古さと新しさ、粗削りさとなめらかさの間に存在するそんな緊張感がヴァン・ジャンの美意識であり、彼はそれを木々が立ち並ぶブリュッセルのブルグマン地区に建てられた6階建てのタウンハウスにもあてはめた。



明るい日射しが差し込む客間に置かれているのは、
ヴァン・ジャンがデザインした、硬い樹脂製の机と椅子



 1年半前、ヴァン・ジャンがその600平方メートルの建物を購入したときは、とんでもなくひどい状態だった。何十年も放置されてきた建物に手を入れ、ごく一部だけを残してほとんどを取り壊した。漆喰でできた繊細な壁の飾りや、上下に上げ下げして開けるドラマティックな窓、そして真っ白く塗られた空間にわずかな色として存在する、造りつけのミントチップ・アイスクリーム色をした大理石の暖炉はそのまま残した。



家の入り口のヴィンテージの鏡と大理石のパネルが、

フランク・ロビシェスの鉄製の椅子に映える



 改装作業の間、ヴァン・ジャンは建築家とインテリア・デザイナーの両方の役割を担った。コンクリートを流し込んで固めて造られた階段のとがった角に手でやすりをかけ、自然な丸みを出した。入り口部分の壁の下半分には、マットな色合いのカッラーラ大理石の大きなパネルを貼り、壁の上半分には特注した白の塗料を塗り重ね、そこに青色と赤色の塗料を判別できないぐらいほんの少しふりかけた。それによって、部屋に微妙な新鮮さと温かみを加えたという。細部に徹底的にこだわる彼の姿勢とは裏腹に、この1920年代の家の中は、空っぽといってもいいほど何もない。



抑制が効いたテイストのリビングルームには、
淡い色合いのピエール・ポーリンのソファなど、
ごく数点の厳選された家具だけが置かれている



「僕は物がない空間だと落ち着ける人間なんだ」とヴァン・ジャンは言う。空間把握の才能に秀でた彼は、さまざまな年代の家具をほんの少し厳選し、まるで映画のシーンのように見事に並べている。戦後に名を残したベルギーのデザイナー、ジュール・ウァブの鋭角的な形をした突き出し式の真鍮の燭台や、今活躍中のデザイナー、フランク・ロビシェスデザインの古つやを加えた鉄製の正方形の椅子、さらに、60年代に作られた、ピエール・ポーリンがデザインしたゆるやかな波のような形をしたソファなど。そのソファとぴったり合う肘掛けつきの椅子が見つからなかったので、ヴァン・ジャンは自分でスウィング式の革張りの椅子をデザインし、クヴァドラト製の布地でカバーをつけた。さらに床部分も細部にわたって凝り、硬いナラ材を特注し、それを床材にして格子状に組み合わせてから、全体を磨き上げ、色あせて見える仕上がりを加えた。



特注した日よけがバスルームの窓から

ビレロイ&ボッホ製のバスタブに差し込む光を遮る



ヴァン・ジャンの白い壁の寝室は、

シンプルの極みでオアシスのよう



家の中で最も目立つ場所は、1階にあるヴァン・ジャンのスタジオだ。それは小さな庭につながっており、室内の静謐さと外の緑の鮮やかさのコントラストが効いている。スタジオの床はマットな風合いに抑えた薄い緑色のポリウレタン素材でコーティングされており、この色は暖炉の大理石の色に近い。このコーティングの色を出すまで、試行錯誤を重ねてやっと成功した。スタジオの中心に置かれているのはベルギーで今活躍
中のデザイナー、ベン・ストルムの黒い製図机だ。非常に薄いフレームの上に4ミリの厚さの黒色の大理石をコーティングしたものだ。



彼の仕事場(スタジオ)にて。

ヴァン・ジャンは、床から本棚まですべてをデザインした



 これまでとまったく同じように、この家を造り上げる過程で、彼の経歴にはまた新しいキャリアが加わった。今年の終わりには、彼の家の内装とジュエリー創作の手法の両方からインスピレーションを得てできた家具のブランドを初めて披露する。ヴァン・ジャンは、まず、四角いピースでできたキャビネットや棚などの収納家具一式を売り出す予定だ。各ピースを切り離しても、ひとつに結合しても家具として使えるようにした。漆塗りの紺色の引き出しのついたチェストのトップ部分には、ピンク色の大理石でアクセントをつけた。「組み立てれば全体としても美しいし、バラして使っても美しい」と、彼の新しい家具のコレクションについて語る。「僕は、究極の洗練とはシンプルであることだと思うんだ」