歌舞伎だけでなく、直近では舞台『西遊記』、映像作品では『翔んで埼玉〜琵琶湖より愛を込めて〜』などの話題作に次々と出演し、それぞれの作品で新たな一面を見せてくれる片岡愛之助。新作歌舞伎として上演される『流白浪燦星(ルパン三世)』では、時代を超えた人気キャラクター、ルパン三世を演じる

BY SHION YAMASHITA, PHOTOGRAPHS BY KAZUYA TOMITA

画像1: 片岡愛之助はどう演じる?
時代を超えた“ダークヒーロー”
歌舞伎版『ルパン三世』の魅力

 1967年に誕生したモンキー・パンチ原作の漫画「ルパン三世」は数々の名作を生んできたが、特にアニメーションのシリーズは1971年に初放送されてから2022年のPART6まで、長きにわたって人気を博している。映画化や実写化なども含め幅広い世代に愛される日本のメガヒットコンテンツとして名高いこの作品が、いよいよ新作歌舞伎として上演される。ルパン三世を演じる片岡愛之助は、歌舞伎を通してどんな“ルパン”を体現してくれるのか。俳優としても充実している“今”の心境についても伺った。

──『ルパン三世』の原作やアニメーションにはどのような印象をお持ちですか? 

 僕は『ルパン三世』の漫画を読み、アニメーションを観て育ってきた世代です。すごく面白いですよね。まさか自分がルパン三世を歌舞伎で役として勤めさせていただくとは思ってもいなかったので、どういう風に表現しようか考えると同時に、難しいことだとも思いました。いろいろと話し合って行き着いたのが、“もし、安土桃山時代にルパン三世の一味がいたら”ということ。歌舞伎は“夢の世界”をご覧いただく演劇です。ある作品では主役の人物がパッと片手を振り上げるだけで、一気に10人くらいの人がとんぼ返りをするなど、あり得ないことが起こるのが歌舞伎なので、安土桃山時代のルパン三世を楽しんでいただけるよう、全力で頑張っていきたいと思います。

──『ルパン三世』に登場する人物は、それぞれに確固たるイメージがあると思いますが、どのように捉えていますか?

 ルパンはダンディーで、面白くて、そしておっちょこちょい。ふざけたことをよく言っていますが、決めるところはビシッと決めます。だから狙ったお宝は巧妙な知恵やテクニックを使って必ず奪っていく。それでいて峰不二子のことは大好きで、とても一途ですよね。お宝を不二子ちゃんにどれだけ横取りされても、“不二子ちゃん一筋”なところは素敵だと思います。
 その不二子ちゃんも可愛いですし、次元と五ェ門も単純に格好いいだけではなくて、ちょっと愛せるところがあります。彼らは盗賊なのに、悪で悪を制するみたいなダークヒーローでもあり、それが痛快で気持ちがいいですね。
 どの人物も本当に見事に描かれていると思います。そしていろんな“愛”がある。人を愛することだったり、友情だったり、彼らの絆みたいなものがあるところに惹かれるのではないでしょうか。

画像2: 片岡愛之助はどう演じる?
時代を超えた“ダークヒーロー”
歌舞伎版『ルパン三世』の魅力

──完成したキャラクターを歌舞伎化することに難しさはありますか?

 漫画やアニメーションのルパンをそのまま演じるわけではないので、“歌舞伎で表現するルパン”だと思っていただけると嬉しいです。でも彼はヒーローでみんなが憧れる存在なので、ファンの方々がイメージしているビジュアルに近づけようと、鬘や衣裳は工夫しました。
 髪型については、歌舞伎の主役によく使われる“生締(なまじめ)”のような髷があるものは違うと思ったので、今回は例えば『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』の仁木弾正のような悪役がつける “燕手(えんで)”という髷を改良してみました。額から後ろへ短い髪が流れているのが特徴で、その髪の長さを調整しました。悪い人を象徴する髪型なので、泥棒のルパンにはふさわしいと思います。
 衣裳は扮装写真の撮影当日に出来たてのものを着てみたのですが、赤と黒の和装でも意外としっくりしていて、歌舞伎版のルパン三世ができたと思います。
 また、ルパンの「不〜二子ちゃ〜ん」とか、銭形警部の「待て〜、ルパン」など、皆さんが聞きたいと思われるお決まりの台詞もしっかり入っています(笑)。

──これまでに演出家の方と新作歌舞伎を創る上でどんなことをお感じになりましたか?

