日本人には馴染みの深い竹細工のかごを、スペイン産レザーで編んだなら…… 今年の「ミラノ・サローネ」でロエベは、日本伝統の“手編み”の技を持つアーティストに光を当て、彼らの作品を再解釈することで工芸作品の新たな可能性を提示した

BY MEARA SHARMA, PHOTOGRAPH BY DAVID CHOW, STYLED BY TODD KNOPKE, TRANSLATED BY FUJIKO OKAMOTO

 竹は地中に茎を伸ばす植物である。一本の幹が上へと成長する木と違い、あらゆる方向に地下茎を伸ばして根を張り驚異的なスピードで成長する。そして切ってもすぐに生えてくるという特性がある。こうした竹の特徴は、山に囲まれた九州で暮らす竹工芸家、米澤二郎のコンセプトにも通じるものがある。米澤は日本の伝統的なバスケタリー(かご細工)の技法を用いて、竹を編み込んで複雑に入り組んだ曲線やなめらかなフォルムを作り出す。米澤は竹の好きなところは、「切った竹を使って、作りたいものを何でも作れる。数年後に戻ってみると、新しい竹が生えている。それを切ってまた別の作品が作れること」だと言う。「竹には無限の可能性があります」

 米澤の作品に注目したスペインのブランド「ロエベ」は、米澤をはじめとする数人のアーティストに、今年4月にミラノで開催された世界最大規模のデザイン見本市『ミラノ・サローネ』への出展を依頼した。バスケタリーの技法で作られた彼らの作品を、スペイン産レザーを使ったバージョンに生まれ変わらせるというテーマだ。ロエベのクリエイティブ ディレクター、ジョナサン・アンダーソンは6年前に就任して以来、素材と“クラフト”(手仕事の技)にフォーカスして、世界中の伝統工芸の職人たちとのコラボレーションを次々と発表してきた。アンダーソンは日本の伝統工芸についてこう指摘する。「日本には確かな“技”を世代から世代へと伝えていこうとする素晴らしい伝統があります。そこには伝統の技術に対する敬意が存在しています」

 だからといって、脈々と受け継がれてきた伝統を大切にすることが、イノベーションの妨げになるわけではない。日本では「真・行・草」、すなわち「フォーマル・セミフォーマル・カジュアル」という使い分けがデザインの原理として芸術全般に適用され、伝統を順守すべき度合いも段階的に異なる。この原理からは、伝統的なルールをただ習得するだけではなく、それを押し広げたり、曲げたり、時には破ることさえいとわない姿勢がうかがえる。

 こうした日本の伝統技術に対する考え方にインスパイアされたアンダーソンは、昔から使われ続けてきた素材を別のものに変えてみようと思い立った。「それは新たなやり方で、クリエーションを前に進めることを意味しています」と、アンダーソンは言う。

画像: (左から時計回りに)松本破風のレザーと竹を使った容器のオブジェ2点。米澤二郎のレザーを編み込んだオベリスク。シズとカレン母娘の花かごと、レザーでラッピングした石の数々 CLOCKWISE FROM TOP RIGHT: JIRO YONEZAWA, “JIZO,” LEATHER, BAMBOO AND STEEL, COURTESY OF THE ARTIST AND GALERIE MINGEI; SHIZU OKINO, “UNTITLED,” LEATHER AND BAMBOO, COURTESY OF SHIZU DESIGN; SHIZU OKINO, “UNTITLED,” STONES WITH CALF-LEATHER KNOTS, COURTESY OF SHIZU DESIGN; HAFU MATSUMOTO, “DUD,” LEATHER AND BAMBOO, COURTESY OF THE ARTIST AND IPPODO GALLERY; HAFU MATSUMOTO, “PIKE,” LEATHER AND BAMBOO, COURTESY OF THE ARTIST AND IPPODO GALLERY

(左から時計回りに)松本破風のレザーと竹を使った容器のオブジェ2点。米澤二郎のレザーを編み込んだオベリスク。シズとカレン母娘の花かごと、レザーでラッピングした石の数々
CLOCKWISE FROM TOP RIGHT: JIRO YONEZAWA, “JIZO,” LEATHER, BAMBOO AND STEEL, COURTESY OF THE ARTIST AND GALERIE MINGEI; SHIZU OKINO, “UNTITLED,” LEATHER AND BAMBOO, COURTESY OF SHIZU DESIGN; SHIZU OKINO, “UNTITLED,” STONES WITH CALF-LEATHER KNOTS, COURTESY OF SHIZU DESIGN; HAFU MATSUMOTO, “DUD,” LEATHER AND BAMBOO, COURTESY OF THE ARTIST AND IPPODO GALLERY; HAFU MATSUMOTO, “PIKE,” LEATHER AND BAMBOO, COURTESY OF THE ARTIST AND IPPODO GALLERY

 ミラノ・サローネに出品される米澤の3作品のひとつに、《地蔵》(旅人の安全を見守ってくれるという菩薩像)と題する赤褐色の帯状のレザーを編み込んで仕上げた約1メートルのオベリスク風オブジェがある。レザーは竹よりデリケートな素材であるため、米澤は内側に補強材を入れ、表面に傷をつけないように細心の注意を払ったという。この作品とともに展示されるのは、カリフォルニア州バークレーを拠点に活動するシズ・オキノとカレン・オキノ・ブッツバッハ母娘の作品。ふたりはバスケタリーの技法について独創的な解釈をもっており、自然の石に籐を巻きつけて縛り、精巧な飾り結びを施した作品などで知られている(娘のカレンは母のことを「石の魅力に取りつかれた人」と評する)。籐をレザーに替えて仕上げた《運命》《滝》《ねじれた蝶》と題する今回の出品作では、レザーの飾り結びによって、石がエレガントなお守りに生まれ変わっている。「身につけることで、石のエネルギーを感じることができます」とカレンは言う。ふたりはこのほかにも、目の粗い日本の花かごをアレンジした作品も作りあげた。

 ロエベがミラノ・サローネに招聘したアーティストのひとりが、竹工芸の名家である飯塚家に生まれ、日本の竹工芸界の重鎮であった故・飯塚小玕齋(しょうかんさい)の弟子、松本破風(はふう)だ。ロエベは松本に、小玕齋の作品をレザーで再解釈することを提案した。房総半島の竹林に囲まれた工房で創作に励む松本が、幅広に裂いて平らにのした竹で作りあげる作品は繊細で優美な趣を漂わせる。それらが今回は、板状のレザーを曲げて作った円筒形の入れ物や、幅広の長方形のレザーで仕上げたシームレスな袋状の容器、光沢のある短冊状のレザーを粗くゆったりと編んだ楕円形の容器に生まれ変わった。松本にとって新たな素材に取り組むことは歓迎すべき挑戦だった。「伝統はただ守っているだけではだめです。その精神を受け継ぐことが大事なのです」

 確かに、松本をはじめ、ここで紹介したアーティストたちは誰もがクラフトを呼吸する生き物のように扱う。そうした姿勢こそが彼らの創造性の証しにほかならない。彼らの作品に呼応するように、ロエベも伝統的な“編み”の技法にインスパイアされたコレクションを発表する。伝統を重んじながらも“脱構築”を目指したレザーのバスケットや、ハンドルに竹を使った編み込みレザーのハンドバッグは、脈々と受け継がれてきた伝統が、切っても切っても生えてくる竹と同じように、尽きることなく湧き出るアイデアの泉であることを思い起こさせてくれる。

※ “編み”の技法からヒントを得てデザインされたバッグなどの新作コレクションは、現在ロエベの各店舗で展開中

 

This article is a sponsored article by
''.