メゾン クリュッグによる「KRUG x MUSIC」は、シャンパーニュと音楽のペアリングを提案する画期的な試み。2026年版は「Every Note Counts(すべての音に意味がある)」と題し、現代音楽家のマックス・リヒターとタッグを組む。この注目プロジェクトで生まれた楽曲「Krug from Soloist to Orchestra in 2008(Act 2)」について、T JAPAN web連載「音楽と美酒のつれづれノート」でもおなじみの指揮者・野津如弘が、マックス・リヒターとセラーマスターのジュリー・カヴィルに話を聞いた。

BY YUKIHIRO NOTSU

 マックス・リヒターの音楽は、じわりじわりと我々の心に沁み込んでくる。

 リヒターの音楽の特色でもあるシンプルなモチーフの繰り返しに耳を傾けていると、いつしか彼の音楽を聴いているというより、彼の作り出す音の世界に身を委ねているという不思議な感覚に襲われる。それは、音の一つ一つが、我々の細胞一つ一つと共鳴し合っているかのような体験だ。

画像: マックス・リヒター(MAX RICHTER) 1966年ドイツ・ハーメルン生まれ。イングランドで育つ。現代を代表する作曲家のひとりとして、伝統的なオーケストレーションと現代的な電子音楽を融合させる独自のスタイルで人気を博す。『メモリーハウス』(2002)、『ブルー・ノートブック』(2004)、『25%のヴィヴァルディ』(2012)、8時間の超大作『スリープ』(2015)など、実験的で斬新な作品を発表し続けており、また、映画やテレビのサウンドトラックも手掛けている。

マックス・リヒター(MAX RICHTER)
1966年ドイツ・ハーメルン生まれ。イングランドで育つ。現代を代表する作曲家のひとりとして、伝統的なオーケストレーションと現代的な電子音楽を融合させる独自のスタイルで人気を博す。『メモリーハウス』(2002)、『ブルー・ノートブック』(2004)、『25%のヴィヴァルディ』(2012)、8時間の超大作『スリープ』(2015)など、実験的で斬新な作品を発表し続けており、また、映画やテレビのサウンドトラックも手掛けている。

 この度、老舗シャンパーニュメゾン・クリュッグが、そんなマックス・リヒターとのコラボレーションによる新プロジェクト「Every Note Counts(すべての音に意味がある)」を発表した。「一音一音に意味がある(価値がある・重要だ)」という意味だが、「Note」には「音」のほか「風味」の意味もある。シャンパーニュ的には「一味一味に意味がある」というところだろうか。

 セラーマスターのジュリー・カヴィルが醸した2008年という類まれなヴィンテージの「Krug Clos d’ Ambonnay 2008」と「Krug 2008」に加え、11年にわたるワインをブレンドした「Krug Grande Cuvée 164ème Édition」 という三種のキュヴェのそれぞれにリヒターがオリジナルの楽曲を作曲した。

 このプロジェクトについてカヴィルは熱を込めて、次のように語る。
「私が記憶している限り、音楽は常にクリュッグの一部でした。今回、マックスは音楽という言語を通して、シャンパーニュという土地の声、そして何百人ものブドウ農家たちの想いを語ってくれているかのようです」

3つのシャンパーニュを表現する3つの楽章

画像: (写真左から)Krug Clos d’Ambonnay 2008 、Krug 2008 、Krug Grande Cuvée 164ème Édition

(写真左から)Krug Clos d’Ambonnay 2008 、Krug 2008 、Krug Grande Cuvée 164ème Édition

「Krug Clos d’Ambonnay 2008」を表現する楽章は「Clarity(クラリティ)」と名づけられ、リヒター曰く「単一区画、単一品種、単一年の純粋さを表現するため使用する楽器をピアノ、ヴァイオリンそしてチェロと限られたものとし、それぞれの楽器をソリスティックに扱いました」。
 第2楽章にあたる「Krug 2008」は「Ensemble(アンサンブル)」というソロ・ピアノと少しだけ拡大した編成の室内楽で奏でられる。そして第3楽章となる「Krug Grande Cuvée 164ème Édition」 は「Sinfonia(シンフォニア)」というタイトル通り「フル編成のオーケストラで演奏されます。部分的にソロも登場しますが、大きな絵筆で大きなキャンバスに絵を描くような感覚で作り上げました。シャンパーニュの声、すなわち素材となるブドウやワインが増えるにしたがい、音楽も広がりを増し、より豊かに鳴り響くのです」

 電子音楽のエキスパートでもあるリヒターだが、今回の作品はアコースティックな楽器のみで演奏される。

「自然と協働するというクリュッグの性格を理解した上での、私なりの答えです。自然が与えてくれるものを創造的に発展させていくということ。それは、ある意味とてもシンプルなことで、シンプルだからこその完璧さというものがあります。音楽もその精神に沿ったものにしたいと思い、人間がアコースティックな楽器で演奏をするというシンプルさにこだわりました。ある種の古典性ですが、それがクリュッグの精神に相応しいと感じたのです」

画像: ランスにあるクリュッグのブドウ畑にて語り合うセラーマスターのジュリー・カヴィルとマックス・リヒター

ランスにあるクリュッグのブドウ畑にて語り合うセラーマスターのジュリー・カヴィルとマックス・リヒター

 彼のクリュッグへの深いリスペクトが、このような形で具現化された。作品のテーマについて尋ねると、「このプロジェクトを始めるにあたって、シャンパーニュの煌めきや質感がもたらすものが何らかの形で音楽の素材に反映されるようにしたいと考えました。シャンパーニュを体験するということで呼び覚まされる感覚の宇宙が、私の音楽のテーマだからです。したがってオーケストレーションの仕方、楽器編成、音楽の構造も、そうした体験から生み出されたものといえるでしょう」という答えが返ってきた。

 リヒターの音楽を聴いてクリュッグを味わう我々には、どんな体験が待っているのだろうか? カヴィルは次のように答えてくれた。

「音楽を楽しむのに作曲家である必要はなく、クリュッグを楽しむのにワインの専門家である必要もありません。ある人にとっては、音楽と一杯のグラス、雰囲気そして仲間が一体となるような調和をもたらす忘れがたい五感の旅となるでしょう。また別の人にとっては、舞台裏に足を踏み入れ、私たちがシャンパーニュや音楽を生み出している現場を垣間見て、二つの世界の共通点を発見する機会となるでしょう」

 来年の「Krug from Soloist to Orchestra in 2008 Act 2」のリリースが今から待ち遠しい。

Krug from Soloist to Orchestra 2008の詳細

 詳細は以下のサイトで見ることができる。また、マックス・リヒターによる楽曲と、KRUG × Max Richterのドキュメンタリーは、2026年2月に公開予定だ。
詳細はこちらから

問い合せ先
MHD モエ ヘネシー ディアジオ
KRUG公式サイト

野津如弘(のつ・ゆきひろ)
●1977年宮城県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、東京藝術大学楽理科を経てフィンランド国立シベリウス音楽院指揮科修士課程を最高位で修了。フィンランド放送交響楽団ほか国内外の楽団で客演。現在、常葉大学短期大学部で吹奏楽と指揮法を教える。明快で的確な指導に定評があるとともに、ユニークな選曲と豊かな表現が話題に。

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