BY ALICE NEWELL-HANSON, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI
「自分がマックスマーラに気に入ってもらえるとは思いもしなかった」と語るのは、このブランドのクリエイティブ・ディレクター、イアン・グリフィス。勤続32年目、現在57歳の彼は、イギリス・ダービーシャー育ちの元パンク・ロッカー。1987年にマックスマーラ主催の学生向けコンテストで優勝し、同社に入社した。ヘッドデザイナー就任後は、不朽の名作といわれるアイテムを粛々と作り続けてきた。張りのある素材の完璧な白いシャツ、見栄えの良いシガレットパンツ、かの有名な「テディベアコート」などだ。若い頃、グリフィスは彼のヒーローであるデヴィッド・ボウイに触発されて、アバンギャルドな服装で街の伝説的クラブ「ハシエンダ」へ行ったりと、自己イメージを模索していた。「こういう面は今も私の中に残っています。そんなふうには見えなくてもね」と彼。今では、サヴィル・ロウ仕立てのスーツが彼のユニフォームだ。
マックスマーラ社で働き始めた当初は、フランス人のスタイリスト、アンヌ=マリー・ベレッタのもとでジュニア・デザイナーとして働いていた。ベレッタは、80年代にワーキング・ウーマンの服装の原型をつくったともいえる人物で、ブランドのアイコン的存在であるキャメルのダブルコート「101801」を生み出した。彼女は今も、グリフィスに多大な影響を与える存在だ。ベレッタは「男性中心の支配層とも堂々と渡り合える女性」のための服をつくったのだとグリフィスは言う。「私もそういう女性、ただし現代に生きるそういう女性のために、デザインをしているのです」