さまざまな分野で活躍する“おやじ”たち。彼らがひと息つき、渋い顔を思わずほころばせる……そんな「おやつ」とはどんなもの? 偏愛する“ごほうびおやつ”と“ふだんのおやつ”からうかがい知る、男たちのおやつ事情と知られざるB面とは。連載第24回は、徳光和夫さん

BY YUKINO HIROSAWA, PHOTOGRAPHS BY TAKASHI EHARA

『路線バスで寄り道の旅』では、街を歩くと「徳さん!」と声をかけられ、菓子店に入れば共演者やスタッフの分も爆買い。お腹いっぱいになったらすかさずお昼寝……。テレビでもラジオでも、最近始めたYouTubeでも、そして普段の通勤電車の中でも、いつだって徳光さんは自然体。あるがままだ。

 想像に違わずプライベートでも大のおやつ好き。「おふくろの遺伝でして、テレビを観ながら、新聞を読みながら、のべつまくなしに食べてしまう。作曲家の團伊玖磨さんが“たばこは動くアクセサリー”とおっしゃっていましたが、僕にとってはおやつがそれ。15時が一般的なおやつ時間だとするならば、朝食後の8時、10時、寝る前の21時も加わる感じ」。おやつは、「野菜や玄米のように半ば強制的に食べたほうがいいと言われないところ、あとは集中できるし、無になれるところもいい」という。つまり愛してやまない存在なのだ。

 普段のおやつはじつにさまざま。「コンビニでティッシュや競馬新聞といっしょに買うのは、みたらし団子や、あん団子。3本入りなので、女房と分け合って食べます。あと、競馬新聞を読みながらレースの予想をたてているときにちょうどいいのが、かりんとう。『蔵屋久兵衛』の蜜自慢かりんとうは、4〜5レースやっているうちに1袋食べきっていた、という日も少なくありません。高級なおやつは格別ですが、日常の延長にあるおやつも、じつにいい味なんです」

画像: 蔵屋久兵衛の「蜜自慢かりんとう」1袋¥620(フリーダイヤルの電話受付での販売価格・送料別。店舗で購入の場合は1袋¥540) 気づけば一日じゅう向き合うこともある競馬新聞の最高のおともが、かりんとう。徳光さんは、昔ながらのゴツゴツしたタイプが好み。こちらはこっくりとした甘さと香ばしい風味が魅力 蔵屋 TEL.0120-157755

蔵屋久兵衛の「蜜自慢かりんとう」1袋¥620(フリーダイヤルの電話受付での販売価格・送料別。店舗で購入の場合は1袋¥540)
気づけば一日じゅう向き合うこともある競馬新聞の最高のおともが、かりんとう。徳光さんは、昔ながらのゴツゴツしたタイプが好み。こちらはこっくりとした甘さと香ばしい風味が魅力
蔵屋 TEL.0120-157755

 番組ではどんな進行をしようか? ジャイアンツの今日の調子は? 競馬とオートレースの結果は? あれこれ考えがちな徳光さんだけれど、完全に無になるのが“和菓子を食べているとき”。巣鴨にある「みずの」や護国寺の「群林堂」の豆大福、京都「鍵善良房」のくずきり……などなど、お気に入りがとめどなく出てくる。「あとは深谷市で133年続く『濱岡屋』のおはぎもしみじみウマい。渋沢栄一氏も食べたであろうそれは、もち米にも餡にも手仕事の技を随所に感じる。量産できないから、催事に出店しないところもいいんです。これを食べると思い出すのが、結婚前に女房のおふくろが作ってくれた、朝から蒸したもち米に塩を加えた品のいい甘さのこし餡をまぶしたおはぎ。形はいびつでしたけど、それが僕にとって人生一番の和菓子。思い出の味は、脳と味覚にしっかりしみ込んでいますね」

画像: 古伝餡 濱岡屋の「おはぎ」(こし餡)1個¥172 渋沢栄一ゆかりの地であり煉瓦の街、埼玉県深谷市にある名店発。新潟県産のもち米を、煉瓦釜戸で炊いた餡で包んで。素朴で奥深いのに、澄み渡るような洗練された味わい。徳光さんによると、「この春から、東京理科大に入学したが途中から和菓子の道に進んだ5代目が菓子作りに加わる」のだそう 古伝餡 濱岡屋 TEL.048-571-0505

