ひと皿の上に込められているのは、生産者をはじめ、そこに関わるさまざまな人たちのストーリーだ。“おいしい”を通じて、シェフの生江史伸の視線の先を読む

BY YUMIKO TAKAYAMA, PHOTOGRAPHS BY BUNGO KIMURA, ILLUSTRATIONS BY MOMOYO HAYAKAWA

画像: 瀬戸内海と宇和海を隔てる佐田岬半島

瀬戸内海と宇和海を隔てる佐田岬半島

 松山空港から車で2時間30分。海を挟んで向こう側はすぐ大分県という佐田岬で、廃校になった小学校の跡地を利用して養蜂を行なっているのが長生(ちょうせい)博行だ。過疎化が進み、耕作放棄地が増え続けているこのエリアで、持続可能な農業形態を考え、原生林や無農薬の柑橘の花から蜜を集めるオーガニック養蜂を6年前からスタートした。生江は、巣箱内の女王蜂に“謁見”させてもらったあと、蜂の巣から指でハチミツをすくいとりなめてみる。サラサラのハチミツは透明感があり、ほのかに酸味を感じるまろやかな甘さ。

画像: 長生に女王蜂を見せてもらう生江

長生に女王蜂を見せてもらう生江

画像: 巣箱の周りにはカラス山椒の花が咲き、ミツバチは蜜と花粉の収集に励む。「ミツバチには水が不可欠なので巣 箱は必ず谷川から近い場所に設置する。巣箱の温度を35℃に保つため、暑すぎたらミツバチが水をまいて温度を下げるんです」と長生博行

巣箱の周りにはカラス山椒の花が咲き、ミツバチは蜜と花粉の収集に励む。「ミツバチには水が不可欠なので巣
箱は必ず谷川から近い場所に設置する。巣箱の温度を35℃に保つため、暑すぎたらミツバチが水をまいて温度を下げるんです」と長生博行

「豊かな土壌の里山から栄養分が川から海へ流れ、魚介類や海藻がすこやかに育つ。佐田岬は昔からその恩恵を受けてきた。その自然のサイクルを守りたい」と長生。日本のオーガニック養蜂の歴史は浅く、独学で試行錯誤を重ねたが、去年は350箱中200箱の巣箱のミツバチが寄生ダニの被害に遭った。それでも、化学薬品を使った殺虫剤や抗生物質を使わないミツバチの環境づくりに挑戦しつづける。「気づいた者からスタートせなぁあかんのです」。ほほえみながら語る長生の声から感じるのは確固たる信念だ。

画像: 7月の集中豪雨で土砂崩れが起きた、愛媛県宇和島市の山肌

7月の集中豪雨で土砂崩れが起きた、愛媛県宇和島市の山肌

 7月の西日本豪雨で愛媛は甚大な被害に遭い、取り引きのある柑橘農家の被害状況を確認するのも今回の目的のひとつだった。30年前から自然栽培で柑橘を育てている大谷農園では、「果実がオーラを放っている」と生江が表現する、ダントツにおいしいみかんや甘夏、ぽんかんができる。宇和島市内を車で走ると、いたるところで目のあたりにしたのは土砂で無残にえぐられた山肌だ。大谷農園では一反歩(約990㎡)が被害に遭った。
「本来は自然栽培の木は根をしっかり張って水害でも流されにくい。それでも何本か流された。自然相手だから仕方ない」と農園主の大谷元治は穏やかに話す。そこにあるのは自然への畏敬の念だ。

画像: 「今回の水害で自然の摂理と破壊力に圧倒された」と大谷

「今回の水害で自然の摂理と破壊力に圧倒された」と大谷

画像: 大谷農園の大谷元治。 雑草を排除しない自然栽培で柑橘の木を育てる。木で完熟させるので自然の甘さ、爽やかさに

大谷農園の大谷元治。
雑草を排除しない自然栽培で柑橘の木を育てる。木で完熟させるので自然の甘さ、爽やかさに

「食物は、災害なども全部受け入れたうえでの自然からの分け前なんだと思わずにいられない。農家の人々は日々自然と対峙し、環境のこと、100年先のことを常に考えている。長生さん、大谷さんをはじめ、僕らがつき合いのある生産者は、自分の行動が地球環境に対してプラスになるんだったら、それをやろうという人ばかりです。自然からの恩恵をちゃんとお返ししたいという。今回の災害による状況も含めて、料理を通して彼らの生きざまを伝えるのが自分の役割だと思う」と生江は言う。

 

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