BY JUN ISHIDA, PHOTOGRAPHS BY MANAMI TAKAHASHI
「リボンチェア」や「タンチェア」など、有機的なフォルムの家具のデザインで知られるピエール・ポラン。70年代にフランス大統領官邸エリゼ宮内にある大統領の私邸のインテリアデザインを手がけるなど、フランスを代表するデザイナーでもある。2009年に逝去したポランの実験的な家具を展示するプロジェクトが東京で関係者に向けて開催された。21世紀の主要建築物の中に家具を置くという試みは今回が2回目となり、第一回目は2019年にフランス・ボルドーにあるレム・コールハウスが手掛けた名作住宅「ボルドーの家」こと「ルモワーヌ邸」で開催され、東京では、谷口吉生の処女作である「雪ヶ谷の家」(1975年竣工、2022年リストアが行われた)が会場に選ばれた。
展覧会を主催したのは、ポランの作品の流通、開発、保存を行う会社「Paulin,Paulin, Paulin」で、ピエールの息子であるベンジャミン・ポランとその妻であるアリス・ルモワーヌが代表を務める。「雪ヶ谷の家」で展示する作品はベンジャミンがキュレーションし、ピエールと日本文化の関わりや、会場となる建築物の特徴から約20点を選んだ。ピエールは1970年に開催された大阪万博で、フランスパビリオンのソファをデザインしているが、「その時代、父は日本と中東の文化に魅せられていた」とベンジャミンは振り返る。特に「雪ヶ谷の家」のリビングルームに置かれたモジュールソファ「デューン」と床置きのパネル「タタミ」は白い折り紙を連想させるが、そのことを尋ねるとベンジャミンは次のように述べた。
「60年代から70年代初頭にかけて父は多くの旅をして、日本も訪れました。日本文化と中東文化について発見したことを、父は自分自身のやり方でもって、モジュールプログラムに活かそうとしたのだと思います」
ポランは1968年から72年にかけてアメリカのハーマンミラー社と共同で、集合住宅向けのモジュール家具のプロジェクト「プログラム」を構想する。70cmと105cmの2種類のグリッドを組み合わせて、椅子やソファからテーブル、間仕切りや収納までを作る画期的なプロジェクトだったが、複雑で生産コストがかかる上、不運にもオイルショックが重なり、プロトタイプは作られたが、市場に出回ることはなかった。ベンジャミンとアリスは、このプロジェクトが存在した証として、オーダーメイドのプロダクトとして復刻させた。
「父は、家具と建築の境目がなくなることを目指していました。ここでの展示のように、まるで床から家具が生えてくるようなイメージです」
日本からのインスピレーションは、エリゼ宮のために作られた「エリゼプログラム」にも感じ取れる。展示では、1階にライト、2階にテーブルと椅子が置かれているが、そのシンプルな形状は、「日本の家紋を思わせる」と言う。
「父は日本の家紋にまつわる本にも興味を持っていて、その有機的な形をグラフィックに置き換えたものにインスピレーションを受け、自分の作品に反映させたんだと思います。地下の書斎スペースには木の椅子を置きましたが、これは父の木という素材への関心を示すものであり、自然素材を大事にする日本文化との関連を示すものでもあります」。
住宅で作品を見せる意味について、「ルモワーヌ邸」で生まれ育ったアリスが「ミュージアムは多くの人に知識を伝えてゆくという役割を果たすという意味で重要ですが、そのデザインの持つ感覚的な要素が伝えられないように感じていました。経験としてのデザイン、生きたデザインの活用の仕方を紹介するために始めたのがこの展示シリーズです」と述べると、ベンジャミンは「私たちは新しい世代に語りかけるために、昔作られたデザインを再び蘇らせ、現代の生活と関連づけるものにしたいのです」と続けた。
ボルドーも東京も、いずれも街の中心地とは離れた場所を選んだのも重要だという。「喧騒や群衆から離れて、ちょっとした時間を過ごすことができます。地域の特性を活かしながら、ゆっくりと小さな展示を作っていくことも私たちのコンセプトの一つ。その方が、よりよくデザイナーのメッセージを伝えることができます」
「雪ヶ谷の家」に関しては、「スケールとプロポーションが素晴らしい」と2人はこの場所の心地よさを満喫しながら述べる。「実は私たちのパリの家に似ているんです。外とのつながりがあって、とても静かで。高い天井の空間もあれば、プライベートな低い天井の空間もあって。父も目指していたのは、人々に快適に感じてもらう空間づくりだったと思います」。
Paulin,Paulin, Paulin 公式サイト https://paulinpaulinpaulin.com/