BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO
「ノース・オタゴの天候はなかなか難しくてね。このキャロラインズ・ピノ・ノワールも、天候のよい年にしかつくれないんだ」。そう言って、「オスラー・ヴィンヤーズ」のオーナー、ジム・ジェラム氏は穏やかな笑みを浮かべた。
ノース・オタゴはニュージーランドの南島に位置する。世界最南端のピノ・ノワールの産地であるセントラル・オタゴから少し北寄りの、今注目のワイン産地だ。海風の影響を受けやすい極めて冷涼な土地で、朝晩は霧が立ち込める。
このノース・オタゴのワイタキ・ヴァレーで、ジェラム氏は醸造家のジェフ・シノット氏とともに個性的なワインを生み出している。ミネラルを多く含む石灰質土壌で育まれるピノ・ノワール、リースリング、ピノ・グリは、しなやかな骨格と繊細な果実味、フレッシュな酸味を持つ。周辺地域と異なる気候で、面積も広くないことから、ジェラム氏は「“エアポケット”のような、独特の個性を持った土地」と表現する。
前出のキャロラインズ・ピノ・ノワールは「オスラー・ヴィンヤーズ」を代表するワインで、きめ細やかなタンニンとピュアな酸味が特徴だ。太陽の明るさを感じさせる果実味と、酸の中にあるひんやりとしたニュアンスが、ブルゴーニュとはひと味違うニュージーランドのピノ・ノワールであることを物語る。
「オスラー・ヴィンヤーズ」の誕生は1998年。ワイナリーを立ち上げることは、ジェラム氏の長年の夢でもあった。医師として、オタゴのメディカルセンターで29年間にわたり多くの患者と向き合ってきたジェラム氏は、大のワイン愛好家でもあり、特にピノ・ノワールに魅せられていた。妹が醸造家であるジェフ・シノット氏と結婚、彼が優秀な醸造家であったことからワイナリーの設立を決心したという。
ふたりは最高のワインをつくるべく、可能性のある土地を探し、レイスコース・ロードにある畑と出会う。「クロ・オスラー」という名をつけ、ここにピノ・ノワールを植樹した。ピノ・ノワールは、ソーヴィニヨン・ブランと並んでニュージーランドがそのレベルの高さを世界に誇る品種ではあったが、ブルゴーニュのピノ・ノワールに傾倒していた彼は、より繊細でエレガントなスタイルを目指していた。「ノース・オタゴなら理想のピノ・ノワールがつくれる」と確信したという。
「ジェフとは運命的な出会いだった。ふたりとも、この地で素晴らしいピノ・ノワールをつくりたいという強い思いを同じくしていたからね。ここで生まれるピノ・ノワールは本当に美しいんだ。ニュージーランドのピノ・ノワールではなく、“ノース・オタゴのピノ・ノワール”として、多くの人に知ってもらえたらと思うよ」
現在、「オスラー・ヴィンヤーズ」のワインは、ヨーロッパのファイン・ダイニングなどでもオンリストされ、世界的にも評価が高い。ブルゴーニュやアルザス、アメリカのオレゴンとなどのピノ・ノワールの魅力とはまたひと味違う“ノース・オタゴのピノ・ノワール”。唯一無二のその味わいは、多くのワイン愛好家に宝を見つけたような気分を味わわせてくれるに違いない。
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