古伝餡 濱岡屋の「おはぎ」(こし餡)1個¥172
渋沢栄一ゆかりの地であり煉瓦の街、埼玉県深谷市にある名店発。新潟県産のもち米を、煉瓦釜戸で炊いた餡で包んで。素朴で奥深いのに、澄み渡るような洗練された味わい。徳光さんによると、「この春から、東京理科大に入学したが途中から和菓子の道に進んだ5代目が菓子作りに加わる」のだそう
古伝餡 濱岡屋 TEL.048-571-0505

 徳光さんの口からは、好きな味、お世話になった方や仕事仲間の名前や思い出話、敬愛する長嶋茂雄さんやジャイアント馬場さんの偉大な功績や伝説のエピソードが克明かつリズミカルに語られ、聞き手の耳に心地よく流れ込む。その引き出しの多さや話術を身につけたいと願う日本を代表する名司会者達から、「あの一言はどうやって思いついたのですか!?」「最高のフレーズでした!」と言われることも多いが、当の本人は、他者の発言やシーンは鮮明に記憶しているのに、自ら発した言葉は「ほとんど覚えていない」とあっさり。その理由を探ると?

「僕は(編集なしの)生放送が大好きでして。失敗して反省したって撮り直しはできないから、そのぶん真剣。緊張感も集中力も高まっているからこそ、脳を介さずに瞬時に飛び出す言葉があるんです。生きた言葉やフレーズこそが名アナウンス。事前に準備しておいた完璧な文言よりも、人の心に届くのではないかと思うんです」。それは1979年から22年も続いた生放送の情報番組『ズームイン!! 朝!』から学んだそう。

 はたから見ると、人生順風満帆!に思われがちだが、決してそうではなかった。「プロ野球中継を夢みてアナウンサーになったのに、子ども番組、プロレス、朝の情報番組……本命の仕事はなかなか任せてもらえなくて」。理想とは違う現実、不甲斐なさも嫌というほど味わった。でも、徳光さんは“とりあえずやってみよう”の精神で、その時間も経験も、決して無駄にはしなかった。「最初は本当に嫌でしたよ(笑)。例えばプロレスの中継は、レスラーにろくに取材もできなければ資料すらない。つまり今、目の前で繰り広げられている戦いを自分の言葉で伝えるしかないわけで。やるしかないからアドリブをどんどん発していくうちに、感性が磨かれて、目に映らなかったことが見えてきたんですよ。プロレスって攻撃側がスゴいと思われがちですが、じつは技を受ける人が上手くないと大技に見えないとか、技の大きさを言葉だけで表現できるようになったりだとか。アナウンサーは時間と言葉でがんじがらめになる傾向がありますが、その鎖をパッと開放してくれましたね」

 人に対してもそう。「人間だから、好き嫌いはありますよ。でもそれを前面に出すのではなくて、この人のどこなら許せる?あの部分は好きになれるんじゃないか!? と角度を変えつつ、相手の話しをよく聞きながら会話してみると、新しい視点や魅力が見えてくる。番組が終わる頃には、僕自身もそうですし、視聴者の方が共演者やゲストを好きになってくれたらラッキー」。それにもやっぱりコツがあって「おやつとはどんなに密着したっていいけど、人とは近づけばいいってものでもなくて、相手をよく観察して、“その時にちょうどいい距離感”を見つけること。目配り、気配りはもちろん、心配りができる人でありたいね。放送人としても、人としても」

 裏表がなく、決して偉ぶったりもしない。どこまでもフラット。「計算できないから計算はしないし、やっぱり人は、飾っていると見抜かれますから」。

 取材中も、少し遠くからエールを送るように、人生の糧になるような知識や教養を、その人に合わせてさりげなく届けてくれる。御年81歳、徳光さんが世の中に求め続けられるのも納得。

画像: 徳光和夫(KAZUO TOKUMITSU)さん 1941年東京都生まれ。フリーアナウンサー、タレント、司会者。テレビ朝日系『路線バスで寄り道の旅』では甘いものにまっしぐらに向かう姿が印象的。近著は『徳光流 生き当たりばったり』(文藝春秋)。ねほりはほり取材し、読売ジャイアンツの裏側の魅力を伝えるYouTube『徳光和夫の人生ジャイアンツ』を開設。 ©OFFICE LA MER CO.,LTD.

徳光和夫(KAZUO TOKUMITSU)さん
1941年東京都生まれ。フリーアナウンサー、タレント、司会者。テレビ朝日系『路線バスで寄り道の旅』では甘いものにまっしぐらに向かう姿が印象的。近著は『徳光流 生き当たりばったり』(文藝春秋)。ねほりはほり取材し、読売ジャイアンツの裏側の魅力を伝えるYouTube『徳光和夫の人生ジャイアンツ』を開設。

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