 古典歌舞伎は基本的に歌舞伎俳優が演出しますが、新作歌舞伎では演出家の方が手がけられることがあります。例えば『GOEMON石川五右衛門』のときは歌舞伎とフラメンコのコラボレーションを試みましたが、演出してくださった水口一夫さんは歌舞伎について卓越した知見をお持ちの方なので、安心していろいろなことができました。歌舞伎にあまり詳しくない方だと、僕たち俳優に委ねる方もいらっしゃいます。いろんな演出の仕方を経験してきた中で、今回初めて演出を担当する戸部和久さんは歌舞伎のことをよく知っていて、これまでに何度か演出助手も務めているので、とても心強いです。特に今回の新作歌舞伎『流白浪燦星』では脚本も戸部さんが担当します。脚本と演出が同じ方だと、例えば稽古場で「この台詞はこういうふうに変えたい」と演出家に相談した場合、脚本も手がけていればタイムラグがなく効率的に、その場で検討して解決できるのがいいと思います。

──扮装以外にも、音楽など歌舞伎化する上でこだわっていることはありますか?

 音楽は皆さんがよくご存じのテーマ曲を和楽器で演奏していて、とても高揚感があるようにできていると思います。僕も実際に聴いてとてもワクワクしました。また「義太夫」も取り入れていますので、歌舞伎ならではの世界観が表現できていると思います。ただ、最近の義太夫狂言は、どうしても台詞をためて発してしまうからなのか、同じ演目でも昔より上演時間が長くなる傾向があるようです。
 亡くなった十三世片岡仁左衛門や大和屋のお兄様(坂東玉三郎)が義太夫は「畳むところは畳んで、聴かせるところは聴かせるように演じなければならない」と指摘していらっしゃったのを伺ったことがあります。確かに昔の先輩方が演じていた音源を聴くと、お客様に台詞を聴かせるところはいっぱい張っているんですが、テンポが落ちないように台詞を語っていらっしゃいます。とても大事なことだと思いましたので、新作歌舞『流白浪燦星』の義太夫も今の時代に合ったテンポで運んでいきたいなと思っています。
 暗闇の中を手探りをしながら立ち廻りをする「だんまり」や、本物の水を使う「本水」といった演出など、歌舞伎らしさ全開の舞台作りになっているので、楽しんでいただきたいです。

画像: 片岡愛之助(KATAOKA AINOSUKE) 1972年、大阪府生まれ。1981年十三代目片岡仁左衛門の部屋子となり、南座『勧進帳』の太刀持で片岡千代丸を名のり初舞台を踏む。1992年片岡秀太郎の養子となり、大阪・中座『勧進帳』の駿河次郎ほかで六代目として片岡愛之助を襲名。2008年には三代目楳茂都扇性(うめもと・せんしょう)を襲名し、上方舞楳茂都流四代目家元を継承。本年は映画『仕掛人・藤枝梅安』『キングダム 運命の炎』『ホーンテッドマンション』(吹き替え)『翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜』など話題作への出演が続く。歌舞伎作品の代表作としては『夏祭浪花鑑』の団七九郎兵衛、滝窓志賀之助など早替わりで10役を演じる『鯉つかみ』などがあり、片岡仁左衛門からは『義賢最期』の木曽義賢などの義太夫狂言の主人公の役を継承している。さらに兵庫県豊岡市で上演されている永楽館歌舞伎では座頭を勤め、独自の方向性で歌舞伎界を支えている

片岡愛之助(KATAOKA AINOSUKE)
1972年、大阪府生まれ。1981年十三代目片岡仁左衛門の部屋子となり、南座『勧進帳』の太刀持で片岡千代丸を名のり初舞台を踏む。1992年片岡秀太郎の養子となり、大阪・中座『勧進帳』の駿河次郎ほかで六代目として片岡愛之助を襲名。2008年には三代目楳茂都扇性(うめもと・せんしょう)を襲名し、上方舞楳茂都流四代目家元を継承。本年は映画『仕掛人・藤枝梅安』『キングダム 運命の炎』『ホーンテッドマンション』(吹き替え)『翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜』など話題作への出演が続く。歌舞伎作品の代表作としては『夏祭浪花鑑』の団七九郎兵衛、滝窓志賀之助など早替わりで10役を演じる『鯉つかみ』などがあり、片岡仁左衛門からは『義賢最期』の木曽義賢などの義太夫狂言の主人公の役を継承している。さらに兵庫県豊岡市で上演されている永楽館歌舞伎では座頭を勤め、独自の方向性で歌舞伎界を支えている

──2023年は4年ぶりに出石永楽館で「第十三回永楽館歌舞伎」が上演されました。久しぶりに見た舞台からの景色はいかがでしたか?

