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<Women In Motion Series>
挑戦する、女性写真家たち
Vol.2 石内 都

Women In Motion Series ― ISHIUCHI MIYAKO
芸術分野で活躍する女性たちに光を当てるべく、グローバル・ラグジュアリー・グループであるケリングが創設したプラットフォーム『Women In Motion』。本インタビューシリーズでは、新たな境地に挑み続ける日本の女性写真家にスポットを当てる。第二回は、石内 都をフィーチャー

BY AKIKO TOMITA, EDITED BY JUN ISHIDA

 西宮市大谷記念美術館で開催中の個展『石内 都展 見える見えない、写真のゆくえ』は、石内 都いわく「自分にとっての、新たな始まり」だという。1979年に女性として初めて木村伊兵衛写真賞を受賞し、2014年には写真界のノーベル賞と呼ばれるハッセルブラッド国際写真賞を受賞した石内だが、その言葉どおり本展には彼女の挑戦するスピリットが詰まっている。たとえば初公開の新作シリーズ《The Drowned》は制作の経緯からして野心的だ。もととなったのは、2019年の台風による収蔵施設の浸水被害で壊滅的なダメージを受けた自身の過去の作品群。その悪臭さえ放つ作品たちを石内は写真におさめた。
「写真の溺死ですよね。でも、作品にすることで死んだモノを生き返らせたいと思ったんです。このイメージが私にとってはすごく美しく感じました」

画像: 《The Drowned #1 》(2020) 浸水被害によりダメージを受けた自身の作品を撮影した新作シリーズより © ISHIUCHI MIYAKO

《The Drowned #1 》(2020)
浸水被害によりダメージを受けた自身の作品を撮影した新作シリーズより
© ISHIUCHI MIYAKO

 目に見えない時間(ときには“死”)を、写真にとどめること。それは、石内の創作活動に通底するテーマだが、その意味で、今回の展示で象徴的と言えるのが《連夜の街》のヴィンテージプリントだろう。本作で彼女が追ったのは、日本各地の赤線跡。女たちが生きた困難な時間を引き受けていくかのように、深く、激しい階調で表されている。大学で染織を学んでいた石内にとって現像やプリントの作業は重要な工程だが、そんな彼女が40年前、自ら制作したプリント群が経年劣化もそのままに展示されているのだ。

 この《連夜の街》は、石内の名を世に知らしめた《絶唱、横須賀ストーリー》《APARTMENT》に続いて発表された初期三部作の一つだが、自身の葛藤が本格的な創作の出発点となったことは重要だ。70年代末、写真を始めたばかりの頃に「みやこ」という自身の作家名と同じ地名という理由で、岩手県宮古市に撮影に行ったことがきっかけになったという。

「着いたところで、何を撮ったらよいのかまったくわからなくて、途方に暮れたんです。こんな遠いところまで来て何をやっているのだろう、と。でもそのとき、ハッと気づいたんですよ。私にとって一番遠い場所は、自分が育った横須賀の街だと。それで慌てて帰って、写真を撮り始めたんです」。当時の思いについて石内は「カメラを持って横須賀に敵討ちに行こうと思ったの。そして写したものを全部、暗室で吐き出す。自分の痛みをちゃんと見ないと、先に進めないから」と語る。

 本展には原爆被爆者の遺品を撮った代表的なシリーズ《ひろしま》も展示されているが、被写体が人と事物で違いがあるのかと問うと、石内はいいえと答えた。「被爆者の遺品を撮るために初めて広島に行ったとき、残された衣服の色彩がまず目に飛び込んできました。私は女だから特にワンピースやブラウスなどが、原爆が投下された1945年8月6日にこの地にいたら、自分が着ていたかもしれないというリアリティで迫ってきたんです。だから、自身の問題として取り組むことができた。対象が遺品であっても、私はブツ撮りをしているつもりは一切ないので、いつもどおり自然光のもと、35mmの手持ちカメラで撮影しました」

画像: 《ひろしま #71》(2007) 石内は、2007年以来、ライフワークとして原爆被爆者の遺品を毎年撮影している © ISHIUCHI MIYAKO

《ひろしま #71》(2007)
石内は、2007年以来、ライフワークとして原爆被爆者の遺品を毎年撮影している
© ISHIUCHI MIYAKO

 今も挑戦を続ける石内に、女性写真家として歩んできた道のりについて尋ねると、飾るところのない彼女らしい言葉が返ってきた。「写真を始めた頃は業界のほとんどを男性が占めていたし、差別もあったけど、何を言われても無視していましたね。もちろん、すごく突っ張っていましたよ。肩にグンと力を入れて、舐めんなよ、とね。私はすべて独学で、自分で考えてやってきたから、彼らとも対等なんです」

 取材当日、緊張していた私たちを、自身の生き方を貫いてきたからこそ持ち得る鷹揚さで温かく迎えてくれた石内。「最近、やっと写真が面白いかなって思うようになった」とユーモアを交えて語るが、次の言葉には写真家としての真摯なスタンスが表れているように思う。「写真はね、他人のために撮るのはもったいない。自分のためだけに撮るからいいの」。そんなふうに語る石内の作品は、自分で選びとった道を進む後進の女性たちとすべての挑戦者へのエールでもあると言えるだろう。

石内 都(MIYAKO ISHIUCHI)
多摩美術大学で染織を学んだのち、独学で写真制作を開始。1979年女性として初めて木村伊兵衛写真賞を受賞。以後も2005年の第51回ベネチア・ビエンナーレ日本館代表作家に選出されたほか、2013年紫綬褒章受章、2014年ハッセルブラッド国際写真賞を受賞など、第一線で活躍してきた

ウーマン・イン・モーション(Women In Motion)
グローバル・ラグジュアリー・グループであるケリングにより、映画や写真、その他の芸術分野における女性の貢献に光を当てることを目的として2015年5月に発足。以来、活躍する女性たちの才能を称え、キャリアを支援するプラットフォームとして、人々の意識・行動変容を促す手助けをしている。この女性写真家のインタビュー・シリーズはその一環である。

問い合わせ先
ケリングジャパン
公式サイト

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『石内都展 見える見えない、写真のゆくえ』
会期:〜2021年7月25日(日)
会場:西宮市大谷記念美術館
住所:兵庫県西宮市中浜町4-38
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:水曜日
一般¥1,000、高・大学生¥600、小・中学生¥400
電話:0798(33)0164
公式サイト
※ 新型コロナウイルス感染予防に関する来館時の注意、最新情報は公式サイトを確認ください

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