BY YUKA OKADA
ふだんから少しでも食にアクティブに生きている読者なら、近年、世界のレストランを食べ歩くフーディ(foodie)たちがSNSで投稿するなど、盛り上がりを見せる“50 Best”というワードを見聞きしたことがあるだろう。一部ではレストラン業界のアカデミー賞とも称され、世界の食の識者たちの投票によって、1位から50位までランキングを決定するアワードである。去る6月25日、今年度の「The World’s 50 Best Restaurants 2019」(以下World’s 50 Best)のアワードセレモニーが、シンガポールのマリーナベイサンズで開催された。
まず初めに断言しておくべきは、筆者はフードジャーナリストでもいわゆるフーディでもなく、ただ食いしん坊なだけのエディターだということ。そんな私がなぜWorld’s 50 Bestを実際に目撃してみたいと思ったのか。それはここ数年、ファッションやアートに匹敵するほどに、ガストロノミーというカルチャーそのものがトレンドになっている背景を、食いしん坊なりに探ってみる時期にきていると感じたからにほかならない。
2002年にスタートした「The World’s 50 Best Restaurants」を主催するのは、老舗週刊誌『The Grocer』などを発行する1862年創業のイギリスの出版社、William Reed Business Mediaだ。17回目を数える今年は、世界26の国と地域ごとに、各チェアマンを含む評議委員40人、総勢1,000人を超える食の識者が「一年半以内に実際に食事をした10軒(自国のレストランはうち6軒まで)」をインターネットで投票し、1位から50位までのランキングを決定する。
その発表の場となるアワードセレモニーには、過去に1位を獲得し、投票対象にならない“Best of the Best”のシェフはもちろん、50位以上のランクインが予想されるシェフ、そしてセレモニーに先がけてインターネットで発表された51位から120位のシェフらが集結(ちなみに日本からは、62位に「日本料理 龍吟」、63位に「フロリレージュ」、91位に「鮨 さいとう」、93位に「ラシーム」、107位に「イル・リストランテ ルカ ファンティン」、120位に「SUGALABO」がリストインしていた)。このセレモニーは、シェフたちの定期的な情報交換の場としても重宝されているという。
なお、このセレモニーは2003年から2015年まではWorld’s 50 Bestが生まれたイギリスのロンドンで開催。その後、2016年はニューヨーク、2017年はオーストラリアのメルボルン、2018年はスペインのバスクと、ガストロノミーが観光の代名詞になっている国と地域で行われてきた。今回2019年のシンガポールは、アジアでは初の開催地となる。
迎えた当日、インビテーションに明記されたマリーナベイサンズの巨大なボールルームに到着すると、World’s 50 Bestのメインスポンサーであるサンペレグリノ&アクアパンナを筆頭に、各種パートナー企業とマリーナベイサンズのレストランによるフードスタンドでケータリングがふるまわれ、カクテルレセプションがスタート。
そこにシェフが一人、また一人とやってくるのだが、ガストロノミー業界ではロックスターなみの存在ともいえる彼らは、この日のためにシンガポール入りした各国メディアやジャーナリストにひっきりなしに写真やコメントを求められる。とはいえ、例えば多くのファッションデザイナーやコンテンポラリーアーティストとは違って、誰に対してもオープンマインドで対応するその姿勢は、日々レストランという舞台でリアルなゲストを相手にしているシェフならではの粋だと感じた。
そうしてたっぷり3時間あまりを社交についやしたあと、マリーナベイサンズ内のサンズシアターに移動。いよいよアワードセレモニーが始まると、登場した進行役のホストがテンポよく、それぞれのレストランのショートストーリーを前置きに、50位からを発表していく。
ランキングを聞いたオーディエンスの素直なリアクションを背中に受けながら、名前を呼ばれたレストランはシェフを中心にチーム全員でステージに上がり、トロフィーを受け取る。結果的に日本勢のランクインはというと、昨年と同じ22位に“里山キュイジーヌ”を貫く重鎮として東京・南青山の成澤由浩シェフによる「NARISAWA」、最上位は11位に長谷川在佑シェフによる東京・外苑前の懐石料理「傳(でん)」が呼び上げられた。