BY JUNKO HORIE, PHOTOGRAPHS BY KAZUYA TOMITA

──上田さんが演じるのは、日本でいま最も愛されているカウチ探偵、影山。現場に出向いて捜査する刑事や探偵ではなく、室内にいたまま、与えられた情報から頭脳で分析し、解決へ導くカウチ探偵とご自身に共通点はありますか?
上田竜也(以下、上田) 頭だけを使ってという作業は、正直なところ苦手ですね……あまり得意ではなくて。推理系のマンガを読んでいても当たった試しがないんです(笑)。
──最近、初の小説『この声が届くまで』を出版されましたが、机上で小説を書きあげる熱量はお持ちなのでは?
上田 うーん、本は書きましたけど、書くという作業は、何となく自分の肌質にはあっていないような気がしました。
──小説は、どんな書き方をされていましたか?
上田 自分の中にある映像を言語化していく、という作業でした。ストーリーを一から作り上げて、小説らしい言葉で綴っていくというやり方だと、ちょっと無理だったかもしれない。
──影山の才能は、ご自身にはない部分だと認識するからこそ、興味深い役柄でもあるのでしょうか?
上田 そうかもしれないですね。
──音楽面でもプロデュースをされている上田さんだから、知らぬ間に頭を使って構成する才能があるのでは?
上田 そういうのは好きですね! 考えたことは文字化するし、伝えようとします。そういう方面は苦に思わないですね。そこは難解な問題を解いていく影山みたいなこととは違うかな。ただ今回、影山を演じることで、“ここは似ている”“ここは自分と近い”というところを見つけられる可能性はあるかもしれないですね。
──今作は小説、マンガ、ドラマ、映画とメディアミックス豊かな作品ですが、舞台での音楽劇化は初。音楽がまた新しい世界観を生み出す期待があります。観客のみなさんにとっては、好きな音楽、心を打つ音楽がバックにあると、そのシーンが一生忘れられないものになるのではないでしょうか。
上田 わかります、自分もそう。音楽ってすごく大事ですよね。変な話、どんなに怖いシーンでも、面白い音楽が流れていたら、たぶん怖くないですよ(笑)。逆も然りで、音楽の重要性は昔から感じていました。“このシーンにはこのBGMはないほうがいい”とお願いしたこともありました。たしか、『ロミオとジュリエット』のときだったかな。“もう少し、こういう音楽を”とか言わせてもらっていました。
──今回も、音楽が上田さんを助けてくれるかもしれないですね。
上田 音楽にはとても助けられると思います。お客さんからしても、音楽に楽しませてもらうこともあるでしょうし。その効果があるとないのとでは、全然違うと思うので。ただ、今回も自分が口を出すかどうかは、わかりません。演出家さんのやり方もありますから。『ロミオとジュリエット』のときは演者の希望、話を“なるほどねー”とよく聞いてくださる方だったので、言わせてもらっていたという感じです。自分も『ロミオとジュリエット』のころから比べると大人になりましたからね(笑)。プロに任せるところは任せる、という感覚が強くなってはいます。河原(雅彦)さんの演出によって、どんなふうにお客さんをワクワクさせるのかも楽しみにしています。

──影山は、ドラマ、映画では嵐・櫻井翔さんが演じて好評を得た役。上田さんが尊敬してやまない先輩が演じてきた役を演じることについては?
上田 もちろん光栄で。そして、どこか腑に落ちた感もありました。翔くんが演じた役を自分が……というのは、自分でも“エモいな”と思いつつ、同じ役だけれど、形を変えて俺がやらせていただくのは嬉しくもあり、“そうだよね”とも思ったり(笑)。いろいろな想いが巡りましたね。
──上田さんが演じる影山は、どういうところを大事にしたいですか?
上田 そこはまだわからないですね……自分は、演じることに対してはあまり我がなくて。納得さえできれば、演出家さんの意向に“わかりました”と向き合う感じです。気持ちの上での納得は大事にしてるかな。
──芝居に対して我を持たない主義?
上田 演じるその役のことであって、自分ではないですからね。役に自分の気持ちが入っちゃうと、“それはあなたの気持ちでしょ”ということになってしまうと思うし。役として、この気持ち、感情はわからないです、ということは、実はたくさんあるんですよ。なので、落としどころはいつも演出家さんと話し合いますね。
──近年、なかなか難解な作品、役柄が多かったように思うのですが、『謎解きはディナーのあとで』のようなコメディ要素もある作品はいかがですか?
上田 自分自身が難解さを望んでいたわけではないので(笑)。多かったのは、俺にそういう役をやらせたいって思ってくださる方々がいた、ということかなと思います。やってみないとわからないですけど、こういう作品のほうが気持ち的には楽しくやれるんじゃないかなと。死を考えたり、殺される役というのは、やっぱり、精神的に削られますから。
──しかし、コメディにはコメディの大変さもありますね。
上田 あります。コメディは本当に難しいと思います。テンポ感も大事だし、お客さんの笑いを取るというのは難しい。人を笑わせることの難しさは重々承知していますよ。シリアスなものとはまた違った大変さがある。河原さんが求めるテンポ感と合わせながら、現場は楽しく! 現場を楽しんでやることで、わかってくることも多いんじゃないかと。
──影山は執事ですが、一般の家庭にはまずいない、執事という役をどう捉えていますか?
上田 執事らしい立ち居振る舞い、所作って絶対にあるじゃないですか。そこが、パンフレット撮影のときも難しいなと思いました。執事らしさあっての、影山のドSなキャラクターが生きるので。どんどん身に付けていかなきゃいけないなと思っています。

