BY VANESSA FRIEDMAN AND ROBERTA SMITH, PHOTOGRAPHS BY DOLLY FAIBYSHEV FOR THE NEW YORK TIMES, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI
2018年3月にパリで開催されたコム デ ギャルソンのショーで、デザイナーの川久保玲は「キャンプ」をテーマに選んだ。スーザン・ソンタグが1964年に出版したエッセイ『《キャンプ》についてのノート』がその発想源だ。川久保は、自らのコレクションを発表する際、短い言葉を添えて説明する(もしくは謎めかせる)ことで有名だが、このときに限っては、そのテーマのせいで、いつになく長いものになり、また、ショーの開始前には、多項目に渡るテキスト資料が配布された。

メトロポリタン美術館で開催中の『キャンプ:ファッションについてのノート』展の会場風景。
(手前左から)
パム・ホッグによるピンクのナイロン・チュールのヘッドピース、アダ・ココサールによる「マリー・アントワネット」ミュール、ジャイルズ・ディーコンとスティーヴン・ジョーンズによるヘッドピース
キャンプに魅せられ、影響を受け、惑わされたファッション界の人間は、川久保だけではない。メトロポリタン美術館(メット)の服飾部門コスチューム・インスティテュートの首席キュレーター、アンドリュー・ボルトンもそのひとりだ。彼は『川久保玲/コム デ ギャルソン』展を準備していた際、ソンタグのエッセイ『《キャンプ》についてのノート』を川久保に紹介した。このエッセイは、58の異なるキャンプの定義から構成されており、アンダーグラウンドなものだったキャンプの概念をメインストリームへと押し上げる契機となったものである。
こうしたボルトン氏の“キャンプに対する執着”は、ついに展覧会として結実した。それがメットの春の恒例行事となった大型ファッション・エキシビションの最新展『キャンプ:ファッションについてのノート』である。このテーマは一見、わかりやすいようにみえる。だが、ここで言うキャンプとは、繊細な感覚を濃密に、多層的に重ねたものであり、社会の価値観をひっくり返すような生き生きとしたパワーを内包している。それはとりわけ極端で人工的、かつ意味のあるパスティーシュ(模倣や寄せ集め)のパワーであり、ときに「お行儀のよさ」や「趣味のよさ」(“ヒュー!”なんて趣味のよい表現!)といった社会規範に挑戦し、クィア・カルチャーとも密接に絡み合っている。
170点の衣服を含む250点の展示物で、歴史的、文化的、そして服飾史的な流れを巡るこの展覧会は、「キャンプする」(「見せびらかす」「気取った態度をとる」といった意味)というコンセプトの紹介から始まり、形式上2つのパートに分かれている。前半は、「ベルサイユ」「オスカー・ワイルド」「クリストファー・イシャウッド」「スーザン・ソンタグ」といった4つの時代的キーワードに沿って展開され、それぞれのキャンプ的な思考を、文芸作品や装飾美術品などとともに検証。後半は、今日におけるキャンプの多様性を扱っており、昨今のランウェイで発表されたルックが多数展示されている。その代表的なテイストとしては、羽根飾り、フロイト主義的アプローチ、エレガントで大げさな表現などが挙げられる。

ヴィクター&ロルフの「ミームの元ネタ・チュールボム」シリーズのひとつ。2019年春夏クチュール・コレクションより
この展覧会では、「キャンプ」は書き言葉によって定義され、砂糖がけのアーモンド菓子のような色で満たされている。鑑賞者はそこで、キャンプについて考えれば考えるほど、その概念がするりと手から逃げていくようだ。混乱し、頭から離れなくなる。タイムズ誌の首席美術評論家ロベルタ・スミスと私、ヴァネッサ・フリードマンが、『キャンプ展』の感想を語り合ったときがまさにそうだった。われわれの会話を紹介しよう。