2025年5月、「團菊祭五月大歌舞伎」の開幕とともに、ひとつの名跡が新たな命を得た。それは未来の歌舞伎界の希望に満ちた存在である尾上丑之助改め、六代目尾上菊之助。祖父・七代目尾上菊五郎、父・八代目尾上菊五郎という名優を父祖に持ち、名門・音羽屋の三代揃っての襲名披露が実現した

BY SHION YAMASHITA, PHOTOGRAPHS BY WATARU ISHIDA

画像1: 『菅原伝授手習鑑』「車引」梅王丸=六代目尾上菊之助

『菅原伝授手習鑑』「車引」梅王丸=六代目尾上菊之助

 “名跡を生きる”という言葉が、これほどまっすぐなかたちで舞台上に立ち現れた瞬間が、果たしてこれまでにあっただろうか。

 今、新たな「菊之助」として初舞台を踏みしめた若き12歳に、初々しくも揺るぎない志が宿っている。

──「六代目尾上菊之助」として、最初の舞台を勤めて、今、何を思いますか?

六代目尾上菊之助(以下、菊之助):毎日舞台に出ているうちに、「ああ、自分は本当に菊之助になったんだ」と感じる気持ちが強くなっていきました。最初は実感がなかったのですが、舞台に立つことでだんだんと、その名にふさわしくあろうと自然と思うようになりました。

画像1: 『弁天娘女男白浪』弁天小僧菊之助=六代目尾上菊之助

『弁天娘女男白浪』弁天小僧菊之助=六代目尾上菊之助

画像2: 『弁天娘女男白浪』弁天小僧菊之助=六代目尾上菊之助

『弁天娘女男白浪』弁天小僧菊之助=六代目尾上菊之助

──襲名の発表を聞いたときはどんなお気持ちでしたか?

菊之助:襲名すると聞いた時は驚きました。自分が「丑之助」という名前ではなくなってしまうことに、少しさみしさを感じました。今は「菊之助」として自分にできることをひとつずつやっていこうと思っています。

──5月・6月と多彩な役に挑んでいらっしゃいました。印象に残った役や出来事はありますか?

菊之助:『弁天娘女男白浪』の菊之助は憧れのお役だったので、演じられてとても嬉しかったです。(手で掲げ持った)傘が動かないように、身体全体に傘の重みを乗せることを父(八代目尾上菊五郎)から教えてもらいました。

『京鹿子娘道成寺』では、お客様の「かわいい」という声が聞こえてきて、嬉しくなりました。玉三郎のお兄さんと一緒に踊っていると、自然に役に入っていける感覚があり、とても心強かったです。

画像: 『京鹿子娘道成寺』白拍子花子=六代目尾上菊之助

『京鹿子娘道成寺』白拍子花子=六代目尾上菊之助

画像2: 『菅原伝授手習鑑』「車引」梅王丸=六代目尾上菊之助

『菅原伝授手習鑑』「車引」梅王丸=六代目尾上菊之助

画像3: 『菅原伝授手習鑑』「車引」梅王丸=六代目尾上菊之助

『菅原伝授手習鑑』「車引」梅王丸=六代目尾上菊之助

 6月の昼の部『車引』の梅王丸では、力強く大きく決まるところ、また荒事の役なので、声が弱くならないように、お腹から出すことを心がけました。刀も、衣裳もとても重く、いい形にするのがとても難しいので初めはできなかったのですが、お稽古を頑張りました。止まっている時も格好良くなければいけないので、足の親指を立てるなど、一つ一つの振りに気をつけていました。

──『連獅子』の稽古では、お父様からどんなことを教わりましたか?

菊之助:父からは「獅子の毛ぶりは首じゃなくて、身体全体で振りなさい」と言われました。舞台上ではその意味がよくわかって、すごく大切なことを教えてもらったなと思いました。

画像: 『連獅子』狂言師左近=六代目尾上菊之助

『連獅子』狂言師左近=六代目尾上菊之助

──お父様が名乗っていた「菊之助」という名前を継ぐことについて、考えていることや感じていることがあれば教えてください。

菊之助:「菊之助」は、父が大きくしてくれた名前なので、その名前を小さくしたり、汚したりすることのないように、もっと大きくしたいと思います。

──学校やお稽古がお休みの日はどんなふうに過ごしていますか?

