世界有数の素晴らしい自然が残るフィンランド。ここに、森のエキスを丸ごと閉じ込めたようなクラフトジンがある。名だたるコンペティションで世界No.1のタイトルを獲得した「アークティック ブルー ジン」。その誕生の物語には、自国の森を愛する人たちの想いがあった

BY MIKA KITAMURA

 森と湖の国、フィンランド。美しい自然、オーロラ、クラフトデザイン、ムーミン…… 魅力に満ちたこの国に、素晴らしいクラフトジンがあるのをご存知だろうか。ドイツで開催された世界的に権威のあるスピリッツのコンペティション「ワールド・スピリッツ・アワード(WSA)」で、「スピリッツ・オブ・ジ・イヤー・2018」と「ダブル・ゴールド」をW受賞。その後も世界最大規模の「サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション(SFWSC)」でも、米国トップを意味する「ベスト・イン・ショー」、「ダブル・ゴールド」受賞などの快挙を成し遂げた。

 このジンを初めて口にしたとき、「森を丸ごと閉じ込めたような」という形容詞が浮かんだ。グラスを顔に近づければ、清々しい樹々の香り。樹の幹に顔を寄せたときに感じる匂いだ。口に含めば、みずみずしい風味が広がり、甘い余韻がゆっくり喉へ抜けていく。余韻の深さ、長さがこのジンの魅力だ。もしかすると、葉の上にころがる水滴は、こんなに甘いのかもしれない。このジンをつくったミコ・スプーフに話を聞いた。

画像: 蒸留マイスター、アスコ・リナネンが厳しく品質を管理。量より質を重んじるポリシーが稀なるジンを生み出す

蒸留マイスター、アスコ・リナネンが厳しく品質を管理。量より質を重んじるポリシーが稀なるジンを生み出す

 蒸留所の歴史は浅い。フィンランドの自然を閉じ込めたようなスピリッツをつくりたいと考えたミコ・スプーフが、蒸留のマイスターや料理人を呼び寄せてチームを作り、ジンをつくり始めたのが2016年。なぜジンだったのか。

「あるとき私は、フィンランド人がいちばん誇りに思う、この国の森を活用して何かをつくろうと思い立ちました。それにはジンだと。フィンランドではジンもウイスキーもよく飲まれています。実際、私はどちらも大好きですが、ウイスキーづくりには3〜12年の時間を要します。それでは資金がもたない。多くのウイスキー会社は、ウイスキーをつくる合間にジンをつくることで資金繰りを図っています。ジンは短期間で簡単にできるのです。それもあって、ジンをつくろうと。でも、この考えは甘かったのです」

画像: 地球のもつエネルギーをも感じる、世界で最も美しいといわれるフィンランドの自然。コリ国立公園は、同国の作曲家シベリウスが交響詩「フィンランディア」のインスピレーションをここで得たことでも知られる。フィンランドの森林率は72.9%。先進国の中で1位。日本は68.5%で3位

地球のもつエネルギーをも感じる、世界で最も美しいといわれるフィンランドの自然。コリ国立公園は、同国の作曲家シベリウスが交響詩「フィンランディア」のインスピレーションをここで得たことでも知られる。フィンランドの森林率は72.9%。先進国の中で1位。日本は68.5%で3位

 ミコ・スプーフたちは、ヘルシンキから北東へ450km、ロシアとの国境に近い北カレリア地方にある「コリ国立公園」近くに蒸留所を構えた。コリ国立公園は森と湖が連なり、フィンランドに約40ある国立公園の中でも、特に美しいとされている。「ここは、フィンランド人にとって聖なる場所と言われています。日本人にとっての富士山のような存在でしょうか。スピリチュアルな意味合いの深い土地でもあります」

 ジンとは、ベースになる蒸留酒(大麦やライ麦、とうもろこしなどの穀物を原料としたもの)に、ジュニパーベリー(ねずの実)をはじめとしたボタニカル(香草・薬草類)を加えて再蒸留するお酒。ボタニカルの種類やレシピは蒸留所ごとに異なり、この違いがブランドの個性となる。アークティック・ブルー・ジンは、コリ国立公園のまわりの森に育つ野生のビルベリー(ブルーベリーの一種)の葉や、もみの木などによって森の自然そのままのジンを生み出しているという。

画像: 右端が現在、副社長を務めるMIKKO SPOOF(ミコ・スプーフ)。彼独自の世界観により、「アークティック ・ブルー・ジン」が2017年に誕生した

右端が現在、副社長を務めるMIKKO SPOOF(ミコ・スプーフ)。彼独自の世界観により、「アークティック ・ブルー・ジン」が2017年に誕生した

 チームのひとりで、世界で活躍するバーテンダー、ミイカ・メチオは話す。「僕たちにとって、自然は身近にある、あまりにも日常的なものです。さまざまな国を訪れ、この自然がどれほど貴重で素晴らしい存在なのかを実感しました。そのため、僕らが誇る森の香りをかいだ“瞬間”をジンに閉じ込めることを目指したのです」

 1年かけて製造したものは、香りはよかったものの、味がイマイチだった。ジンづくりのいまの主流・チルフィルタリング(冷却濾過)を行なってみたところ、味はよくなったが、魅力的な香りが失われてしまった。振り出しに戻って、アメリカやドイツ、デンマークから蒸留の専門家を招いた。結果、チルフィルタリングはやめ、とてもユニークで新しい、ある蒸留方法にたどりつき、彼らが目指した味と香りを獲得できた。これが彼らのブレークスルーとなったのだ。2年間にわたる眠れぬ夜は終わった。

「世界的なアワ―ドをとるまでは市場へ出さない」という、ミコ・スコープが最初に掲げた方針のもと、名だたるコンペティションに出品を続け、2018年の受賞につながった。

 受賞後の展開は、自国と日本から。なぜ日本なのでしょう。
「アジアンパシフィックのトレンドを探るとき、まず日本を見ます。マーケットバリューのある日本で成功すれば、他でも通用すると考えています。日本人の自然を大切にする深い気持ちは、フィンランド人の思いと似ています。私たちのわがままかもしれませんが、仕事で夢を見たいのです。喜びと仕事への価値を感じるという意味において、大好きな日本は当然のチョイスでした」

画像: 「アークティック ブルー ジン」¥6,000(小売り価格・税込) <500ml、アルコール度数:46.2%> 北極地方の雪解け水と野生のビルベリーなどが原料 PHOTOGRAPHS: COURTESY OF ARTIC BLUE GIN

「アークティック ブルー ジン」¥6,000(小売り価格・税込)
<500ml、アルコール度数:46.2%>
北極地方の雪解け水と野生のビルベリーなどが原料
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF ARTIC BLUE GIN

 深い味わいは、食中酒としても魅力的だ。日本の三ツ星レストランや有名ホテル、バーの名店での展開準備を始めている。故ジョエル・ロブションの息子が立ち上げたワインの輸入会社とも契約した。今後、セレクトショップなどでの販売も考えている。

 量より質。スロー&ナチュラル。地球を傷めることなく自然を生かしたいとの思いでジンをつくったミコ・スコープ。熱い思いをゆっくり、訥々と話してくれた。たまたま彼がつくったのはジンだったが、彼が生み出したスピリッツは、今後のモノづくりの「スピリッツ(精神)=指針」につながる。森には精霊が棲むとフィンランド人は言う。聖なる場所で生まれ、その香りを閉じ込めたジン。精霊のパワーが宿っているようだ。

問い合わせ先
アークティック ブランズ グループ ジャパン
TEL. 080(4458)2001<代表 ベルナール・サンドロン>
公式サイト

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