BY TAKAKO KABASAWA, PHOTOGRAPHS BY MASATOMO MORIYAMA
“美味しい暮らし”が育む優しい笑顔
自宅にアトリエを構える二宮さんにとって、料理は心安らぐ息抜きの時間でもある。「作品に追われて朝方近くまで仕事をしなければならない時でも、ちゃんと料理をして食べることは、とっても大切。そして黙って食べるよりも、誰かと食べることも大切な時間」。ご主人との二人暮らしで互いにキッチンに立つため、料理は夫婦のコミュニケーションの場にもなっている。さらに、二宮家にはアーティストとして巣立った教え子も度々集い、食卓はいつでも賑やかな笑い声が満ちているとか。撮影時にも手料理が振る舞われ、サラダに数種類のナッツやドライフルーツをトッピング。「どうせなら、美味しいものが食べたいじゃない。複雑に混ざると味が深くなるの。お料理も染料を作るのとおんなじね。まだアトリエを構えていなかった頃は、シチューを煮込みながら隣のコンロで染料を煮ていたこともあるのよ」と笑いながら手際よく料理を盛り付ける。
装いは心を映すものだからシンプルが一番
年齢とともに、様々なファッションを重ねてきた二宮さん。好みのスタイルを伺うと「80年代のバネッサ・ケネディの装いがとっても素敵で、毎日Instagramを眺めているのよ」と瞳を輝かせる。白シャツにデニムや黒いパンツ、ノーアクセサリーという、究極のモノトーンスタイルに惹かれるのだという。作品も、インテリアも、食卓も……鮮やかな彩りに満ちていただけに意外な答えだった。60代までは様々なファッションを楽しんできた二宮さんだが、70代の今、基本はモノトーン。一番好きなのはグレーのVネックのセーターだという。「徐々に体型が変わってきて、何を着たらいいかわからない時期もありました。今日は似合うけど明日は似合わないこともある、ファッションには、“心”が表れるのね。だから、どんな気分も受け止めて、おおらかで力の抜けたシンプルなものが一番なのよ」。この日は、肩にタックを寄せた「matohu」のセーターに、エプロンのようにバックスタイルを立体的に折り込んだ「mintdesignsミントデザインズ」のホワイトデニム。モノトーンの装いだからこそ、パターンの美しさが印象的だった。
洋服で引き算した分、二宮さんはアクセサリーにデザイン性のある個性を足し算する。青空を切り取ったような陶板焼のリングや、使われない古い扇風機の真鍮に新たな形を与えたピアスなど……二宮さんらしいエピソードが息づく。最後に、心に残るファッションアイテムを伺うと「ユニクロUのドローストリングショルダーバッグ」と軽やかに即答。「教え子に教えてもらったのよ」と優しく微笑んだ。
二宮とみ(染色家)
女子美術大学ファッション造形学科特任準教授・桑沢デザイン研究所非常勤講師を経てnino worksにて、実験教室や作品制作の活動中。著書に『染めのほん』(眞田造形研究所編・デザイン)。5月31日(水)〜6月6日(火)まで銀座三越本館7階のジャパンエディションにて、作品を展示販売予定。詳細はインスタグラム@tomi_ninoにて配信予定。