6月25日、シンガポールで開催された「The World’s 50 Best Restaurants 2019」。近年、レストラン業界のアカデミー賞とも称されるこの“食の祭典”に初参加したエディターの岡田有加が、現地の模様をレポート

BY YUKA OKADA

「傳」は昨年2018年も日本勢最上位として45位から17位にジャンプアップし、最も順位を上げたHighest Climber Awardを受賞していて、世界から見た今現在の日本のファインダイニングの顔として証明されたかたちだ。

画像: 受賞直後のステージでのチーム「傳」。なお、傳はWorld’s 50 Bestのパートナー企業の一つで仏リモージュの食器ブランド「Legle(レグル)」がホスピタリティにおける1位を選ぶArt of Hospitality Awardも同時受賞。彼らの弾ける笑顔が日頃のホスピタリティを物語るよう。50 Bestではほかに、Best Pastry ChefやBest Sastainable Restaurantなど、スポンサーが冠の部門別アワードも設けられている

受賞直後のステージでのチーム「傳」。なお、傳はWorld’s 50 Bestのパートナー企業の一つで仏リモージュの食器ブランド「Legle(レグル)」がホスピタリティにおける1位を選ぶArt of Hospitality Awardも同時受賞。彼らの弾ける笑顔が日頃のホスピタリティを物語るよう。50 Bestではほかに、Best Pastry ChefやBest Sastainable Restaurantなど、スポンサーが冠の部門別アワードも設けられている

 栄えある1位には、イタリアとの国境に位置するフランス・マントンのフレンチ「Mirazur」が輝き、アジアの最上位はタイ・バンコクの「Gagan」(4位)。ベスト10以内にはペルーのリマから「Central」(6位)と「Maido」(10位)の2軒、デンマーク・コペンハーゲンから移転した新生「Noma」(2位)と「Geranium」(5位)の2軒、スペインからアクスペの「Asador Etxebarri」(3位)とサンセバスチャンの「Mugaritz」(7位)とバルセロナの「Disfrutar」(9位)の3軒、8位にパリの「Arpage」がランクインした。

画像: 昨年3位だった「Mirazur」は、昨年1位の「Osteria Francescana」(前述)と2位の「El Celler de Can Roca」がBest of the Best枠で殿堂入りしたため、多くが今年の1位を予想していた。自家農園で採れた野菜で自然の生命力を表現するシェフのマウロ・コラグレコはアルゼンチン出身。その多様なルーツを表した複数の国旗を手に歓喜

昨年3位だった「Mirazur」は、昨年1位の「Osteria Francescana」(前述)と2位の「El Celler de Can Roca」がBest of the Best枠で殿堂入りしたため、多くが今年の1位を予想していた。自家農園で採れた野菜で自然の生命力を表現するシェフのマウロ・コラグレコはアルゼンチン出身。その多様なルーツを表した複数の国旗を手に歓喜

 ここで、「50位以内に日本からたった2軒だけ?」「50位以下でも京都や地方のお店はゼロ?」と思った人もいるだろう。私もまったく同じ感想である。海外の代表的なシティでは、今やSUSHIだけでなくIZAKAYAまでが市民権を獲得し、メニューにはSAKE、WAGYU、DASHI、MATCHA……となじみのある日本語が容易に発見できる時代。何より、あるていど世界を旅したうえで、自分の舌をもって「経済やテクロノジーでは負けても、和食だけは世界に勝るコンテンツ」と根拠なき確信を持つ読者も少なくないのではないだろうか。

 その理由を、World’s 50 Bestのボーター(投票権者)がファーイーストの日本にまで食べに来ていないから――とするのも間違いではなさそうだが、今回のランキングへのそんな素朴な疑問について、2013年からWorld’s 50 Bestの日本でのチェアマンを担う、コラムニストで美食評論家でもある中村孝則は次のように語る。

画像: アワードセレモニー後にステージに集合した50位以内のシェフたち。赤いストールは歴代アワードの受賞者の証。アジアからは開催地シンガポールの18位に「Odette」、41位に香港の「The Chieman」、45位にバンコクの「Suhring」、48位に上海の「Ultraviolet by Paul Pairet」がランクイン。120位まで全てのランキングは 公式サイト で確認できる

アワードセレモニー後にステージに集合した50位以内のシェフたち。赤いストールは歴代アワードの受賞者の証。アジアからは開催地シンガポールの18位に「Odette」、41位に香港の「The Chieman」、45位にバンコクの「Suhring」、48位に上海の「Ultraviolet by Paul Pairet」がランクイン。120位まで全てのランキングは公式サイトで確認できる