──上田さんは毒舌な執事、影山。御曹司警部・風祭京一郎にはA.B.C-Zの橋本良亮さん。パートナーとなるお嬢様刑事・宝生麗子にももいろクローバーZの玉井詩織さんという、奇妙で愉快なトライアングル関係が、3人とも本業はアイドルであるというのも見どころです。
上田 あ、そうですね! そうだ確かにそうだ。
──昔、蜷川幸雄さんが、ご自身の作品にアイドルを起用することの特性を熱く語っていらして、アイドルだからこそ出せるものがあると。上田さんも多面的に、あらゆる場所で活躍されていますが、ご自身がアイドルであることの強みについて、どうお考えですか?
上田 しっかりとした芝居ができたときには、アイドルであることはものすごく強みになると思います。アイドルって、存在もオーラも華やかだと思うので。今回、アイドルである3人が揃い、それぞれに役をものにすれば、すごいことになると思いますね。そう言い切れるのも、周りの方の評価のおかげというか。このあいだも、自分が階段を昇っただけで、“いや~、やっぱり上田くん、カッコいいね”と言っていただけたり。そういう経験の積み重ねで、“アイドル”になっていくんだと。その上で、他の役者さんに負けないくらいの稽古を重ねてステージに立てたときだけ、最強に近づけるんじゃないかと思っています。ちょっとでも惰性に流されてしまったら、アイドルがプロの役者さんたちとステージに立つこと自体、成立しないと思いますね。
──それが成立したかどうかは、自身が判断を?
上田 いや、演出家と観客のみなさんですね。
──アイドルが、作品や役と出会い、やるべきことをやって、責務を全うしたその先にあるプラスαはすごいんだぞと。
上田 そう、素材としてのプラスαはすごいものがあると思いますね。それで戦うのではなく、他の役者さんと同じ、あるいはそれ以上の努力の上に、プラスαがドーンと乗っかってこそです。あとはやはり、アイドルはステージに立って照明を浴びると、どうしてもね、変わるんですよ。それは、自分も蜷川さんからお聞きしました。ステージ上での稽古に入った途端、“違うね”って。それ、すごく言われたな。
──アイドルとしての強みを理解している分、本職の俳優陣のすごさが身に染みてわかることも?
上田 もちろんですよ。たくさんいらっしゃいますけど、記憶に新しい中では、昨年PARCO PRODUCE 2024『破門フェデリコ~くたばれ!十字軍~』でご一緒した(佐々木)蔵之介さん、すごかったですね! 稽古の段階から震えました。自分は2日目から参加したんですけど、すでに1幕の蔵之介さんとアンサンブルの皆さんのところが出来上がっていて。それを拝見したときに、“すげぇなこの人!!”って。何がすごいか……うまく言えないけれど、とにかくオーラと芝居での存在感に圧倒されて、ビリビリきました。一瞬、ヒヨリましたもん(笑)。
──上田さんは、その蔵之介さんと親子として対峙する息子役でしたし。
上田 稽古初日からものすごく緊張したのを覚えています。その拝見したシーンの次に、自分の登場だったので。“うわぁ、この後、俺が出るのか”って(笑)。でも、そこまでの空気に触れられたこと自体が、すごく勉強になったんですよね。実際、いろいろ教えていただきましたし。自分は盲目の人物の役だったので、盲目であることの芝居も蔵之介さんに教えていただきました。いろいろなところで手助けもしていただきました。大先輩方のすごいお芝居を目の前で何度も見させていただくことができるのも、舞台で演じる醍醐味ですね。
上田竜也(うえだ・たつや)
1983年神奈川県出身。2006年3月、KAT-TUNとしてデビュー。俳優としては2009年、『ロミオとジュリエット』で舞台初主演。2013年、『永遠の0』で映画初出演。2017年、ドラマ『新宿セブン』で連続ドラマ初主演。舞台は『Birdland』(2021年)、『After Life』(2023年)など多数出演。
ヘアメイク/豊福浩一 スタイリスト/佐藤美保子
シャツ¥50,600/チノ(モールド) TEL.03-6805-1449
ほか/スタイリスト私物

音楽劇『謎解きはディナーのあとで』
東京公演:2025 年9 月9 日(火)~9 月23 日(火・祝) 日本青年館ホール
大阪公演:2025 年9 月27 日(土)~10 月1 日(水) SkyシアターMBS
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