BY KIMIKO ANZAI
「あれは2018年2月の5日、月曜日のことだったかな。その日、ミシュランの発表があると知っていたから、朝、シャワーを浴びたあと、恐る恐るネットを検索したんだ。結果は“三ツ星”だった。正直、ほっとして胸を撫でおろしたよ(笑)。早く家族とこの大きな喜びを分かち合いたいと思った」
フレンチの巨匠、ミッシェル・トロワグロは、満面の笑みを浮かべながら『ミシュラン ガイド』50年連続三ツ星獲得の瞬間を語ってくれた。「すごいでしょ? フランスのサッカー・ナショナルチームのユニフォームについているのは“二ツ星”。うちはそれよりひとつ多いんだ(笑)」
フランス料理の世界で、“ミシュランの星”は絶対的権威を持つ。星を落として料理界を去った料理人もいる。だからこそ、“50年連続ミシュラン三ツ星獲得”がどれほどの偉業を意味するのか理解できるだろう。ミッシェル・トロワグロにとっても、事実、星を獲得し続けることは大きなプレッシャーであったという。
ミッシェル・トロワグロが世界各国での料理の修行を終え、フランス・ロアンヌにある実家の「メゾン・トロワグロ」に戻ったのは1982年のこと。父のピエール・トロワグロ、伯父のジャン・トロワグロは“トロワグロ兄弟”としてすでに世界的に名を馳せた料理人で、ミッシェル・トロワグロは彼らの指導のもとで家業を手伝っていた。正式に店を継いだのは1996年で、このとき「メゾン・トロワグロ」の“ミシュラン三ツ星”は28を数えていた。
「自分の代で星を落とすのではないかと、毎年冷や冷やしていたよ。星は、取った瞬間に“過去の栄光”になる。しかも、来年取れるという保証はまったくない。取った瞬間、そこが新たなスタート地点になるからね。とはいえ、“星”は私にとって大きな誇りでもある。なぜなら、これは私一人ではなく、妻や家族、そして私を支えてくれるスタッフたちと一緒に勝ち得たものだからね」