BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY TOMOKO SHIMABUKURO
海外で活躍する日本人醸造家は多いが、中でも評価が高いのがニュージーランド「コヤマ・ワインズ」の小山竜宇(たかひろ)だ。
ワイナリーは、南島のクライストチャーチからほど近い注目のワイン産地、カンタベリー地区ワイパラ・ヴァレーにあり、その安定感のある造りには日本にもファンが多い。例えば、「コヤマ ウィリアムス・ヴィンヤード ピノ・ノワール2013」には豊かな果実味と繊細な酸味の奥にニュージーランド独特の涼しげなニュアンスが感じられ、飲む人を魅了する。その彼が、今年同じくワイパラ・ヴァレーにある有名ワイナリー「マウントフォード・エステート」を取得、オーナー兼醸造家となり、話題となっている。
「マウントフォード・エステート」は1991年に設立されたブティック・ワイナリーで、設立当時は冷涼なテロワールを反映した高品質のシャルドネとピノ・ノワールを生産、新しい産地の名声を高めたワイナリーとして知られる。そのワインは、世界的に有名なイギリスのワインジャーナリスト、ジャンシス・ロビンソンによってニュージーランドのベスト8に選ばれたこともあるほどだ。
小山は、リンカーン大学で醸造を学んでいた時に「マウントフォード・エステート」と出会い、アシスタント・ワインメーカーとして働き始めた。後に独立し、自身の「コヤマ・ワインズ」を設立したが、その間、「マウントフォード・エステート」はオーナーが変わり、経営難に陥るなど、衰退の途をたどるようになってしまった。小山はこの状況を見かね、自分を醸造家として育ててくれた古巣のためになにかできないかと、自らがオーナーになることを決意した。