菊之助:大好きなMrs. GREEN APPLEの音楽をよく聴いています。リラックスできますし、気持ちも明るくなります。

画像: 『連獅子』狂言師左近=六代目尾上菊之助(右)、狂言師右近=八代目尾上菊五郎(左)

『連獅子』狂言師左近=六代目尾上菊之助(右)、狂言師右近=八代目尾上菊五郎(左)

画像: 『連獅子』狂言師左近=六代目尾上菊之助(前)、狂言師右近=八代目尾上菊五郎(後)

『連獅子』狂言師左近=六代目尾上菊之助(前)、狂言師右近=八代目尾上菊五郎(後)

──今後、やってみたいお役や夢があればお聞かせください。

菊之助:5月に「勢揃い」を勤めた『弁天娘女男白浪』の弁天小僧です。祖父や父が演じてきた「浜松屋」や「極楽寺屋根」の弁天小僧もいつか勤めたいです。

 そして、祖父(母方の祖父、二世中村吉右衛門)のように『盛綱陣屋』の盛綱や『義経千本桜』の知盛も演じたいです。

画像1: 『連獅子』仔獅子の精=六代目尾上菊之助

『連獅子』仔獅子の精=六代目尾上菊之助

画像2: 『連獅子』仔獅子の精=六代目尾上菊之助

『連獅子』仔獅子の精=六代目尾上菊之助

代々の名跡を受け継ぐということは、単に名前が変わるというだけではない。その名が培ってきた芸と精神をも受け継ぎ、未来へとつなぐ役目を担うことだ。幼き身体にその責任の重みを抱きながら、舞台の上で確かに、自分自身でその一歩を刻む六代目。素直で率直でありつつ、そこに漂う凜とした気配は、まさに音羽屋や播磨屋の血脈を感じさせるものだった。

この春、歌舞伎の歴史に、輝かしい“光”が新たに加わった。

六代目尾上菊之助(Onoe Kikunosuke)
東京都生まれ。八代目尾上菊五郎の長男。祖父は七代目尾上菊五郎、二世中村吉右衛門。2004年5月歌舞伎座『勢獅子音羽花籠』で寺嶋和史の名で初御目見得。2007年5月歌舞伎座『絵本牛若丸』の源牛若丸で七代目尾上丑之助を名乗り初舞台。96年5月歌舞伎座『白浪五人男』の弁天小僧ほかで五代目尾上菊之助を襲名。2025年5月六代目尾上菊之助を襲名。

【大阪】
松竹創業百三十周年
尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎襲名披露
尾上丑之助改め六代目尾上菊之助襲名披露
「七月大歌舞伎」

昼の部 11:00開演
一、『新版歌祭文』「野崎村」
二、『羽根の禿』『うかれ坊主』
三、『梅雨小袖昔八丈』「髪結新三」

夜の部16時30分開演
一、「一谷嫩軍記」『熊谷陣屋』
二、八代目尾上菊五郎 六代目尾上菊之助 襲名披露『口上』
三、新古演劇十種の内『土蜘』

※六代目尾上菊之助さんは、
昼の部『羽根の禿』、
夜の部『口上』『土蜘』に出演。

会場:大阪松竹座
住所:大阪市中央区道頓堀1-9-19
上演日程:2025年7月5日(土)〜24日(木)
休演日:10日、17日

問い合わせ:チケットホン松竹 TEL. 0570-000-489
チケットweb松竹

山下シオン(やました・しおん)
エディター&ライター。女性誌、男性誌で、きもの、美容、ファッション、旅、文化、医学など多岐にわたる分野の編集に携わる。歌舞伎観劇歴は約30年で、2007年の平成中村座のニューヨーク公演から本格的に歌舞伎の企画の発案、記事の構成、執筆をしてきた。現在は歌舞伎やバレエ、ミュージカル、映画などのエンターテインメントの魅力を伝えるための企画に多角的な視点から取り組んでいる。

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