BY KANA ENDO
グラマラスなアール・デコスタイルの腕時計
グラマラスなファッションがトレンドのひとつになっている昨今、時計にもその波が到来したようだ。ここ10年ほど、色つきのゴールドといえば、ピンクゴールドやレッドゴールドが主流だったが、ここにきてイエローゴールドの時計が多くリリースされており、なかでもブラックダイヤルと組み合わせた、グラマラスなアール・デコスタイルの時計が増えているのだ。またその多くが長方形のレクタンギュラーケースというのも特徴で、ラウンドやトノーケースのものよりも、マニッシュでジェンダーレスな印象を醸す。見た目はヴィンテージライクな雰囲気ながら、性能や素材は進化を遂げている新時代のアール・デコ時計をご紹介する。
シャネル 『プルミエール オリジナル エディション』
1987年の誕生から35年を経た2022年、プルミエールの初代モデルが復刻版「プルミエール オリジナル エディション」として再び登場した。ヴァンドーム広場の輪郭からインスパイアされた香水 シャネル N°5のボトルストッパーを想起させる八角形のケースやサファイアクリスタル、ハンドバッグのチェーンのようにブラックレザーを編み込んだゴールドチェーンのブレスレットなど、メゾンを象徴するデザインコードを組み合わせた時代を超えて愛される逸品だ。
ダイヤルは、インデックスや秒針、日付表示を廃しブラックラッカーで仕上げられ、まるで時が止まったように静謐で凛とした魅力を讃える。そのチェーンブレスレットはどんな女性の手首にもしなやかに寄り添い、永遠のアイコン時計として時を刻み続ける。
カルティエ『タンク ルイ カルティエ』
1922年に誕生した「タンク ルイ カルティエ」に、新たに加わったモデルは、デザイン要素を極限まで削ぎ落としたミニマムな一本。アイコンであるローマ数字のインデックスや、レイルウェイミニッツトラックを取り除いても、不動のアイコン時計として圧倒的な存在感を示す。アール・デコ様式の先駆けになったモダンなデザインが、艷やかなラッカーダイヤル×ゴールドケースでさらに際立った一本だ。
ハリー・ウィンストン『HW アヴェニュー C ミニ・エリプティック』
ハリー・ウィンストンが本店を構えるニューヨークの5番街にちなんで名付けられた「HW アヴェニュー」は、アール・デコ様式から着想を得てデザインされていたコレクション。ケース上下のデザインモチーフは、本店エントランスのアーチからインスピレーションを得ており、レクタンギュラーのケースとオーバルモチーフの幾何学模様が、アール・デコスタイルの世界観を加速させる。約1.28カラットのダイヤモンドの輝きが大都会ニューヨークの煌めきを表現したグラマラスな一本。
ブシュロン『リフレ ウォッチ イエローゴールド スモール』
ケースに施された波型の模様はゴドロンと言われ、メゾンのサヴォワール フェールが堪能できる伝統的な装飾で、ブシュロンのアイコンジュエリーである「キャトル」にも使われている意匠だ。「リフレ」はそんな手のかかるゴドロンをケース全体に施し、まるでジュエリーのように華やかに加工した稀有な時計。時計の裏蓋には、“Je ne sonne que les heures heureuses” (私はよろこびの時だけを刻む)とエングレービングされているのが、うれしいサプライズ。また、スライドするだけで簡単にストラップが交換できるインビジブルクラスプを搭載しているのも魅力。
ストラップのつけ替えが可能な腕時計
これまでも新進ブランドなどでちらほら見かけていた、インターチェンジャブルと呼ばれるつけ替え可能なストラップ。ついにブレゲやヴァシュロン・コンスタンタンという雲上ブランドまでもインターチェンジャブル搭載モデルをリリースした。その付け替え方法は各々のブランドで微差はあれど、ストラップの表もしくは裏側に配されたプッシュボタンを押すだけで着脱が可能となるシステムがほとんどだ。付属ストラップのカラーバリエーションも豊富になり、時計はますます自由に楽しく進化している。
