ひと皿の上に込められているのは、生産者をはじめ、そこに関わるさまざまな人たちのストーリーだ。“おいしい”を通じて、シェフの生江史伸の視線の先を読む

BY YUMIKO TAKAYAMA, PHOTOGRAPHS BY BUNGO KIMURA, ILLUSTRATIONS BY MOMOYO HAYAKAWA

 人一倍、不公平や不平等に対して憤りを感じる少年だったという生江。中学生の頃は貧困問題に立ち向かうジャーナリストになりたかったそうだ。ICU高校を経て、大学は慶應義塾大学法学部政治学科へ。自活のために始めた飲食店のアルバイトがきっかけで、卒業後は料理の道に進んだ。生江には強く影響を受けた料理人がふたりいる。

ひとりは師匠であるフランス料理界の巨匠ミシェル・ブラス、もうひとりは米西海岸バークレーの地産地消レストラン「シェ・パニース」のアリス・ウォータースだ。前者からは料理で自己表現するには、自分を理解し、足もとにある文化を大切にするということを学び、後者からはオーガニック農業や地産地消、スローフードを普及させ、中学校に食育プログラムを推進するなど、レストランから社会を変えることができると知った。ジャーナリストの道は選ばなかったが、ペンの代わりに料理を通じて社会にメッセージを伝えることはできる。どちらも根底にあるのは、世界をよくしたいという思いだ。

「物を買うという行為は、その商品を作っている人に一票を投じるようなもの。値段には理由がある。水一本買うにしてもそれがどこからきたものなのか、それを製造、販売する企業が人々の安全や環境保全に配慮し、社会的責任をちゃんと果たしているものなのか考えることはできる。食べ物にはそれを作るさまざまな人がいて、その背景には自然がある。そのつながりを意識しながら料理を食べてもらいたい。物の真価はどこにあるのか、みんなが考えるようになれば、もっと世の中がいい方向に変わると思うんです」

画像: 「佐田岬のオーガニックはちみつ、今帰仁モーイ(沖縄の赤ウリ)と胡瓜、ディル」。 旬の食材を使うため、メニューは2週間に一度変わる。皿は江戸後期から大正時代に作られ、窯元の倉庫で眠っていたものだ

「佐田岬のオーガニックはちみつ、今帰仁モーイ(沖縄の赤ウリ)と胡瓜、ディル」。
旬の食材を使うため、メニューは2週間に一度変わる。皿は江戸後期から大正時代に作られ、窯元の倉庫で眠っていたものだ

 今日も六本木の「ブリコラージュ」ではテラスから風が吹きぬけ、年代もののスピーカーからはいい音が流れてくる。「お客さんだけでなく、働く人間も気持ちよくいられるよう“世界でいちばん音のいいパン屋”を目指した」と生江は笑う。
「ここのスタッフは経験値も個性もバラバラだけど、“みんな違ってみんないい”と僕は思っている。誰かの足りないところはチームで補っていく。それが社会の縮図だから。僕は技術が高い人間よりも、お客さん、スタッフ、チーム全体を思いやれ、調和がとれる人間を評価する。だからスタッフにはマインド51%、技術49%の自分をつくってくださいと話している」

 店名の“ブリコラージュ”とは「寄せ集めてDIYする」という意味のフランス語。生産者や料理人ほか、生江の考えに共鳴する人やものがパッチワークのようにつながって少しずつ増殖しつづけ、新しい価値観をさまざまに発信していく。“おいしい”から始まるそれらは、いつか大きなうねりとなり社会を変える力となるかもしれない。「ブリコラージュ ブレッド アンド カンパニー」のひと皿には、多くの人たちの幸せを願う思いが詰まっている。

ブーランジェリー「ブリコラージュ」のお皿を作るものと人<Vol.1>へ

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