TEXT & PHOTOGRAPHS BY JUNKO AMANO
夏は蒸し暑く、冬は寒さが厳しいといわれる京都だが、1月2月は本当に寒い。気温的にはそこまで低くないのが、三方を山に囲まれた盆地のため、冷気が逃げにくく、足元からジンジンと冷えていく“底冷え”がつらい。そこで今回は、体を芯から温める京都の冬のご馳走を紹介します
京都・御所南「末廣」の蒸し寿司

カニ身や穴子がのった豪華版、「末廣」の蒸し寿司・上¥2,310(11/1~3/31)
京都人が冬になると食べたくなるものと言えば「蒸し寿司」。棒寿司や巻き寿司を出す京寿司の名店では冬になると登場するメニューで、200年の歴史を持つ「末廣」でも毎年11月から3月まで提供されている。
蒸し寿司を知らない遠方からの客人に「ちらし寿司を蒸したもの」と簡単に説明すると、たいていの人が「熱々の酢飯っておいしいの?」と、実際食べるまではおっかなびっくりだったりだ。
末廣の酢飯はもともと酢がきつくなく、甘みもある優しい味わいが特徴。さらに一晩冷蔵庫で寝かせることで、酢の角が取れ、温かくしても、ツンと鼻を差すような刺激はなく、むしろまろやかな香りに食欲がそそられる。
テーブルに運ばれた丼の蓋を開けると、湯気がふわりと立ち上り、錦糸玉子の上には、海老や生麩、桜でんぶなど、色とりどりの具材がのっていて、箸を入れると、錦糸玉子の下からは刻んだ焼き穴子と酢飯が現れる。酢飯自体にも、干瓢としいたけを甘辛く炊いたものやイカのそぼろ、キクラゲが混ざっていて、それだけでいただいてもおいしく、錦糸玉子や焼き穴子、トッピングされた具材と一緒に食べると、一口ごとに違った味のコンビネーションが生まれる。

冬は注文の半分以上が蒸し寿司という人気ぶり

イートインは6席のみ。何十年と変わっていないノスタルジックな雰囲気がたまらない
蒸し寿司がいつどこで生まれたかは諸説あり、「末廣」でも100年以上前から出していることはわかっているが、厳密にいつから出しているかは不明だそう。「ハレの日にご家庭でようけちらし寿司を作って、次の日に残ったちらし寿司を寒い日やったから、温めて食べたらおいしくて、それが広まったとも言われています」と、8代目当主、柴田十起夫さん。

蒸し寿司は電子レンジ対応の容器に入った持ち帰り用もあり。¥2,052
この冬は、食材や物をムダにせず、有効利用する京都人の“始末の心”から生まれた「蒸し寿司」で、京都の底冷えで冷えた体を温めてはいかが。

鯖寿司や箱寿司など、持ち帰り注文も多く、新幹線で帰路につく前に立ち寄る旅行者も増えているそう

京都御苑のほど近く、骨董店が建ち並ぶ寺町通に天保年間創業
末廣
住所:京都府京都市中京区寺町通二条上ル要法寺前町711
営業時間:11:00~18:00(イートインはL.O.15:00)
定休日:月・火曜
TEL. 075(231)1363
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天野準子
生まれてこの方、碁盤の目と呼ばれる京都の街中暮らし。雑誌やWEBで京都にまつわるライティングやコーディネートを行っている。プライベートでは、強靱な胃袋を武器に日々、おいしいものをハント