『海辺の生と死』、『静かなる情熱 エミリ・ディキンスン』。胸に熱い思いを秘めた女性を描いた映画2作が、今週末から公開される

BY REIKO KUBO

『死の棘』で知られる小説家、島尾敏雄は今年で生誕100年。そして島尾に小説の霊感を与えながら自らも書き手となった妻の島尾ミホが没後10年というこの夏に、ぜひとも観て欲しいのが『海辺の生と死』だ。映画は、島尾敏雄の『島の果て』や、映画と同名のミホの著作などをもとに描かれる。

 舞台は1944年の暮れ、奄美群島の加計呂麻島。沖縄が陥落した際に本土を死守するため、米戦艦に爆薬もろとも体当たりする特攻艇の秘密基地が島に作られる。その隊長として赴任してきた若い海軍中尉と島の国民学校の代用教員が出会い、神と人が共存する島の深い森と海との間でゆるやかに心を通わせ合う。

画像: 島尾敏雄とミホの原作をもとに、満島ひかり、永山絢斗が共演

島尾敏雄とミホの原作をもとに、満島ひかり、永山絢斗が共演

 そんな男女の睦み合いはしかし、防空壕の中の島人たちが毒を手に覚悟する死と隣り合わせだ。島の巫女のような存在感を放ちながら、楽園につかのま燃え上がる極限の愛を全身全霊で演じるのは、奄美に出自を持つ満島ひかり。「トットちゃんねる」「カルテット」など、このところTVドラマでの活躍が目立った彼女だが、静かにほとばしる思いでスクリーンを震わせる本作は、『愛のむきだし』以来の代表作となるだろう。

 島尾敏雄役の中尉を演じるのは永山絢斗。監督は、『かぞくのくに』など数々の秀作をプロデュースし、一昨年『アレノ』で監督デビューを果たした越川道夫。かつてプロデュース作『路地へ 中上健次の残したフィルム』で作家・中上の原風景を辿った監督が、今回は島唄が流れる風土と伝統、燃える緑、湿気や海風など、島尾ミホが描いた景色をフィルムに映しとりながら、やまない戦争への苦い思いを込めて、永遠の夏の物語を紡ぎあげた。

画像: 戦時中にものどかな日常があった島にも、やがて戦闘機が押し寄せ…… © 2017 島尾ミホ / 島尾敏雄 / 株式会社ユマニテ

戦時中にものどかな日常があった島にも、やがて戦闘機が押し寄せ……
© 2017 島尾ミホ / 島尾敏雄 / 株式会社ユマニテ

『海辺の生と死』
2017年7月29日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
公式サイト

 そしてもう1本、女作家の狂おしい思いに触れて、ひととき暑さを忘れるのが『静かなる情熱 エミリ・ディキンスン』だ。この19世紀の女性詩人を演じるのは、『セックス・アンド・ザ・シティ』のエミリ役でスターダムに乗ったシンシア・ニクソン。彼女自身、熱烈なディキンスンのファンだという。

 今やアメリカを代表する詩人の一人であるディキンスンだが、その生前に発表した詩はわずかに10編。彼女は「有名な文学は男の作品、女には不朽の名作は書けない」と編集者に言われながら、それでも「私の魂は私のもの」と詩作への情熱を静かに燃やし続ける。しかし19世紀の厳しいピューリタン主義の下、マサチューセッツの小さな町アマストで彼女が詩を書けるのは、家族が寝静まった深夜だけ。昼は白いドレスを着て家に引きこもり、パンを焼く日々。そのパンも、品評会で入賞するほどの腕前だったそう。

画像: 詩作はディキンスンの日常であり、唯一の救いだった

詩作はディキンスンの日常であり、唯一の救いだった

 そんなディキンスンの詩に世界がひれ伏すのは、彼女が冴えた目で生と死を見つめ、55歳で世を去った後のことだ。妹のラヴィニアが姉の部屋で発見した詩は1800篇にも上った。時代に阻まれながらも男性社会に組み伏せられることを拒み、30歳という若さで隠遁生活に入り、自分らしく生きるために孤独を厭わなかった詩人の心の震えが痛いほど胸を射る。その痛みは日を追うごとにじわじわと広がり、彼女の言葉に触れずにはいられなくなるだろう。

画像: 生涯独身を通し、30代半ば以降は白いドレスを着て隠遁生活を送った © A QUIET PASSION LTD/HURRICANE FILMES 2016. ALL RIGHTS RESERVED.

生涯独身を通し、30代半ば以降は白いドレスを着て隠遁生活を送った
© A QUIET PASSION LTD/HURRICANE FILMES 2016. ALL RIGHTS RESERVED.

『静かなる情熱 エミリ・ディキンスン』
2017年7月29日(土)より岩波ホールほか
公式サイト

 

This article is a sponsored article by
''.