BY SHOUKO FUJISAKI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO
選曲も自由だ。ベティ・カーターの歌を何度も間近で聞いた「I Cover The Water Front」のようなスタンダードナンバーもあれば、チャイコフスキーの「舟歌」も。「チャイコフスキーやラフマニノフの音楽って、バターとホイップクリームとサワークリームが全部入ってるようにこってりで、じつは苦手。だから、あえてそんな曲で遊んでみました」
イヴァン・リンスの「Começar De Novo」やアース・ウィンド&ファイアーの「After The Love Has Gone」では、ギタリストの馬場孝喜との伸びやかな掛け合いが印象的だ。「目指したのは、ビル・エヴァンスとジム・ホールの『アンダー・カレント』や、エラ・フィッツジェラルドとジョー・パスの『テイク・ラヴ・イージー』のような世界。馬場さんのようなスキルを持った人は今まで周りにいなかった。二人で音の対話をしていると、おもしろい“話”になるんです」
対話といえば、「先日、元プロレスラーの蝶野正洋さんと対談をしたんです。『プロレスとは』と尋ねると、『受けること』という答えが返ってきました。相手が繰り出した技をどう受けるか、あるいはわざとかわすか、その受け方でゲームメイクが決まるというんです。ジャズと同じだ!と思いました。他者とのアンサンブルこそがジャズの醍醐味。共演者に技を出させるベースをみんなでつくること、それがみんなでスイングするということ。技がイケてなかったらシカトしたり、その場で起きるコミュニケーションが楽しい。だから全員の実力や方向性がそろっていて、互いへのリスペクトがないとつまらない。いまトリオでツアーを回っている井上陽介(ベース)や高橋信之介(ドラムス)とも、お互いより自由になってきて、面白い試合ができています」
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ところで、ジャズ黄金期を支えたミュージシャンたちの息づかいを伝える一冊に、『Three Wishes』という本がある(邦訳『ジャズ・ミュージシャン3つの願い』P‐Vine BOOKs)。チャーリー・パーカーやセロニアス・モンクら多くのジャズメンを物心両面で支えたパノニカ男爵夫人が、300人のミュージシャンに「あなたの人生における3つの願いは?」と質問してまとめたものだ。その本にならって尋ねてみた。大西順子にとってのThree Wishesとは?
「まず、大きな手。そしてタイムマシーン。50年代、60年代に行って、生で見たいものがたくさんあります。エリントンのビッグバンド、エリック・ドルフィーのセクステット、コルトレーン、ウィントン・ケリー……そして何といっても唯一無二の天才、アート・テイタムを生で聞きたい。チャーリー・パーカーをはじめとするビバップ時代の先を行っていたあのハーモニーセンス!」。敬愛するプレイヤーの名前が、途切れることなく続く。
あとひとつは?「使っても減らないお金。のたれ死にや孤独死をしないために」。経済的などん底を見た彼女ならではの、切実な答えだった。
現在、アルバム発売記念のツアーを全国のライブハウスで展開中。締めくくりのホールコンサートが7月6日、有楽町朝日ホールで行われる。
「大西順子 Very Glamorous Tour Final」
期日:2018年 7月6日(金)19:00開演
会場:有楽町朝日ホール
住所:東京都千代田区有楽町2-5-1 有楽町マリオン11F
チケット:¥6,800(税込み・全席指定)
電話: 03(3267)9990
(朝日ホールチケットセンター、日・祝を除く 10:00~18:00)
公式サイト