BY MASANOBU MATSUMOTO
日本の建築家の多くが、いま世界で注目を集めている。その実証としてよく引き合いに出されるのが、建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞しているのは、アメリカ人に次いで日本人が二番目に多いということだ。また日本の建築家の作品を見ると、他の国と異なり、大規模な施設だけなく狭小な個人住宅も意欲的に設計していることがわかる。戦後の日本では、住宅不足を解消すべく、国が法律を整備して個人が家を持つことをサポートした。こうした特有の状況の中、建築の根源とも言える「家」に長く向き合ってきたことも日本の建築家の特徴であり、世界が彼らを評価するポイントともなっている。
その日本の「家」をフォーカスした展覧会が、2016年から今春にかけてローマのMAXXI国立21世紀美術館、イギリスのバービカン・センターというヨーロッパの主要な2つのミュージアムで行われ、好評を博した。現在、東京国立近代美術館で開催されている「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」はその凱旋展だが、オリジナルの展示品も加えられ、建築家の日本住宅をテーマにしたものでは国内で過去最大規模のエキシビションになっているという。
タイトルに「暮らし」とあるのには、理由がある。戦後復興、ベビーブーム、高度経済成長、公害、バブル景気とその崩壊、自然災害ーー。日本が直面した出来事や問題に対して、建築家はつねに建築物によって、新しい暮らしの回答や提案を試みてきたからだ。
たとえば、バブルが崩壊した後、都市空間にポツンとできた空き地や建物間のすき間を効果的に活用することが求められた。建築家たちはその課題を、時に遊戯的な視点でポジティブに解消しようと試みた。その遊戯性とは、70年代に前衛的な建築が多く見られたときに語られたものであり、もっと遡れば、60年代に住宅を芸術として捉えた建築家、篠原一男の思想の影響もあるだろう。一方で、90年代にエコロジカルな家屋を社会が要請したとき、多くの建築家は、単に省エネのみを回答にするのではなく、遊びの視点で、人工物である建築と自然の関係を再構築した。
日本の建築家は、その時代に合った家をデザインしながら、哲学や考えを継承してきたとも言える。あえて年代ではなくテーマで構成した本展は、日本の現代建築家の総体的な思想の流れを、わかりやすく教えてくれる。
今回のいちばんの見どころと言えるのが、清家清が設計した『斎藤助教授の家』の原寸大模型だ。この家は、バウハウスの創設者であり、建築家のヴァルター・グロピウスも感銘を受けた伝説の現代住宅だという。この家は現存しておらず、竣工時の様子がわかるもののほとんどはモノクロ写真。残された図面や指示書を徹底的にリサーチして再現されたというが、当時の色や素材がわかるだけでなく、実際に入室してスケールを体験できるのも楽しい。
建築家たちの批評の場である「家」は、誰もが日常を営む体験の場でもある。会場には約55組の著名な建築家による家の、400点以上もの写真や図面、模型、映像が並んでいる。それぞれを自分の生活と照らし合わせながら鑑賞できるのも、家というモチーフならではだろう。家という空間で生活を営むわれわれにとっての新しい暮らしのヒントも、ここで得られるはずだ。
日本の家 1945年以降の建築と暮らし
場所:東京国立近代美術館
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1
会期:〜2017年10月29日(日)
開館時間:10:00〜17:00(金・土曜は21:00)入館は閉館30分前まで
休館日:月曜
(ただし9月18日、10月9日は開館)、9月19日(火)、10月10日(火)
入場料:¥1,200(一般)、¥800(大学生)、高校生以下無料、各種割引あり
電話:03(5777)8600(ハローダイヤル)
公式サイト