歌舞伎ワールドへようこそ。劇場の扉、時空の扉、そして心の扉を開いて、絢爛たる異世界へと誘う連載。第一回に続き、片岡仁左衛門さんに“時代物”の見どころをうかがった

BY MARI SHIMIZU, PHOTOGRAPHS BY KEISUKE ASAKURA

 実盛という人物の潔い生き様や作品の魅力について改めて訊ねると、意外なことに「あまり深く考えたことはない」という答え。「そうしたことにこだわってばかりいると、芝居がこせこせしてしまいます。芝居や役によってその度合いは異なりますけれども、このお役は掘り下げすぎるのはよくないですね」

画像1: 「歌舞伎への扉」 Vol.2 
“役者の華”に酔いしれる。
――片岡仁左衛門に聞く
続・「時代物」の味わい方

 さて、仁左衛門さんにとって今回の『実盛物語』は7演目、12年ぶりとなる。仁左衛門さんが実盛という役を初めて演じてから半世紀近い時が経った。「体力が衰えても芸でカバーできるお役もあります。けれど、実盛はそうではありません」。今ならやれる。しかし永遠にやれるわけではない。芸の成熟度と体力と、両者のバランスがもっとも均衡した時の舞台に出会えた観客は幸せだ。それがいつなのかは明確にはわからない。ただ、今度の舞台が仁左衛門さんにとって、貴重な上演であることは確かだろう。

 今やっておきたい、という思いには別の理由もある。「同じ演目でも役者によっていろいろなやり方があります。こういうやり方もある、ということをご覧いただきたかったのです。これは若いころに憧れていた寿海のおじさん(註3)がなさっていたように、爽やかさを大事にしたいんです」

 人形浄瑠璃にルーツのある時代物の作品には、必ず義太夫と呼ばれる語りと三味線が入り、さまざまな場面で舞台を盛り上げている。そこに俳優の発するせりふがどう融合していくのかは聴きどころで、その劇的効果を音楽的に楽しむのに理屈は不要だ。

「演目によっては深く掘り下げなければいけませんが、こういう演目は、ご覧になる方にもドラマや理屈ばかりを追い求めるのでなく、歌舞伎独特の雰囲気というものを味わっていただきたいですね。歌舞伎には役者の華で魅せる芝居というものもあるのです」。義太夫とせりふが融合する心地よいテンポ、役の人物がもつ清々しい格好よさ、そして何よりそれを演じる”役者の華”。頭でばかり理解しようとせず、目や耳から入るものをまず純粋に受け取る。五感を解放して向き合えば、時代物、ひいては歌舞伎の愉しみ方は自ずと広がっていくはずだ。

註1)『時代物』
江戸時代の庶民の日常に起こった出来事を扱った”世話物“に対して、武士階級以上を主人公とした作品のこと。狭義では源平から戦国時代の武将を主人公とするものを指し、広義では平安期までの公家社会を舞台とする物語や、徳川時代に起こった武家の事件を時代を置き換えて描いた作品などが含まれる。
註2)『勧進帳』
歌舞伎の人気演目のひとつ。兄・頼朝に追われる身の義経が、弁慶の必死の活躍により安宅の関を無事に通過するまでの、義経主従と関守の富樫が繰り広げる物語
註3)寿海のおじさん
三世市川寿海(1886~1971)のこと。戦後の関西歌舞伎を牽引した立役のひとりで、朗々たる名調子で観客を魅了した。1960年、重要無形文化財(人間国宝)に歌舞伎立役として初めて認定される。1963年文化功労者

四月大歌舞伎
<演目>
昼の部『平成代名残絵巻』『新版歌祭文』『寿栄藤末廣』『御存 鈴ヶ森』
夜の部『実盛物語』『黒塚』『二人夕霧』
会期: 2019年4月2日(火)~4月26日(金)
会場:歌舞伎座
住所:東京都中央区銀座4-12-15
料金:1等席 ¥18,000、2等席 ¥14,000、3階A席 ¥6,000、3階B席 ¥4,000、1階桟敷席 ¥20,000
公式サイト

<チケットの購入は下記から>
電話: 0570-000-489(チケットホン松竹)
チケットWEB松竹

 

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