メトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートの今年度の展覧会が開催中だ。これを見れば、「見せびらかす」「気取った態度をとる」といった意味の「キャンプ」の概念を理解できるとは限らない。だが、その歴史を辿るのは間違いなく面白い

BY VANESSA FRIEDMAN AND ROBERTA SMITH, PHOTOGRAPHS BY DOLLY FAIBYSHEV FOR THE NEW YORK TIMES, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

より広い繋がりはどこへ?

S 確かに、そこに繋がりはなかった。2段になった陳列ケースに洋服が展示される後半パートは、まさにショッピング街、ウィンドウ・ショッピングのメッカみたいだった。ただし上の段は見にくいんだけど。現実感のない、夢の中の光景にも見えた。すごくくどい、騒々しい夢だけど。なにしろサウンドトラックとしてデザイナーたちのキャンプに対する声明が流れており、また無数の主題によって、上下の陳列ケースの組み合わせが特定のカテゴリーを分類した、一種の実例集のように見えてしまったから。

この『キャンプ』展は、今までのコスチューム・インスティテュートの展覧会の中で、もっともアイディア先行型で、コンセプチュアルで、知的なテーマだったという印象を受けた。結局のところ、展示されていたファッションの大半は、私にはまるで気のきいたジョークみたいに思えてしまった。

画像: (左上から時計回りに) ジェレミー・スコットによるモスキーノの「TVディナー」ウェア、アレッサンドロ・ミケーレによるグッチの緑と赤のウェア(中央)とトム ブラウンのドレス(左・右)、ミケーレによるグッチのドレス(右)と1980年代前半のカール・ラガーフェルドによるクロエのドレス(中央、左)、1990年代後半のクリスチャン・ラクロワのドレス(右)と2011年のスコットによるラテックス製の「生ハム」ドレス

(左上から時計回りに)
ジェレミー・スコットによるモスキーノの「TVディナー」ウェア、アレッサンドロ・ミケーレによるグッチの緑と赤のウェア(中央)とトム ブラウンのドレス(左・右)、ミケーレによるグッチのドレス(右)と1980年代前半のカール・ラガーフェルドによるクロエのドレス(中央、左)、1990年代後半のクリスチャン・ラクロワのドレス(右)と2011年のスコットによるラテックス製の「生ハム」ドレス

F 私がイマイチよく分からなかったのは、ファッションが引用文を導いていたのか、引用文がファッションを説明していたのか、それともそれは見たもの次第、読んだもの次第だったのか、ということ(もしくは聞いたもの次第だったのか――ジュディ・ガーランドのかすれた声の『オーバー・ザ・レインボウ』がバックミュージックとして流れるなか、引用文が大きな声で読み上げられていたのだから)。コスチューム・インスティテュートの展覧会では、何か特別なテキスタイルであったり、アートとしての価値があったりする服が選ばれ、展示されるものだと、私は思っている。もちろん、そのような服も今回の展示のなかにはあった。たとえば、刺繍にまじって本物のおもちゃが縫い付けられているマニッシュ・アローラの「メリーゴーラウンド」スカート。マルタン・マルジェラの「クリスマス・ツリーのモール飾り」コートもそう。だけど、ステラ・マッカートニーによるクロエの「バナナTシャツ」や、ヴァージル・アブローの「LITTLE BLACK DRESS」と、目を惹くように書かれたリトル・ブラック・ドレスはどうか? それ自体がアートとして成り立つのか、私にはわからない。

あと、言わせてもらえれば、ティエリー・ミュグレーのドレスが2着しかないのは絶対におかしい。いかなる定義においてもミュグレーはファッション界のもっともキャンプなデザイナーのひとりだから(展示されていたうちのひとつは、カーディ・Bがグラミー賞授賞式で着た、『ヴィーナスの誕生』を彷彿させる貝のかたちの服だ)。これでは展示品の選考基準に対して疑問が湧く。モスキーノの最新コレクションの「TVディナー」ドレスは、選ばれた理由が明確にわかるけれど。

画像: (左)見覚えがある人も多いのでは? カーディ・Bが今年2月のグラミー賞授賞式で着たティエリー・ミュグレーの「ヴィーナスの誕生」風ウェア (右)クリストファー・ベイリーによるバーバリーのレインボーカラーのケープ

(左)見覚えがある人も多いのでは? カーディ・Bが今年2月のグラミー賞授賞式で着たティエリー・ミュグレーの「ヴィーナスの誕生」風ウェア
(右)クリストファー・ベイリーによるバーバリーのレインボーカラーのケープ

S モスキーノは多すぎるくらい選ばれていた。実際に数えたら15のドレスとアンサンブルがあった。しかも、そのほとんどがジェレミー・スコットによるもので、どれも不格好なものばかり。「TVディナー」ドレスは特にひどいと思った。例外は「生ハム」ドレスで、これはわれわれ2人とも気に入った作品。シンプルなものが極めて少ない今回の展覧会において、これはシンプルなシースドレスで、その名の通り、ボディに完璧にシースして(包み込んで)いる。ラテックスでできた生ハムの飾りは、シルクジャージーにも見える。

F 一方、私がこの展覧会で高く評価したいのは、ボルトン氏が新進デザイナーの作品をたくさん選んでいたこと。“おなじみのアイテム”ばかりではなかった。砂糖菓子みたいなラッフルがこれでもかとついている、トモ・コイズミの作品もそのひとつ。ヴァケラの、ティファニーの青いポーチを模した服も、遊び心が効いている。また、ウィットに富んだものといえば、マーク・ジェイコブスの「フロイディアン・スリップ(心理学者フロイトの失言:無意識にふと口からでた本音の意)」ドレス以上のものはない。白地にフロイトの顔写真がプリントされているフロック・ドレスのことだけど。

S コイズミの作品は素晴らしいと思った。少なくとも(展示ケースの)下の段に飾られていたレインボーカラーのオーガンジーを重ねたアイテムはね。クリストファー・ベイリーによるレインボーケープの(アメリカのミニマルアーティスト)ソル・ルウィット的な要求に対する、新表現主義的な回答のようにも感じられた。

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