建築家の伊東豊雄が毎月のように足を運ぶ島がある。瀬戸内海の大三島は人口約6,000人の美しく穏やかな島。伊東は建築、そして人々の暮らしの未来の可能性がこの島にあると考えている

BY JUN ISHIDA, PHOTOGRAPHS BY YASUYUKI TAKAGI

 まず伊東が塾生たちと取り組んだのは、廃校を再利用した民宿のリノベーションだった。〈大三島憩の家〉は、旧宗方小学校の木造校舎を用いた宿で、島を訪れる観光客はもちろん、地元でも集会場所として親しまれてきた。だが老朽化や耐震の問題から取り壊しの話が持ち上がる。伊東は人々の思い出が詰まった建物を壊すのは忍びないと、塾生とともに改修に取り組んだ。今年4月に再オープンした宿は、元の建物を生かしつつ、耐震補強や屋根、床下の改修を行い、モダンなインテリアの洋室も備えたホテルとなった。「オープンしたばかりですが、廃校を改築した宿泊施設のランキングでベスト5に入りました。地元の食材を生かしたメニューを作るなど、もうひと頑張りして島のよさを発信してほしい」と伊東は語る。

画像: 〈大三島憩の家〉は木造建築の廃校を再利用 ほかの写真をみる

〈大三島憩の家〉は木造建築の廃校を再利用
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画像: 〈憩の家〉の食堂で伊東と談笑する経営者の藤原夫妻。島出身だが、一度島外に出て戻ってきた。宿の改修にはふたりもペンキ塗りなどで参加 ほかの写真をみる

〈憩の家〉の食堂で伊東と談笑する経営者の藤原夫妻。島出身だが、一度島外に出て戻ってきた。宿の改修にはふたりもペンキ塗りなどで参加
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そしてもうひとつ実現したプロジェクトが、大山祇神社の参道沿いにある建物を改修した〈大三島みんなの家〉だ。〈みんなの家〉は、伊東が東日本大震災を受けて東北の被災地で始めたプロジェクトの名称でもある。仮設住宅で暮らす人々が孤立せずに、周りとのつながりを持てる交流の場を作ろうと、塾生や志を同じくする建築家たちと連携しながら16棟を建設した。〈大三島みんなの家〉は、空き家の目立つ参道を活気づけようと、法務局として使われていた木造の建物を改修し、島民と外から来る人々をつなぐカフェとして活用している。

画像: 〈大三島みんなの家〉は、日中はカフェ、夜はワインバル(不定期)として営業 ほかの写真をみる

〈大三島みんなの家〉は、日中はカフェ、夜はワインバル(不定期)として営業
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画像: 〈みんなの家〉のスタッフ、久保木さん(左)と関戸さん。 ふたりとも島外出身で、関戸さんは移住希望で伊東建築塾に参加したのち、家族でこの島に移り住んだ ほかの写真をみる

〈みんなの家〉のスタッフ、久保木さん(左)と関戸さん。
ふたりとも島外出身で、関戸さんは移住希望で伊東建築塾に参加したのち、家族でこの島に移り住んだ
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画像: 高校のオープンキャンパスのために集まった建築家や塾生、スタッフが食事。家具は高校の生徒がワークショップで作った ほかの写真をみる

高校のオープンキャンパスのために集まった建築家や塾生、スタッフが食事。家具は高校の生徒がワークショップで作った
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 大三島での活動が始まってから7年。島民に受け入れてもらおうと塾生たちが汗水垂らしながら進めてきたプロジェクトも形になり始め、ようやく伊東建築塾の活動も島に浸透してきた。「ここ2年ぐらいで少しずつ形になり始めました。最初は理想的なことばかりを主張していたけれど、それを具体化する術を、島の人々や移住してきた人たちが教えてくれたことが大きかった」。大三島で目指す明日のライフスタイルとは何かを問いかけると、「土の上にいる暮らし」という言葉が返ってきた。

画像: 〈大三島みんなのワイナリー〉でワイン醸造に取り組む川田さんも移住者。昨年、初のワイン「島紅」が試験的な委託醸造で完成した ほかの写真をみる

〈大三島みんなのワイナリー〉でワイン醸造に取り組む川田さんも移住者。昨年、初のワイン「島紅」が試験的な委託醸造で完成した
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「建築をもう一度、人間にとり戻さなければなりません。自然の風が吹き抜けてゆく心地よさを感じられる場所で、21世紀の建築は構想されると思います」。島にある空き家をどうするか、バスが一日数本しかない島での移動手段をどう生み出すかなど、挑戦したいことはまだまだある。「空き家を改修してシェアハウスやオフィスにしたり、老人が安心して乗れる無人運転の自動車を運用したりと、この島は地方社会が抱える問題の解決手段を模索する場にもなりえます」。大三島は、私たちの未来のライフスタイルを描き出すキャンバスなのだ。

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