PHOTOGRAPH BY MASANORI AKAO, HAIKU SELECTION AND COMMENTARY BY YUKI HORIMOTO, CALLIGRAPHY BY KASETSU, TEXT BY HIROKO NARUSE
翠玉の双眸に永久冴えにけり
―― 堀本裕樹
豹のエメラルドの眼差しが印象的だ。エメラルドの和名は翠玉。翠玉の二つの透徹した眸(ひとみ)に映るのは、永久=永遠の冴えざえとした時間の行方か。「冴ゆ」は寒さが極まった透明感を伴う冬の季語。「冴えにけり」の響きによって、果てしなく時間が澄み渡ってゆく感覚を表した。豹の眼に見つめられる澄明な優美。
咲き満ちてこぼるゝ花もなかりけり
―― 高浜虚子
大木の満開の花が想像される。この句の「花」は桜を指すが、今すべてが咲き誇り零(こぼ)れる花片は一つもない。このまま散ることも忘れて栄華を保ち続けるかのような圧倒的な美しさが見る者の心を満たしてゆく。満たしながらも奥ゆかしい静けさが漂っている。その静謐の中に、そこはかとなく優艶が宿る気高さ。
手の薔薇に蜂来れば我王の如し
―― 中村草田男
手に真紅の薔薇を持っている。一本でもいいが、幾本か握る光景を思い浮かべると一層華やかだ。その香りに誘われて蜂がやって来る。薔薇に蜂。どちらも棘と針という鋭利を宿している。まるで王を護衛する兵隊のように武器を隠し持っているようだ。そんな薔薇と蜂を我が物にした者は王様になった気分。
流星は旅に見るべし旅に出づ
―― 大串 章(あきら)
地球に近づいた宇宙塵が高熱を発しながら燃え尽きる現象を流星という。都会に定住していては見られない一瞬の天体ショー。さあ、秋の美しい星空を求めて旅に出よう。流星は旅の途上において仰ぎ見なければならない。旅人の眼を走り抜けていった星屑も宇宙を旅してきたのだ。時間を旅する人と流れ星。
堀本裕樹(YUKI HARIMOTO)
俳人。1974年和歌山県生まれ。俳句結社「蒼海」主宰。句集『熊野曼陀羅』で第36回俳人協会新人賞受賞。近著に『散歩が楽しくなる俳句手帳』(東京書籍)など。句集『一粟』刊行を記念し、書家の華雪氏とともに、句の世界を表現する展覧会『ことばの海で』を東京・九段南のGOTTA九段下にて、4月15日(金)~17日(日)開催
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華雪(KASETSU)
書家。1975年京都府生まれ。文字の成り立ちと現代の事象との交錯を漢字一文字として表現する作品づくりに取り組み、国内外で展覧会やワークショップを開催する。著書に『ATO跡』(between the books)、『書の棲処』(赤々舎)など多数
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