ブレゲの定番『クラシック 8068』
「ブレゲ」を代表する3針のドレスウォッチである通称「クラシック レディ」がモダンに進化した。“ラピッド・インターチェンジシステム”を搭載し、工具無しでストラップ交換が可能に。しかもサテン仕上げのブラックストラップの他に付属するのは鮮やかなブルーとパープルのアリゲーターストラップだ。リュウズにはカボションカットのダイヤモンドをセットし、文字盤は手彫りのギョシェが施されるなど、ブレゲらしいエレガントで洗練されたルックスはそのままに、シリコン製のひげゼンマイやインラインレバー脱進機の搭載により、耐久性や精度が向上している
一般的に付属するストラップはコンサバティブなカラーのものが多いが、このように華やかで大胆なカラーリングのラインナップはさすが。ストラップ裏側のプッシュボタンを押すだけで、靴を履き替えるように時計のスタイリングを楽しめる。ローズゴールドケースモデルはピーコックブルーとラズベリーピンクのアリゲーターストラップが付属する。
ヴァシュロン・コンスタンタン『エジェリー・ムーンフェイズ』
エジェリーの新作はダイヤルとストラップにトープカラーを用いた上品な一本。ムーンフェイズ機構を搭載した「エジェリー・ムーンフェイズ」は、ダイヤモンドが囲むオフセンターのサブダイヤルに、マザーオブパールで形作られた雲を背景にゴールド製の月が浮かび上がる。ダイヤルに施されたプリーツ模様のギョシェ彫りは、伝統的なタペストリー技法を使って描き出される非常に手の込んだ職人技で、オートクチュールのファブリックに見られるプリーツ模様を想起させる。また、インターチェンジャブルシステム搭載で、付け替え可能な3本のストラップが付属するが、本作はその3本が素材違いのトープカラーというのがなんとも洒脱。素材の違いが醸し出すそれぞれの優雅な雰囲気を楽しみたい。
パネライ『ルミノール ドゥエ ルナ ゴールドテック™』
2016年に誕生した「ルミノール ドゥエ」はパネライのなかで、最も薄型のコレクション、女性にも付けやすいモデルとして人気を博している。その「ルミノール ドゥエ」に複雑機構を搭載した初めてのモデル「ルミノール ドゥエ ルナ」が加わった。マザー・オブ・パールの文字盤の3時位置にムーンフェイズを搭載し、ロマンティックな月夜を描き出す。また、ツールを使わずストラップを交換できるシステムを採用しており、カジュアルからエレガントな装いまで、オケージョンに合わせてコーディネートを楽しむことができるのも魅力。ケース素材のゴールドテック™は、金と銅とプラチナを含む合金で、色褪せない深みのある色調が特徴。
ウブロ『ビッグ・バン ワンクリック スチール ホワイト ダイヤモンド』
ウブロを代表するコレクションである「ビッグ・バン」のなかで、シンプルかつ使い勝手の良いモデルが「ビッグ・バン ワンクリック」だ。新作はベゼルに加え、インデックスにもダイヤモンドがあしらわれ、スポーティなモデルがさらに華やかになった。ウブロ独自の「ワンクリック」システムを搭載し、ケース上下にある表側のプッシュボタンを押すだけで簡単にストラップを外すことができる。交換用のストラップは、レザーやラバーなど素材やカラーを多彩にラインナップし、さらに12色のソフトタッチカーフレザーも新たに加わった。
アートのような文字盤の腕時計
時計の顔である文字盤にこだわったモデルは昔から存在する。それらの多くは伝統的なグラン・フー・エナメルや稀少な天然石を用いた文字盤で、複雑機構やハイジュエリーなどの超高級モデルに用いられることが多く、一般的なモデルに採用されることはあまりなかった。が、サファイアクリスタルや染料の進化のおかげで退色を抑え再現できる色のバリエーションが増えたことや、レーザー技術により様々な模様や仕上げを施すことが容易になったため、最近は普段使いできるモデルにもユニークな文字盤を採用したものが増えている。腕元に小さな絵画を飾るように、こだわりの文字盤で個性を主張してみてはいかがだろう。
