BY LAURA MAY TODD, TRANSLATED BY MAKIKO HARAGA
現在40歳のサバト・デ・サルノがケリングから2022年11月に仕事を打診されたとき、その内容は謎に包まれていた。同グループは世界中でラグジュアリーブランドを展開するコングロマリットで、アレキサンダー・マックイーン、バレンシアガ、ボッテガ・ヴェネタ、グッチ、サンローランなどのメゾンを傘下にもつ。「面接の連絡のときも、どのメゾンかは教えてくれなかった」と彼は言う。役職も、だ。当時はアレッサンドロ・ミケーレがグッチのクリエイティブ・ディレクターを退任することは未発表であった。やがて明かされたその仕事は、「自分には一生手が届かないと思っていた」という。「サインした契約書を抱えて寝たよ。自分の手もとにあることを一晩中確認したくて」
デ・サルノは、イタリアのナポリに近いチッチャーノという小さな村で育った。母マリアと父ラッファエレのもとに生まれた3 人兄弟の長男で、本人いわく、自己表現がうまくできずにもがいていた。同性愛者でファッション好きの若者には居場所がないと感じ、19歳で故郷を離れてミラノのインスティチュート・セコリでデザインとパターンメイキングを学んだ。プラダとドルチェ&ガッバーナ(いずれも短期契約)を経て、2009年に入社したローマのヴァレンティノに腰をすえた。14年間でさまざまな部門を経験してファッション・ディレクターにのぼりつめ、クリエイティブ・ディレクターのピエールパオロ・ピッチョーリの右腕となる。
グッチはデザインの拠点をローマからミラノ─デ・サルノがもっともくつろげる街─へ移すと発表した。「僕のミラノへの愛は深い」と彼は言う。「この街で、本物のサバトになれたんだ」。当然、グッチでのデビュー・コレクション(2023年9月)にはミラノのエスプリがしっかりと刻まれていた。強烈なマキシマリズムから方向転換し、控えめなミラノのラグジュアリーを独自の視点で体現した。超ミニ丈のベビードールドレスやロゴがあしらわれたマイクロショートパンツ、フリンジつきの裾が揺れるスカート、バーガンディや黄緑色のコートが登場した。「僕は、打ち合わせの場で『これは好き、あれはダメ』とか『この白いシャツは、ちょっと考えて明日返事する』なんて言わないよ」とデ・サルノは言う。「生地の選定から刺しゅうの確認まで、服作りの全工程に自ら関わりたいんだ」
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