BY REIKO KUBO
待望の続編は、ホアキン・フェニックスとレディー・ガガの強力タッグで魅せる!『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』
スタンダップ・コメディアンになる夢を持ちながら、ピエロメイクの大道芸人として孤独に生きてきたアーサー・フレックが、理不尽な社会の反逆者、民衆の代弁者として祭り上げられた前作『ジョーカー』。ホアキン・フェニックスと監督トッド・フィリップスが造り上げた“ジョーカー”は、社会の歪みから生まれたリアルなアイコンとしてDCコミックの人気ヒーロー、バットマンの宿敵というキャラクターを超えて社会現象化した。世界興収1,500億円を記録したメガヒット作の続編を望む声に対し、その完成されたアーサーの物語に続編は要らないとする反対意見も多数上がった。何より、ホアキンの驚異の極限演技はそう易々と再現できるものとは思えなかった。
ところがホアキンは再び完璧なアーサー・フレックの姿でスクリーンに戻ってきた。痩せこけ、暗い瞳に絶望をたたえたその男が、病院とは名ばかりの牢獄・アーカム州立病院に収監されて数年経ち、その間にアーサーの物語はTVドラマ化され、塀の外の“ジョーカー”人気はますます高まっているという設定だ。そしてアーサーの起こした殺人事件の裁判が迫っている。女性弁護士(キャサリン・キーナー)は、アーサーの起こした凶悪事件は幼少期のトラウマによる心神喪失が原因としてアーサーの無罪を主張する構えだ。
そんなある日、アーサーは院内で音楽セラピーを受ける女性リー(レディー・ガガ)と出会う。アーサーの頭の中ではいつも母と聴いていたレコードから流れる音楽が回っていた。TVドラマを見て“ジョーカー”に惚れ込んだリーと恋に落ちたことで、音楽が歌となり彼の口から飛び出し、狂気とともにリーに感染してゆく。“ジョーカー”と歌い踊るのはレディー・ガガ。タイトルの「フォリ・ア・ドゥ」とはフランス語で「二人狂い」。一人の妄想が他人に感染し、同じ妄想を複数人で共有する精神障害を表す医学用語でもあるという。前作の狂えるジョーカーがカリスマとして熱狂的に迎えられたのを受け、フィリップス監督が今を照らして考え抜き、更なる挑戦として捻り出したのが愛の法廷劇とミュージカル、そして夢から覚めた現実が待つ結末。監督の期待をも超えたホアキンの凄みにシビれる138分だ。
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』
10月11日(金)全国劇場公開
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中朝国境を舞台にZ世代の心のうちを丹念に描く、新感覚ロードムービー『国境 ナイトクルージング』
中国東北部、北朝鮮との国境沿い、中国と朝鮮の文化が混じり合う朝鮮族自治州の延吉。上海から来たハオフォンは友人の結婚式でこの街を訪れたが、その目的はそれだけではないような翳りを纏っている。時間つぶしに参加したバスツアーで携帯電話を失くした彼は、ツアーガイドのナナと彼女の男友達シャオと誘われるまま飲み会に繰り出す。朝まで飲み明かしフライトを逃してしまったハオフォンを再び誘い、バイクに3人乗りして国境クルージングに繰り出してゆく。天然の巨大スケートリンクと化した天池を経て、目指すはハオフォンが見たいと望んだ氷点下の長白山へ。
偶然出会った男女3人は、互いの過去や孤独に踏み込むことなくそっと寄り添い、ひととき自由の風に身をゆだねて息を吹き返す。彼らの鬱屈が少しずつ溶け出してゆく時間を切なくも鮮やかにすくい取り、観る者の心をふるわせるのは『イロイロ ぬくもりの記憶』(2013年)でカンヌ国際映画祭のカメラドール(新人賞)を受賞したアンソニー・チェン監督。韓国映画の中でしばしば犯罪都市として描かれる延吉が、このシンガポール出身の俊英の手にかかり、ニュアンスのあるフォトジェニックな風情を見せはじめるのにも瞠目させられる。『唐人街探偵』(2015年~)のリウ・ハオランや『少年の君』(2019年)のチョウ・ドンユイなど、日本にも多くのファンを獲得している若手人気俳優から、ふとした瞬間に魅力的な表情も引き出す手腕も見事だ。
『国境ナイトクルージング』
10月18日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
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ジャンヌ・モローの監督としての実力に酔いしれる!『映画作家 ジャンヌ・モロー』
ルイ・マルの『死刑台のエレベーター』やフランソワ・トリュフォーの『突然炎の如く』などヌーヴェル・ヴァーグの傑作を残し、フランスのみならずオーソン・ウェルズやルイス・ブニュエルをはじめ世界中の巨匠のミューズとなった大女優ジャンヌ・モロー。そんな彼女がO・ウェルズに背中を押され、監督として初めてメガホンを取ったのが1976年の『リュミエール』だ。彼女自身が半自伝的な大女優サラを演じながら、4人の女友達の欲望や人生の葛藤を描き出した監督デビュー作は、シスターフッドを扱った最初の映画の1つといわれている。
そしてもう1本の国内劇場初公開となるモローの監督作が、伝説の女優を訪ねたインタビュー映画『リリアン・ギッシュの肖像』(1983年)。D・W・グリフィスの『國民の創生』『イントレランス』『散りゆく花』等で儚げな少女役で世界を魅了した歴史的女優が、映画への情熱や女優としての来し方を語る作品だ。「もし子どもがいて、1つだけ贈り物をするとしたら何にしますか」と問われた90歳のギッシュが、90歳とは思えない愛らしい微笑みをたたえて「それは好奇心ね」と答える場面は必見だ。孤独については「プライバシーは唯一残された贅沢だわ」と語り、緑の中の一本道を独り去っていく後ろ姿に監督モローの敬愛と共感が重ねられている。
前述の『リュミエール』、田舎の祖母の家でヴァカンスを過ごす12歳の少女のひと夏を瑞々しく描いた『思春期』(1979年)を加え、「映画作家 ジャンヌ・モロー」と題して彼女の監督作3本をスクリーンで味わえるチャンスが到来する。
「映画作家 ジャンヌ・モロー」
『リュミエール』『思春期』『リリアン・ギッシュの肖像』の3本を上映
10月11日(金)、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
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