライターの手で書かれた王子の回顧録『SPARE』がリリースされた。発売されたばかりのこの本は、ここ数日、目を見張るような詳細が次々と漏れてきている。(スペインで誤って発売日前に店頭に並び、イギリスのニュースメディアが取り上げて翻訳し、出版社の展開にカオスの要素を注入した)。

画像: 2022年9月10日、イギリス・ウィンザー城の外で、亡くなったエリザベス2世へのメッセージを見るために一緒に登場し、市民を驚かせたウィリアム皇太子とキャサリン皇太子妃、ヘンリー王子とメーガン妃 PHOTOGRAPH BY MARY TURNER

2022年9月10日、イギリス・ウィンザー城の外で、亡くなったエリザベス2世へのメッセージを見るために一緒に登場し、市民を驚かせたウィリアム皇太子とキャサリン皇太子妃、ヘンリー王子とメーガン妃
PHOTOGRAPH BY MARY TURNER

 ヘンリーとメーガンにはまだ多くの同調者がいる。特に、メーガンが英国で遭遇した人種差別というレンズを通して夫妻の不満を見る人々や、メーガン、そして結婚後はヘンリーも、王室という退屈で保守的な組織ではチャンスはなかったと言う人々である。

 しかし、これまでの世間の反応を見る限り、何かが変わったようだ。祖国を逃れた王族に好意的で、トラウマや家族の機能不全を克服するための救済物語に対して英国よりも一般的に寛容な米国でさえも、人々は暴露話に我慢の限界を感じている感覚があるのだ。

 テレビ司会者のドン・レモンは先週の“CNN This Morning”で、「いいですか、誰にでも家族がいるのです」と述べた。「私の家族にも諍いがある。私は全世界にそれを公開するだろうか? いったいなぜ、彼がそれを表に出したいと思うのか理解できない。本を売りたいのはわかるが、私から見ればただ……」。(彼は後で「くだらないね」と付け加えた。)

 くだらないこととは、たとえば、メーガン妃について口論しているときにウィリアム王子が自分を床に押し倒し、ネックレスを引きちぎって犬の食器を砕き、その破片がヘンリーの背中をえぐったと非難することだろうか? あるいは、フィリップ王配の葬儀の後、父親の前で兄弟がどのように口論をしたかを説明することだろうか?(当時チャールズ皇太子は「頼むから、私の晩年を惨めなものにしないでくれ」と言ったと言われている。) ヘンリーがマッシュルームでハイになり、ゴミ箱が自分に話しかけていると信じたという話や、メーガンが大胆にもキャサリン妃にリップグロスを貸してほしいと頼んで怒らせたという一節が?

 批判されることと、公然と嘲笑されることは別物だ。

 例えば、先週、ジミー・キンメルの番組が“Two Princes”と称して、キッチンでの口論を再現したのは、あまり良い兆候とは言えないだろう。この寸劇では、英国訛りのナレーションに合わせて、二人の俳優がミュージシャンのプリンスに扮して登場するという奇抜なものであった。

 大西洋の反対側のイギリスでは、先週、テレビ番組“This Morning”の4人のパーソナリティが、本に書かれた別の事実について議論していたが、ほとんど収拾がつかなくなっていた。ヘンリーが初めてセックスをした時の話だ。

「年上の女性が彼の童貞を奪い、暗闇での行為が終わると彼はうつぶせになり、彼女は彼のお尻を叩いた」と、作家でキャスターのガイルズ・ブランドレスが言うと、笑いが巻き起こった。

画像: 1月10日にイギリスの書店に並んだヘンリー王子の回顧録『SPARE』 GETTY IMAGES

1月10日にイギリスの書店に並んだヘンリー王子の回顧録『SPARE』
GETTY IMAGES

『SPARE』は発売前に予約注文が殺到し、ベストセラーリストの上位にランクインしており、いたるところで報道されることによって、少なくとも短期的には売り上げが落ち込むことはないだろう。

 広報会社ザ・リードPRの共同設立者であるジェフリー・W・シュナイダーは、この本の出版元であるペンギン・ランダムハウス社について、「彼らは宣伝をまったく気にかけていないだろう」と述べた。ただし「出版社にとって良いことが、本を出した本人にとって良いこととは限らないことも事実だ」とも。

 実際、ヘンリーとメーガンにとってより心配すべきは、自分たちのトラブルについて繰り返し公に訴えられ続け、それがうんざりするほど大きくなって、彼らの個人的なブランドを損ない、将来の潜在的な収入を損なっていないかということだ。自分たち自身の話題を使い果たしたら、あとは何を話せばいいのだろう。

「過剰です」とシュナイダーは言う。「彼らについて、これまでにも多くの話題があり、さらに増えた。人々の関心度は常にかなり高かったが、それにはおのずと限界があるのかもしれない」。

 危機管理会社ラ ブレア メディアの会長ハワード・ブラグマンは、もしヘンリーとメーガンに助言できたとしたら、限りある材料から得られる成果には限りがあることを彼らに印象づけただろうと述べた。

「自分のストーリーを語れるのは一度だけだということを認識しなければならない」と、ブラグマンは言う。

 タイミングの問題もある。ヘンリーの本は、彼の祖母であるエリザベス2世の死後すぐに出版された。君主制をどう考えるかは別として、エリザベス女王の葬儀は、慎重さ、不屈の精神、義務や伝統への忠誠、そして私的な悲しみに直面しても公にはストイックであり続けるといった、ロイヤルファミリーが持つ資質を披露する機会を与えた。

 しかし、ヘンリーはその正反対を体現している。家族のプライベートな会話を暴露し、父親、継母、兄の行動、特に母ダイアナ妃の死後における苦悩と不幸を語り、彼らの結婚式でのブライズメイドのドレスをめぐるメーガンとキャサリンのドラマチックな口論など、威厳のかけらもない詳細を明かしたがる彼は、ウィリアム皇太子や、特にキャサリン妃がこの件について一切公言しないのと著しいコントラストを呈している。

 ブラグマンは、ヘンリーとメーガンのメディア攻勢について、「私にはテレビのリアリティ番組のように感じられます」と述べた。この夫婦は、と彼は付け加えて「恨みを晴らすことができないように見えるという点で、少しトランプ(前大統領)的な感じがします」。

 残念なことに、リアリティ番組の女王の一人、元“The Real Housewives of New York City”のスター、ベセニー・フランケルでさえ、ヘンリーとメーガンはとうとう言い過ぎてしまったと信じている。

「ヘンリー(ハリー)の本のタイトルを“ダーティハリー・ランドリー”に変えるには遅すぎるかしら?」フランケルはインスタグラムで、ベッドに横たわる自分を撮影した動画でこう語っている。彼女はこの本のディテールのレベルを批判した。「どこまでやるの? 私たち、メーガンと一緒に子宮頸がん検診を受けに行くの? つまり、次は何?」(この投稿には「OK。でも、あなたがやったリアリティ番組とどう違うの?」というコメントがついたが、それはもっともな指摘のように思われた)。

 ここ数日、ソーシャルメディアなどで多くの人がメーガンとヘンリーを擁護している。しかし、夫妻を擁護する人の数だけ、「もう十分だ」という人がいる。

「ヘンリー王子の人生のあらゆるディテールと、なぜ彼が自分よりひどい人生を送った人はいないと信じているのか、いちいち聞くことから決して解放されないというワームホールに、私たちはみんな落ちてしまった」と、トーク番組“ビュー”の元司会者メーガン・マケインはツイッターで述べた。「これは決して終わることはない。彼は私たちを決して生かしてはおかないでしょう!」

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