トビア・スカルパ、マリオ・ベリーニ、ガエターノ・ペッシェ。半世紀前にソファの歴史を塗り替えた3人のイタリア人デザイナーは、80代になった現在もその先駆者として、デザイン界の最前線に立ち続けている。彼らが生んだソファは時がめぐり、今、さらなる熱い注目を浴びているのは何故か。3人が語る言葉から、その背景を探る

BY ALICE NEWELL-HANSON, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

画像: 《トラモント・ア・ニューヨーク》(1980年発表、2022年にカッシーナより復刻)に腰かけたガエターノ・ペッシェ。2023年1月10日、ニューヨークにてDaniel Terna撮影

《トラモント・ア・ニューヨーク》(1980年発表、2022年にカッシーナより復刻)に腰かけたガエターノ・ペッシェ。2023年1月10日、ニューヨークにてDaniel Terna撮影

 第一次世界大戦後から数十年にわたってヨーロッパではシャープで直線的な〈モダニズム建築〉が広がった。その第一人者が、スイスで生まれ、主にフランスで活躍したル・コルビュジエだ。装飾を排し、シンプルな機能性を追求した彼は「住宅は住むための機械だ」という名言を残し、「椅子は建築だが、ソファはブルジョワのもの」とも語ったらしい。だがル・コルビュジエが軽視していたソファは20世紀の暮らしを語るうえで外せない家具となり、皮肉にも彼の不朽の名作として愛され続けているのは《グランコンフォート・グランモデル》という〈ソファ〉だ。1928年に、いとこのピエール・ジャンヌレと、フランス人デザイナー、シャルロット・ペリアンと共作した、メタルフレームにレザークッションをはめ込んだこのソファは、のちに《LC3》と呼ばれ、今にいたるまで繰り返し生産されてきた。

 《LC3》誕生から一世紀がたち、ソファは住空間の絶対的な主役になっている。1960年代後半から70年代前半にかけて社会は急激に変化し、テレビを観るためのソファ(70年代の全米でテレビ保有率は95%だった)が普及し、カジュアルなライフスタイルが広まった。そしてここ最近になって、そのカジュアル化が再び進んでいる。テレビドラマの質が格段に上がり、コロナ禍の外出自粛でくつろぐ時間が増え、ハイブリッドワークが導入されたからだ。また1970年代といえば〈ラウンジスタイル〉の全盛期だったが、その要素が最近のインテリアによく取り入れられている。たとえばやわらかなカーブや、温かみのあるニュートラルカラー、レザーやスエードなどのナチュラルな素材。カフタンをまとってダウンフロア(註:ほかの床面より一段下げたスペース)でカクテルタイムを楽しむという、当時の艶やかなラウンジシーンを彷彿させるローソファもリバイバルしている。こうした流れもあって、1970年代前後にイタリア人デザイナーたちが手がけた3つのソファはいまだ根強い人気を誇っている。綿雲のようなトビア&アフラ・スカルパ作の《ソリアナ》(1969年)、ちぎりパンのようなマリオ・ベリーニの《カマレオンダ》(1970年)、NYの地平線を模したガエターノ・ペッシェの《トラモント・ア・ニューヨーク》(1980年)。それぞれがとびきり個性的でアイコニックだ。

画像: 《ソリアナ》(1969年に彼と妻のアフラがデザイン、2021年にカッシーナより復刻)に座るトビア・スカルパ。2022年12月5日、イタリア・メダにてFederico Ciamei撮影

《ソリアナ》(1969年に彼と妻のアフラがデザイン、2021年にカッシーナより復刻)に座るトビア・スカルパ。2022年12月5日、イタリア・メダにてFederico Ciamei撮影

 こうしたレトロなインテリアのキーファクターとなるのがイタリアだ。ミラノ在住の建築家・学者のヴィットリオ・グレゴッティは、1972年にニューヨーク近代美術館で開かれた画期的なデザイン展「イタリア:新しい住居のランドスケープ」(過去10年に制作された家具等180点以上を展示した)のカタログにこう記している。「戦後の経済復興、産業発展に支えられ、歴史あるクラフツマンシップに裏打ちされたイタリアのデザインは、今や国際的に見て1950年代に注目された北欧の〔グッドデザイン〕と同じポジションにある」。展覧会にはベッリーニ、ペッシェ、スカルパ夫妻の作品も並んだ。ル・コルビュジエと同様、建築家としても活躍してきた彼らのレガシーを不変にしたのは名作のソファだ。《ソリアナ》、《カマレオンダ》、《トラモント・ア・ニューヨーク》は1995年までにどれも一旦生産が打ち切られたが、コレクターやインテリアデザイナーの間で人気が再燃し、再びメーカーが復刻版を発表している(コピー品も多く出回っている)。