カルティエ 『タンク ルイ カルティエ』
「タンク ルイ カルティエ」に、ダイヤルにメゾンのシグニチャーカラーであるレッドとチャコールグレーを採用したモデルが登場した。実機を目で見ると単色のダイヤルに見えるが、角度を変えることによって模様が浮かび上がる。これは電解エングレービングという新技術によるもので、見えない網目をさまざまな方向に施すことで模様を作り出す。そこに描かれるのは1980年代の「レ マスト ドゥ カルティエ」に用いられた模様だ。ダイヤルの着色には、文字盤カラー毎に異なる技術が用いられ、レッド文字盤はラッカー仕上げ、グレーはガルバニック仕上げが施されている。新たな技術を用いることで、モノクロームのダイヤルにグラフィカルな奥行きが生まれ、新時代のエレガンスを感じられる一本だ。
ロレックス『オイスター パーペチュアル デイトジャスト 31』
愛らしいブルーのフローラルモチーフが文字盤を彩る新作の「デイトジャスト31」は、サンレイ、マット、グレインという3種類の異なる仕上げを一輪ごとに施した高度な技術力を要する一本。24輪ある花の中心には、大小のダイヤモンドがセットされ、華やかで立体的な印象を醸している。また、美しく輝くホワイトゴールド製のフルーテッドベゼルと、耐蝕性と強度に優れるスチール製のミドルケース、そしてブレスレットのコンビネーションが、エレガンスとスポーティさを両立させ、普段使いしやすいデイリーラグジュアリーを実現している。
ブルガリ『ディーヴァ ドリーム』
ローマの古代遺跡、カラカラ浴場のモザイク画からインスパイアされたコレクション「ディーヴァドリー」には、天然石のマラカイトを文字盤に用いたモデルがラインナップする。その美しい発色と、天然石ゆえ、同じ模様のものは二つとないのも魅力で、一説にはマラカイトは浄化力に優れ邪気をはらうとも言われる。お守り代わりになるグリーンの天然石を、コーディネートのアクセントにしてみてはいかがだろう。
ティファニー『ティファニー アトラス』
ニューヨーク5番街にあるティファニー本店のエントランスを飾るアトラス クロックを元に誕生した「アトラス ウォッチ コレクション」はインデックスのローマ数字がアイコン。本作はそのインデックスにブリリアントカットのダイヤモンドを配し、ソレイユ仕上げのダイヤルをティファニーブルーで彩った。ひと目でティファニーと分かるアイコンが盛り込まれ、軽快で爽やかなラグジュアリー感が、デイリーからドレッシーまで様々なシーンで活躍してくれる。
ブランドの真の実力が試されるジェムストーンウォッチ
ベゼルやインデックス、時計全体にジェムストーンを施したジュエリーウォッチはどんなブランドでも作れるものではない。まず大前提として、統一したカラーのジェムもしくはグラデーションを描くジェムなど高品質の石を調達し鑑定できなければならない。そしてそれらを時計のケースなどに合わせて研磨やカッティングし、セッティングする技術力が必要になる。これらを自社で行うメゾンもあれば、パートナー会社に外注するメゾンもあり時間とコストがかかる。加えて、時計へのセッティングには、防水性や視認性など、時計の性能に影響を与えないようなケースデザインや文字盤の加工技術も必要になってくる。ジュエリーウォッチというのはこのように複雑な工程を経て制作されており、その美しい輝きは、類い稀なるブランド力あってこそ実現可能なものなのだ。
パテック フィリップ『レディス・ノーチラス・ハイジュエリー 7118/1300』
「ノーチラス」に新たに加わったのはベゼルとインデックスにバゲットカットのスペサルタイトを纏った華やかなハイジュエリーモデルだ。スペサルタイトはガーネットの一種で、本作では、12時・6時位置にコニャック・カラー、9時・3時位置にシャンパン・カラーが配され、美しいグラデーションを描き出す。ベゼルに配された68個のスペサルタイトに加え、インデックスには11個のオジーヴ型のアワーマーカーがあしらわれ、ローズゴールドケースと調和した約2.38カラットのジェムストーンのグラデーションが、レディスノーチラスの特徴である波形模様を描く文字盤と相まって、水平線に揺らめく日没の情景を思わせる。
