BY AZUMI KUBOTA
「今、ここ」で立ち会わなければ失われてしまう舞台芸術だが、才能ある作り手による傑作は、映像からもそのエッセンスがたちのぼる。アリアーヌ・ムヌーシュキンの太陽劇団、イヴォ・ヴァン・ホーヴェのITA、世界の演劇界の至宝たちによる映像作品は、単なる舞台記録にとどまらず、あらゆる枠組みを越境して観客の心をつかむ劇的体験となるはずだ。現代を鮮やかに切り取り、〝起きながら見る舞台の夢″に耽溺する5日間の特集上映。
アリアーヌ・ムヌーシュキンは、今年7月に亡くなったピーター・ブルックに並ぶ、演劇で大きな夢を見せてくれる大演出家のひとり。彼女が率いる太陽劇団(テアトル・デュ・ソレイユ)は、58年の長きにわたって独自の演劇活動を行なってきた。パリ郊外の弾薬庫跡を拠点に、多様な国籍・出自をもつメンバーが集団創作の手法で生み出す作品はダイナミックにして斬新。コメディア・デラルテから発し、アジアの伝統芸能までを取り入れた豊かな身体性で、劇場は祝祭空間と化す。またスタッフ、キャストの区別なく平等な権利を有する集団のあり方は、演劇のユートピアを体現しているとも評される。
今回の上映会で取り上げるのは、舞台という枠を超えて羽ばたく2作品。どちらも演劇的な仕掛けに満ち、また映像ならではの没入感を得られる大作である。
一方の演出家イヴォ・ヴァン・ホーヴェは、イザベル・ユペール出演「ガラスの動物園」の日本公演(新国立劇場)を行なったばかり。彼の劇団ITA(インターナショナル・シアター・アムステルダム)は、現在最もスタイリッシュで挑発的な舞台として世界の注目を集める。上映作品は、2020年に来日を予定していたが、新型コロナウイルスの影響により中止となった「ローマ悲劇」。
いずれの作品も4時間を超える大長編。おそらく今後日本で目にする機会はかなり限られてくる。遠からず出会えるであろう彼らの現実の舞台公演への期待に胸を高鳴らせながら、見応え充分の映像作品を味わう絶好の機会をお見逃しなく。
東京芸術祭2022 芸劇オータムセレクション
『WORLD BEST PLAY VIEWING ワールド・ベスト・プレイ・ビューイング』
会期:10月5日(水)〜10月9日(日)
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
住所:東京都豊島区西池袋1-8-1
料金:全席⾃由・入場整理番号付・税込。(⼀般)¥2,500 、(65歳以上)¥2,000 、(25歳以下)¥1,000、ほかセット券・割引あり
TEL:東京芸術劇場ボックスオフィス 0570-010-296(休館日を除く10:00~19:00)
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