BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY MASAHIRO GODA
研修所の朝は8時の朝食から始まる。この日はパリ、京都、大阪、札幌、東京から、料理長たちが集まってきていた。3日間のスパンでそれぞれが料理の試作を繰り返し、最終日までに完成させるという。
大樹は、ふだん店では使う機会のないカレイの調理に取り組んでいる。「レストランひらまつ パリ」の中川 尚はセロリラブ(根セロリ)の塩包み焼きを。ひらまつが初めて手がけた京都の料亭「高台寺 十牛庵」を預かる藤原誠は、鹿肉料理で悩んでいた。大樹にアドバイスを受けながら、鹿のロース肉をたこ糸で巻き、小麦粉をはたいてバターでゆっくり焼いていく。いわゆるムニエルと呼ばれるフランス料理の調理法だ。西京味噌とごま油のソースを添えたが、このソースが本当によいのか。食べやすい厚さはどれくらいか――。互いの料理を試食し、意見を述べ合い、さらに試作が続く。
3日目の午後、研修所は前日とは違う緊張感に包まれていた。料理長たちが順番に料理を仕上げ、平松宏之の試食後、講評を受けるのだ。まずは大樹の料理から。マコガレイをソテーし、ソース・ナンチュア(ザリガニのソース)、セロリラブのローストを添えた。「カレイは魚の中でも火入れが難しい。火入れ具合がもう少しだね。ソース・ナンチュアは爽やかで、セロリラブとの組み合わせがうまい」。宏之は続ける。「料理って、ひとつにこだわると先が続かない。ソースとセロリラブの組み合わせが素晴らしいから、たとえば川魚の料理に仕立ててもいいな」
大樹は言う。「うまいかうまくないか。はっきり言われる。でも、必ず次につながるヒントをくれるんです」。札幌から駆けつけた「レストラン MINAMI」の南 大輔は、「一日じゅう、料理のことだけを考えていられる時間は貴重です。みんなの料理への熱量も、すごい。刺激を受けないわけがありません」と語った。