深澤直人が生涯の名作と語る
木の椅子“HIROSHIMA”

The Chair “HIROSHIMA” from Maruni Wood Industry
広島県を拠点とするマルニ木工の名を世界に知らしめた、ひとつのアームチェアがある。その生みの親であるプロダクトデザイナー、深澤直人に話を聞いた

BY MASANOBU MATSUMOTO, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO

画像: 深澤の友人でもある世界的デザイナー、ジャスパー・モリソンも2011年よりデザイナーとして参加。ジャスパー・モリソンによる90周年記念モデルもリリースされている。 (写真左から)ジャスパー・モリソンによるFugu(チェア)¥120,000、ジャスパー・モリソンによるFugu(アームチェア)¥140,000、深澤直人によるRoundish(アームチェア)¥99,000

深澤の友人でもある世界的デザイナー、ジャスパー・モリソンも2011年よりデザイナーとして参加。ジャスパー・モリソンによる90周年記念モデルもリリースされている。
(写真左から)ジャスパー・モリソンによるFugu(チェア)¥120,000、ジャスパー・モリソンによるFugu(アームチェア)¥140,000、深澤直人によるRoundish(アームチェア)¥99,000

「技術力のあるメーカー」とはなにか? とりわけ“工芸の工業化”をモットーとするマルニ木工の技術力について、深澤はこう語る。

「熟練した職人さんがいれば、1品の優れた製品を作ることはできるでしょう。それをたくさん作れるようになって、はじめて“技術力がすごい”と言えるのです。木の素材の性質を知り尽くした職人さんによる加工技術だけでなく、量産するための生産技術がマルニ木工にはあります。とりわけ僕がおもしろいと思ったのは、マルニ木工では、かつて手で木材を加工していた職人さんが、コンピューターで切削機械のプログラミングをしている点です。どういう風に木を削ればよいかを知り、その加工技術を持つ人が、正確かつスピーディに生産するための技術に関与している。それこそ工芸の工業化です。そして、その“すごい技術力”の上に、“HIROSHIMA”は生まれたのです」

画像: 深澤が「マルニ コレクション」でデザインした、Roundishアームチェア。「本能的に、人間は木で作ったものが好き。その素材への愛着を活かしたデザインであることも、僕の中では重要です」

深澤が「マルニ コレクション」でデザインした、Roundishアームチェア。「本能的に、人間は木で作ったものが好き。その素材への愛着を活かしたデザインであることも、僕の中では重要です」

 現在、“HIROSHIMA”は世界中で愛用されている。空港のファーストクラスのラウンジやレストラン、カフェなどはもちろん、オフィス空間にもこの椅子はしっかりなじむ。実際に、米国アップルの新社屋「アップル・パーク」には、数千脚もの“HIROSHIMA”が設置された。それはこの椅子が世界の定番になった確かな証明だが、今年、この“HIROSHIMA”が名品であるという証がもうひとつできた。

 マルニ木工の90周年記念イベントが行われる数日前の5月22日、深澤は、世界的な彫刻家イサム・ノグチの革新性を共有する芸術家に贈られる、イサム・ノグチ賞を受賞したのである。深澤の子どものころの夢のひとつは彫刻家。特にイサム・ノグチに憧れ、デザイナーを志した後も、彼が残した仕事から“造形とは何か”を学んだという。

「授賞式の際に聞いた話では、今回、僕が賞に選ばれたの理由のひとつが、この“HIROSHIMA”だったそうです。僕はモノをデザインするにあたって、機能性と存在感を大切にしてきました。機能性とは使いやすさ。椅子の場合なら座り心地です。ただ、人は椅子にずっと座っているわけではない。椅子がそこに置かれていることで生まれる空気感、その空間のクオリティを上げるモノとしての存在感を作るのも、デザインの役目なのです。イサム・ノグチ賞をいただいたのは、“HIROSHIMA”が、単に工芸的な椅子ではなく、彫刻的な椅子として認められたということ。そのとき、僕はこの“HIROSHIMA”は自分にとって“生涯の名作”になったと、改めて思ったのです」

深澤直人(NAOTO FUKASAWA)

プロダクトデザイナー。卓越した造形美とシンプルに徹したデザインで、国際的な企業のデザインを多数手がける。電子精密機器から家具、インテリアに至るまで手がけるデザインの領域は幅広く、多岐にわたる。デザインのみならず、その思想や表現などには国や領域を超えて高い評価を得ている。マルニ木工のアートディレクターやMUJIのアドバイザリーボードなど、多くの企業のコンサルティングも務める。英国王室芸術協会の称号を授与されるなど受賞歴多数。2018年、「イサム・ノグチ賞」を受賞。多摩美術大学教授。日本民藝館館長。作品集『Naoto Fukasawa EMBODIMENT』(Phaidon)が2018年春に発売

問い合わせ先
マルニ木工
TEL. 03(5614)6598
公式サイト

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