船窓をモチーフにした八角形のベゼルは、ポリッシュとサテン仕上げで美しく磨かれ、ローズゴールドにラック・ブラウンを施した時針と分針により、ジュエリー・ウォッチながら視認性も高い。背面はサファイヤクリスタル・バックで自動巻きムーブメントの精緻な仕上がりも鑑賞できる。
ヴァン クリーフ&アーペル『ペルレ トワ エ モア シークレットウォッチ』
ヴァン クリーフ&アーペルのウォッチコレクションに新たに加わった「ペルレ トワ エ モア シークレットウォッチ」は、1920年代からヴァン クリーフ&アーペルで様々な作品に用いられてきたゴールドビーズを用いたシークレットウォッチだ。ビーズはロストワックス鋳造という技法で形作られ、ジュエラーによってひとつひとつ丁寧に手直しされた後、何度も研磨されることで美しい輝きを放つ。
ほのかに半透明な質感のレッドカーネリアンと、複数の鉱物を含みユニークな模様を描くブラックピーターサイトのモデルはシックなコントラストを描き、稀少なターコイズと、持続可能な方法で生産されたコーラルの明るいオレンジ色のモデルは、ハッピーな雰囲気を醸し出す。大きいモチーフを回転させると、中から文字盤が現れ、周囲にはダイヤモンドが、ダイヤルにはマザーオブパールが配されている。手首にしなやかに沿うブレスレット部分はフランスのアトリエで、文字盤やムーブメントはジュネーヴの時計の工房で組み立てられ、プロセスごとに卓越した職人のコラボレーションにより完成する。ハイジュエラーでありウォッチメーカーである同メゾンならではの秀作だ。
オーデマ ピゲ『ロイヤル オーク オートマティック セット』
1972年に誕生し、2022年で50周年を迎えた「ロイヤルオーク」。その周年を盛り上げるモデルとして10本セットの「ロイヤル オークオートマティック セット」が発表された。本作は、10種類の異なるカラーのジェムストーンがセットされた10本のロイヤル オークで構成され、並べるとレインボーが出来上がるというものだ。一つの時計のベセルやブレスレットで、レインボーを描くレインボーウォッチは伝統的に存在するが、10本のタイムピースでレインボーを描くという試みはこれまで見たことがない。
一つの時計に790個のストーンを用い、しかもそれらが完璧に同色でなければならないゆえ、その調達には約1年かかり、各時計には、ルビー、エメラルド、ブルーサファイア、タンザナイト、イエロークリソベリル、ピンクトルマリン、アメジスト、ブルートパーズ、オレンジスペサルサイト、ツヴォライトが用いられている。また天然石の調達に加え、防水性や耐久性、修理可能性など多くの技術面をクリアし、かつインビジブルセッティングを用い美的にも完璧に仕上げるという、オーデマピゲとストーンセッティングのパートナーであるサラニトロ社の技術を結集させた50周年に相応しい特別なセットだ。
TASAKI『コーヴ』
広大な海にえぐられたようにできた入り江で育まれるパール。そんな入り江を表現した「コーヴ」シリーズのタイムピースは、ブレスレットにはあこや真珠が連なり、間を繋ぐプリンセスカットのピンクサファイアの煌めきが、まるでさざ波のように輝く。肌なじみの良い柔らかな色調のSAKURAGOLD™製ケースに配された大小様々な大きさのダイヤモンドが、潮の流れを感じさせるファンタジックな一本に仕上がった。また、TASAKIが取り扱うダイヤモンドは、平和的に産出されたことが証明できる、キンバリープロセス証明書があるものだけに限られており、鑑識眼や研磨技術はもちろんのこと、将来性やトレーサビリティに至るまで厳しい審査基準を設けた「サイトホルダー」を取得している。海と大地の恵みに敬意を表したジュエリーウォッチだ。