ルーヴル美術館の館長は、来館者数は最大80パーセント減少する可能性があると述べた。もし美術館を訪れたら、おそらく《モナ・リザ》をもっとよく眺めることができるだろう

BY FARAH NAYERI, PHOTOGRAPHS BY JULIEN MIGNOT FOR THE NEW YORK TIMES,
TRANSLATED BY MASANOBU MATSUMOTO

―― ダ・ヴィンチの《サルヴァトール・ムンディ》(註:2017年、NYのクリスティーズのオークションで史上最高値である約4億5,000万ドルで落札された作品で、アラブ首長国連邦のルーブルの別館「ルーヴル・アブダビ」で公開予定だったがキャンセルに。現在、作品自体が行方不明とされている)は、レオナルドの展覧会に出展されませんでした。今後パリやルーヴル・アブダビで見られるのでしょうか?

 その質問には答えられません。私は『レオナルド・ダ・ヴィンチ』展に、この作品をリクエストしましたが、実現しませんでした。人々が意見を述べることが大切なので、この作品がいつか一般公開されることを願っています。作品を展示し、人々がそれぞれ感じ得た意見を交わす場が、美術館ですから。

画像: フランスの美術品が展示されているギャラリーを含め、通常時に入場できるスペースのうち70パーセントが7月6日にオープンした

フランスの美術品が展示されているギャラリーを含め、通常時に入場できるスペースのうち70パーセントが7月6日にオープンした

―― 元フランス植民地からの作品の返還要求についてはどう考えていますか? ルーヴルもそういった要求を受けていますか?

 いいえ、その点について言えば、かつてフランス植民地だった地域から返還要求を受けていません。“作品がどこで生まれたか”また“どのようにコレクションが始まったか”という議題は、ルーヴル美術館で私たちが行っている中心的なことですが、ただこれらの議論(註:2018年、マクロン大統領は元植民地だったアフリカ・ベナンの文化遺産を同国に一刻も早く返還することに同意。文化財の返還問題については、近年さらに議論が広まっている)による圧力で始めたことではありません。ルーヴル美術館は、2021年、すべてのコレクションをオンラインで公開する予定です。その過程で作品の出所についても調査していきます。作品の起源に関する検証と、コレクションへのアクセスを高めるためのこの作業は、研究者と一般市民の両方を交えながら行っていきます。また、私たちはこれらの収蔵作品の出所になっている国とともに、われわれが知っていることすべてをシェアしていく必要があると考えています。

―― 現在、西側の国のいたるところで、公共の彫刻やモニュメントが破壊されています(註:「Black Lives Matter」運動を受け、アメリカやイギリスでは奴隷制度に関した歴史的人物や入植時代の指導者らの銅像などがデモ隊によって破壊・撤去されている)。これについてはどう思いますか?

 私は、歴史に関する教育を受けた史学者です。歴史とは感情や噂話による影響を排して、(出来事やそのつながりを)系統的に構築したものです。私が思うミュージアムの役割とは、記憶をシェアする場であるということ。そうしなければ、それぞれの記憶がぶつかり合ってしまう。もちろん歴史のなかにはあきらかでないこともあり、論争中のものもあります。しかし民主主義のシステムにおいて、それはまっとうで健全的なこと。ただその一方で、彫刻や芸術作品への破壊行為は、独裁政権下で起こっているかのようなことです。私たちは文脈化して説明できる存在です。私の歴史家としての信念は、まず対話をする努力をすべきだということです。

画像: 来場者に美術館内の順路を示す新しいサイネージ。ソーシャル・ディスタンスを取ることを推奨している

来場者に美術館内の順路を示す新しいサイネージ。ソーシャル・ディスタンスを取ることを推奨している

―― 歴史家たちは、このコロナウイルスを“マスツーリズム(註:富裕層だけでなく一般大衆も観光旅行を楽しむようになった1950年代以降の傾向)”の時代を終わらせたものとして後世に伝えていくと思いますか?

 そうは思いません。いま、そのように言うことが流行していますが、バチカン美術館やエルミタージュ美術館、ルーヴル美術館などの素晴らしい宮殿美術館は、今後も観光地として残っていくでしょう。「観光者」は、悪い言葉ではありません。

―― 年間1,000万人の来館者が戻ってくると本当に思っているわけですね?

 はい。そう思っています。一部の人々の意見に反して、ポストコロナの世界はこれまでとそれほど変わらないだろうと私は考えています。

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