 ル・コルビュジエが提唱したモダニズムの主眼は、デザインによって人間の行動を変え、ユートピアの思想を形にすること。だがイタリア人デザイナーたちが目指したのは、変化していく人間の行動に合わせた、ユニークで型破りなデザインをすることだった。《ソリアナ》は、マイクロフォームの分厚い楕円形の座面と背もたれを、少しシワがかった張り地ですっぽり包み込み、光沢のあるメタルの留め金で固定したソファだ。厳格な幾何学的ラインが特徴のミッドセンチュリーモダンに対抗するようなデザインを生んだトビア・スカルパ(88歳)は最近こう語ってくれた。「ドサッと座り込んで、ゆったりくつろげるソファが創りたかったんです」。ベリーニ(88歳)の《カマレオンダ》は、表面にやわらかな起伏がある約90×90㎝のソファを自由に複数組み合わせて使うことができる。この前代未聞のユニットソファを創案したベリーニは「急速に変化した社会のニーズを汲み取った」と説明する。《トラモント・ア・ニューヨーク》はいくつか並べた立方体のクッションが、摩天楼を思わせるソファだ。約1.2m幅の背もたれは夕陽の形で色も赤。激動の時代をようやく通り抜けたマンハッタンへのオマージュだという。「デザインするのは、実用的なものとは限りません。これからの未来は、なにか意味のあるデザインをしなければ」とペッシェ(83歳)。

画像: 《カマレオンダ》(1970年発表、2020年にB&B Italiaより復刻)でくつろぐマリオ・ベリーニ。2022年11月29日、イタリア・ノヴェドラテにてFederico Ciamei撮影

《カマレオンダ》(1970年発表、2020年にB&B Italiaより復刻)でくつろぐマリオ・ベリーニ。2022年11月29日、イタリア・ノヴェドラテにてFederico Ciamei撮影

 3つのソファは奥行きがあり、幅が広く、座面が低めで、いかにも当時らしいテイストだ。広いスペースに置かれる前提で創られたので、開放的なリビングルームでも際立って見える。これらのソファが再評価されたのはインターネットのおかげでもある。特にソーシャルメディアは、オブジェそのものだけでなく、その世界観や美意識も伝えることができる。ロサンゼルスを拠点に活躍する有名インテリアデザイナー、ケリー・ウェアスラーがSNSに公開した写真がその好例だ。彼女がマリブの海沿いに持つ別荘のリビングルームに、クリーム色の布を張った《ソリアナ》を置いていたことから、2010年代初期にこのソファの人気が再燃し、若い世代の心もつかんだ。一般的に保存状態のよいソファは市場にもオークションサイトにも出回らず、そのレアさに人々はますます惹かれ、販売価格も高騰する。こうして復刻版が登場し、そこから派生して別のソファまで注目を浴びるようになっている。たとえば1972年にベリーニが発表した、コンパクトに圧縮したような、ずんぐりした形のソファ《レ・バンボレ》。このオリジナル版はネット上でプレミアム価格で出品され、昨年はメーカーがリニューアルモデルを発売した。

 これらのソファが現代の〈美学の基準〉になったのは、発表当時から時を経たいまも先鋭的だからだ。彼らのデザインには、日常生活を豊かにする、人間的な温もりがあり、類を見ないほど独創的だ(誰もが《ソリアナ》の、あのフォカッチャのようなくぼみに身を沈めてみたいと思うはずだ)。そのうえ3人は時代の変化を敏感にキャッチしている。ペッシェは昨今のオーバーサイズのトレンドを汲んで、復刻版《トラモント・ア・ニューヨーク》をオリジナルのサイズより10%ほど大きくした。また、どのソファもリニューアルを機にサステナブルな仕様に進化している。これらのソファが初めて世に出た当時、人気が長続きしなかったのは、単に登場が早すぎたからだろう。ベリーニはこう言っている。「いくつかの作品は、未来のためにデザインしていたんですよ」

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