伝統芸能、文楽界のホープ竹本織太夫と、文楽を愛する日本文学者ロバート キャンベル。芸を受け継ぐことの意味と、文楽の今を大いに語り合う

BY FUMIKO YAMAKI, PHOTOGRAPHS BY SHINGO WAKAGI

画像: ジル・サンダーのレザージャケットを着たキャンベルと、普段は革ジャン好きという織太夫。対談後はファッション談議で盛り上がった

ジル・サンダーのレザージャケットを着たキャンベルと、普段は革ジャン好きという織太夫。対談後はファッション談議で盛り上がった

対談を終えて ――ロバート キャンベル

 二月二四日、二時半から始まる国立劇場小劇場の文楽公演を観に行った。口上があり、続いて「摂州合邦辻」を上演。三年ぶりにこの演目を観るなと思い出しながら、コートをコインロッカーに仕舞い、横の扉から客席に入り、席を確かめてから落ち着く。今日の東京公演はいつもの満員に加えて、熱気がすごい。襲名には何度も伺っているが、こんな華やぎというか、パッと明るい緊張感が場内を走っているのを初めて感じた。

 口上がめでたく終わり、「合邦住家の段」。左から幕が引かれ舞台が現れ、その舞台に向かって右側、上手の少しせり出したところに床という空間がある。盆回しでくるりと半回転すると、壁の向こうから二人の男が座ったまま忽然と出現する。右手には三味線方、この日は鶴澤燕三。その左にはあらゆる人物を語り分ける太夫、当日の主役である織太夫が見台の前に座っている。台から床本を両手で持ち上げ、額に付けるようにして五秒間ほど、祈るように深く一礼をしてから語り始めるのである。

 若い時から、情感あふれかつ理知的で堂々たる彼の語り方と天性の美声に惹かれ、ずっと注目はしていたが、果たしてこの日のパフォーマンスはそういう私を失望させなかった。失望どころか、劇場で彼の声を聞かなかったわずか二、三年の間に、これほど芸域が深まるとは驚きであり、この日の一番嬉しい発見であった。

 不義をはたらいたという愛娘玉手御前を成敗する父親・合邦道心の台詞のなかに、「十年以来蚤一匹(のみいっぴき)殺さぬ手で現在の子を殺すも、浮世の義理とは言ひながら、これが坊主のあらう事かい」というのがある。最後の一節を四回ほど、段々口調を崩しながら繰り返すのだが、織太夫の語りにはっきりした緩急がある。父親の一字一句に絞り出すような迷いと悲壮感を巧みに浮かび上がらせている。巧み、と書いたがたくらみはなく、私も、おそらく周囲の全員も、三味線の音色に流されるままに涙した。

 対談で、四年前から文楽の世界に急激な変化が訪れ、彼自身が大きな役割を「背負った」ことを聞き、納得した。望まれ、鍛え、そして成果を着実に出す経験が声として大きな劇場に響き、私たちを深いドラマの世界へと運んでくれたのであった。

 

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