「ミシュランや食べログといったメディアの評価基準、また日本のグルマンの多くの関心はレストランのお皿のなかの世界、つまり味が中心ですが、World’s 50 Bestに関しては、第一においしいのは当たり前。そのうえで、シェフをはじめスタッフのパフォーマンス、建築、インテリア、食器、環境、土地など、総合的なファインダイニングを選んでいる。そういう意味で、この結果は、日本のレストランが世界レベルの審査員を満足させるのにまだまだ何かが足りないと素直に受け止める必要があるし、『傳』は彼らの求めるものを探求し、それに応えているのだと思います。

審査員たちはそこに目指すべきレストランがあれば、日本に限らず、どんな辺鄙な国や地域にも出かけて行くはず。これは逆に言えば、東京だけでなく地方にも、ファインダイニングの力で世界の美食家や観光客を呼び込めるチャンスがあるということでもある。日本では人々が外国を旅しなくなり、引きこもりというワードがトレンド入りする時代でもありますが、一方で、世界のシェフがゲストを楽しませるためにいったいどれほどのことをしているか。World’s 50 Bestはそうした優れたレストランを紹介するひとつのガイドでもありますから、次に海外を旅するときに『こんなレストランもあるんだ』と知るユニークなコンテンツとしてうまく利用してほしいですね」

画像: アワードセレモニー当日の昼間には、名門ホテルのラッフルズに誕生したばかりで、フランスの女性シェフであるアンソフィー・ピックの「La Dame de Pic」のアジア初となるレストランで、各国の女性リーディングシェフらを囲んでのエクスクルーシブな女性メディア限定のランチも開催

アワードセレモニー当日の昼間には、名門ホテルのラッフルズに誕生したばかりで、フランスの女性シェフであるアンソフィー・ピックの「La Dame de Pic」のアジア初となるレストランで、各国の女性リーディングシェフらを囲んでのエクスクルーシブな女性メディア限定のランチも開催

 ちなみに少し本筋からは外れるが、幻ともいわれる限定ケーキを購入したゲストだけが予約できる東京・代々木上原の一日1組限定のレストランで、世界中のセレブリティやシェフが来店する「été(エテ)」の若き女性シェフ、庄司夏子は、以前「一流のお客さまが求めるのはつねにプライベートな対応。それをやらなくなった瞬間に離れていく。『うちの規則が』と店の都合を言ったところでお客さまにはそれぞれのストーリーがあるわけで、それをいかに熟知して、相手の懐に入っていけるかが勝負」だと語っていた。

 残業や休日出勤を画一的に回避しようという昨今のムードは、はたしてすべてが正しいのか。日本が誇る“おもてなし”は一方的になってはいないだろうか? World’s 50 Bestクラスのゲストにアピールするなら、ときに常識をもポジティブに疑ってみることが必要なのかもしれない。

画像: ランチに参加した女性シェフたち。前列中央が女性シェフで唯一ミシュランの3スターを獲得しているアン・ソフィー・ピック。前列最右は2018年のAsia’s 50 Best RestaurantsでBest Female Chefに選ばれ、今回のWorld’s 50 Bestで95位にランクされたタイ・バンコクの「Gaa」のGarima Arora PHOTOGRAPHS: ©THE WORLD'S 50 BEST RESTAURANTS

ランチに参加した女性シェフたち。前列中央が女性シェフで唯一ミシュランの3スターを獲得しているアン・ソフィー・ピック。前列最右は2018年のAsia’s 50 Best RestaurantsでBest Female Chefに選ばれ、今回のWorld’s 50 Bestで95位にランクされたタイ・バンコクの「Gaa」のGarima Arora

PHOTOGRAPHS: ©THE WORLD'S 50 BEST RESTAURANTS

 なお、佐賀新聞をはじめ一部報道によると、来年2020年のAsia’s Best 50 Restaurantsのアワードセレモニーの開催地が佐賀県に決定したとの話もある。アジアという枠にはなるが、人によっては初めて日本にやってきた各国チェアマンやボーターが、地方に集結し、そこから津々浦々のファインダイニングを旅してもらう格好の機会を活かさない手はない。

 そして世界を旅する旅人として、われわれもそこに“50 Best”と関連するようなレストランがあったなら好奇心のままチェックしてみたり、キッチンからシェフがテーブルに挨拶に来たなら、インスタ投稿の手を一瞬止め、感想を言葉にするだけでなく、お気に入りの日本のレストランをすすめてみたりといったことにもアクティブでありたいものだ。

 食いしん坊なりに。

 

This article is a sponsored article by
''.