BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO
カリフォルニアワインにおいて、“ニュー・カリフォルニア・スタイルの旗手”として、今、カルト的人気を誇るのが「アルノー・ロバーツ・ワインズ」だ。生産量の希少性はもちろんだが、彼らのワインが注目を浴びるのは、なにより畑選びの秀逸なセレクトセンスにある。たとえば、クラリー・ランチのシラーやフェロム・ランチのカベルネ・ソーヴィニヨンなど、彼らが栽培する畑の多くは、カリフォルニアワインの歴史において品種の栽培極限地であったりと、その地理的条件からまったく注目されていなかった。しかし彼らの手にかかると、その“無名の畑”から繊細で美しいワインが誕生する。まるで畑が息を吹き返したかのような、テロワールを如実に物語るワインは、またたく間にエッジーなワインファンを魅了した。
「アルノー・ロバーツ・ワインズ」は、ネイサン・リー・ロバーツとダンカン・アルノー・マイヤーズというふたりのおさななじみによるコラボ・ワイナリーで、2002年に設立された。彼らが本格的にワイン造りを始めたきっかけとなったのはその前年のこと。ふたりで造った1樽のワインが、親しい業界関係者から高い評価を得たのだ。この5月に初来日を果たしたネイサン・ロバーツはこう振り返る。

ネイサン・ロバーツ
カリフォルニア州ナパ・ヴァレー生まれ。8歳の時、祖母のマーグリットがロバート・モンダヴィと結婚。2012年に『サンフランシスコ・クロニクル』誌の「ワインメーカー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。選出者のジョン・ボネは、その理由について「君たちのワインは特別だ。君たち以外にチョイスはなかった」と語ったという。「この言葉には本当に感激しました」
「最初は、ジンファンデルとプティ・シラーが混植されている畑のブドウを使って、遊び半分のつもりで造りました。今のように緻密な醸造ではありませんでしたが、これが予想以上に周囲の評判がよかった。なにより、私たちにとってはワインに対する“学び”があった。これを機に、本格的にワイナリーを立ち上げようということになったのです」
当時、彼らはまだ30歳と若く、運転資金も十分ではなかった。だが、「ワイン造りは年に一度しかできない、ならば早く始めて、ひとつでも多くのワインを」と決心したという。

(左)「アルノー・ロバーツ シャルドネ ワトソン ランチ ナパ・ヴァレー2016」<750ml>¥6,700
ナパ・ヴァレーの最南端に位置し、石灰岩が点在する珍しい土壌で、強風が吹きこむ畑で育つシャルドネ。レモンのニュアンスとクールな酸味。スタイリッシュな味わいで、フローラルな香りも印象的。
(中)「アルノー・ロバーツ シラー ソノマ コースト 2016」<750ml>¥6,700
ソノマ・コーストの栽培農家のシラーで造られる。果実味がチャーミングで、その奥にひんやりとしたニュアンス。タンニンもなめらかで、果実のうまみが静かに伝わってくる。「こんなエレガントなシラーがあったとは!」と驚く味わい
(右)「アルノー・ロバーツ カベルネ・ソーヴィニヨン クラジュー・ヴィンヤード チョーク・ヒル2014」<750ml>¥14,000
ロシアン・リヴァー・ヴァレーの北、チョーク・ヒルのブドウで造られる。火山性土壌で育つ樹齢14年のブドウを使用し、土着酵母で発酵、フレンチオークの新樽で22か月熟成させる。果実味は豊かでありながらも繊細で、緻密な酸が溶け込んでいる