 永楽館(明治34年開館)は芝居小屋で、歌舞伎というものの原点であることを改めて実感しました。かつては照明がなくて蝋燭で舞台を照らしていたとか、江戸時代にタイムスリップしたような気分を味わうことができます。今までいろんな演目を上演させていただいてきましたが、実はアンケートで一番人気の演目は「口上」なんです。演目とは言えないのですが、襲名披露公演の改まった口上とは違っていて、お客さまとの言葉のキャッチボールやご当地の話題などが喜ばれているようです(笑)。

──コロナ禍を経て、ご自身を取り巻く環境で、何が一番変わったと思われますか?

 2023年9月に市川團十郎襲名披露公演が福岡で行われました際に(中村)芝翫のお兄様からお声がけいただいて、同世代の人たちと食事をする機会がありました。そのときに皆で語り合ったのですが、コロナ禍で、何人か名だたる先輩が亡くなられましたことで、僕たちの世代は大きな変化を迎えたと思います。自分ではまだまだ若いと思っていますが、気がつけば51歳。歌舞伎界では40、50代は“はなたれ小僧”なので自分のことをまだ若手だという認識でしたが、僕たちもたくさん頑張らなければならない状況になりました。コロナ禍になる前は先輩方が昼夜の部で一本ずつ演し物の主役をなさっていて、僕らの世代は脇で演じるというのが当たり前でしたが、今はそうは言っていられません。僕らの仕事は正解もなければ、終わりもない。一生修行をし続ける訳です。
 それと同時に、僕らの世代はこれからの歌舞伎を観てくださるお客様を見つけなくてはなりません。ご年配のお客さまの中には、コロナ禍以降ご家族に止められて観劇に来られなくなった方もいらっしゃるそうで、客席もなかなか埋まらないことがあるんです。だからこそ新しいお客様にご覧いただくために、僕たちも育っていかないといけません。まずは歌舞伎をご覧いただくこと。新作歌舞伎『流白浪燦星』は、そのきっかけとしてふさわしい演目だと思います。

画像3: 片岡愛之助はどう演じる?
時代を超えた“ダークヒーロー”
歌舞伎版『ルパン三世』の魅力

──50代を迎え、人としても俳優としても円熟した時期をお過ごしと思います。俳優として掲げる目標があれば教えてください。

 50代の目標としては、海外公演を実現させたいです。僕はその年代ごとに自分なりに一つの目標を決めて達成してきたのですが、今は海外で歌舞伎を上演したいと考えています。
 今は具体的にどこに行きたいということまでは考えてはいません。ご縁もありますし、自分の意志だけで決まることでもないですし、演目についても場所によってふさわしいものは違うと思っています。劇場なのか、それとも屋外という可能性もありますし、あるいはもしかすれば王宮ということもあるかもしれない(笑)。そうした海外ならではの場所なのか、行く土地と舞台が決まったらその場所にふさわしい演目を考えたいと思います。

画像: ©SHOCHIKU ©️MONKEY PUNCH

©SHOCHIKU ©️MONKEY PUNCH

新作歌舞伎『流白浪燦星』
会場:新橋演舞場
住所:東京都中央区銀座6丁目18-2
上演日程:2023年12月5日(火)〜25日(月)
11日、18日は休演 13日夜の部貸切
問い合わせ:チケットホン松竹 TEL. 0570-000-489
チケットWeb松竹

(出演)
片岡愛之助、尾上松也、市川笑三郎、市川笑也、市川中車、尾上右近、中村鷹之資、市川寿猿、市川猿弥、坂東彌十郎ほか。
(スタッフ)
原作:モンキー・パンチ 脚本・演出:戸部和久

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