BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO
カリフォルニアワインにおいて、“ニュー・カリフォルニア・スタイルの旗手”として、今、カルト的人気を誇るのが「アルノー・ロバーツ・ワインズ」だ。生産量の希少性はもちろんだが、彼らのワインが注目を浴びるのは、なにより畑選びの秀逸なセレクトセンスにある。たとえば、クラリー・ランチのシラーやフェロム・ランチのカベルネ・ソーヴィニヨンなど、彼らが栽培する畑の多くは、カリフォルニアワインの歴史において品種の栽培極限地であったりと、その地理的条件からまったく注目されていなかった。しかし彼らの手にかかると、その“無名の畑”から繊細で美しいワインが誕生する。まるで畑が息を吹き返したかのような、テロワールを如実に物語るワインは、またたく間にエッジーなワインファンを魅了した。
「アルノー・ロバーツ・ワインズ」は、ネイサン・リー・ロバーツとダンカン・アルノー・マイヤーズというふたりのおさななじみによるコラボ・ワイナリーで、2002年に設立された。彼らが本格的にワイン造りを始めたきっかけとなったのはその前年のこと。ふたりで造った1樽のワインが、親しい業界関係者から高い評価を得たのだ。この5月に初来日を果たしたネイサン・ロバーツはこう振り返る。
「最初は、ジンファンデルとプティ・シラーが混植されている畑のブドウを使って、遊び半分のつもりで造りました。今のように緻密な醸造ではありませんでしたが、これが予想以上に周囲の評判がよかった。なにより、私たちにとってはワインに対する“学び”があった。これを機に、本格的にワイナリーを立ち上げようということになったのです」
当時、彼らはまだ30歳と若く、運転資金も十分ではなかった。だが、「ワイン造りは年に一度しかできない、ならば早く始めて、ひとつでも多くのワインを」と決心したという。