“キング・オブ・シャルドネ”と称される「ガーギッチ・ヒルズ・エステート」の創設者は、通称“パリスの審判”と呼ばれるワイン競技会で世界NO.1を獲得した「シャトー・モンテレーナ」の元醸造家。今年3月にその娘で「ガーギッチ・ヒルズ・エステート」のオーナーが来日、“伝説の白”の秘話と自らのワイナリーの“これから”を語ってくれた

BY KIMIKO ANZAI

 フランスワインが世界NO.1――。そんな通説を突き破ったのが1976年にバリで開催されたワインコンテストだった(通称“パリスの審判”)。赤は「シャトー・ムートン・ロスチャイルド」、白は「ムルソー シャルム ドメーヌ・ルーロ」などの銘醸ワインが居並ぶ中、ブラインド・テイスティングの結果、フランス勢を押さえて1位を獲得したのが、赤部門はカリフォルニアの「スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ」のカベルネ・ソーヴィニヨン、白部門も同じくカリフォルニアの「シャトー・モンテレーナ」のシャルドネだった。

「2021ガーギッチ・ヒルズ・エステート シャルドネ エステート・グロウンナパ・ヴァレー」。
アメリカ カリフォルニア州。シャルドネ100%。レモンやライム、カリンなどの柑橘と白桃のアロマ。奥にバニラのニュアンス。ミネラル感も豊か。魚介類やクリームソースを使った鶏肉料理などとともに。750㎖ ¥10,450

「シャトー・モンテレーナ」の醸造家はクロアチア出身のミリェンコ・“マイク”・ガーギッチ(マイクはアメリカでの通称)で、何日か経った後、『NEW YORK TIMES』の記者が英国『TIME』で報じた記事を読み、電話をくれたことで“パリ・テイスティング”の結果を知ったという。情報の伝わり方が現代とは違う時代のこと。マイク氏が知らないところで大きなニュースになっていたという。彼の娘で「ガーギッチ・ヒルズ・エステート」オーナーのヴァイオレット・ガーギッチはこう述懐する。

画像: オーナーのヴァイオレット・ガーギッチはピアニストでもあり、音楽家を目指していたことも。一方で空手も嗜み、腕前は“黒帯の手前”

オーナーのヴァイオレット・ガーギッチはピアニストでもあり、音楽家を目指していたことも。一方で空手も嗜み、腕前は“黒帯の手前”

「父は、最初は何かワインにトラブルでもあったのかと心配したそうです(笑)。それがフランスワインに勝利したと聞いて、とても驚いたと話していました。父は、いつもワイン造りに真摯に向き合っていましたから、報われた瞬間だったのかもしれません。『ワインはいいブドウから生まれる。子どものように手塩にかけて育てることが大切なんだ』と常に言っていました。私は父と一緒に畑にいるのが大好きで、ずっと父の仕事を見ていました」。
 ミリェンコ・“マイク”・ガーギッチは1923年にクロアチアの小さな村に11人兄弟の末っ子として生まれた。兄弟の中で唯一大学へ進学し、ワイン醸造に情熱を傾けていた。するとある日、大学の教授が彼にこう言ったという。「アメリカに行けば夢は叶うよ」――。彼は悩んだが、“未来のために”クロアチアを後にした。

 彼に幸運をもたらしたのは、何より彼の真面目な人間性と細やかな仕事ぶりだった。彼は「ロバート・モンダヴィ・ワイナリー」で働く幸運に恵まれたが、ここでの働きぶりが「シャトー・モンテレーナ」のオーナーの目に留まったのだ。当時、「シャトー・モンテレーナ」には醸造設備がなく、彼はモンダヴィの醸造設備を借り、プライベートでシャルドネを造っていた。マイク氏は新たな挑戦として彼の誘いを受け、「シャトー・モンテレーナ」に移籍したが、「専用の醸造所がなければ最高のワインを造るのは難しい」とシャトーを改革、醸造所を造ったのだった。
 結果、このシャトーからは素晴らしいワインが誕生、「シャトー・モンテレーナ」の名声は高まり、“パリ・テイスティング”へと繋がっていった。実は、ここに裏話がある。マイク氏が期待されたのは「素晴らしいカベルネ・ソーヴィニヨン」を造ること。だが、赤ワインには熟成が必要で、その間、ワイナリーはワインを売ることができないためシャトーの利益はない。そこで、運転資金のためにすぐにリリースできるシャルドネを造ったところ、これが爆発的に売れたのだった。「シャトー・モンテレーナ」とマイク氏の名声は高まった。
 そして「シャトー・モンテレーナ」を成功させた後、彼は自らの夢であった自身のワイナリーを設立することを決意した。それが「ガーギッチ・ヒルズ・エステート」だ。彼の経験と技が存分に生かされた造りのワインは瞬く間に評判となり、“キング・オブ・シャルドネ”と称された。ヴァイオレットさんは20代の頃から父を手伝い、30歳を迎えた頃には自然にワイナリーを継ぐことを決めていたという。マイク氏亡き後も、父の「神は細部に宿る」考えを基にした細やかな造りを今も実践している。

画像: 故ミリェンコ・“マイク”・ガーギッチは、今や伝説の醸造家。2023年に亡くなったあとも尊敬を集める存在

故ミリェンコ・“マイク”・ガーギッチは、今や伝説の醸造家。2023年に亡くなったあとも尊敬を集める存在

 現在、ヴァイオレットさんが目標としているのは“さらに高品質のワインを造ること”で、ブドウ栽培に力を入れている。より土壌にフォーカスし、環境再生型の栽培に取り組んでいる。そのひとつがあえて土を耕さない不耕栽培で、これにより土中の保水性が上がり、土壌環境がよくなるのだという。土壌がよくなれば微生物も増え、土中に栄養分が増える。また、次第に生物が集まることで、生物多様性も実現されたという。ここから生まれるワインはナチュラルな味わいで、どこか伸びやかさを感じさせる。たとえば「2021 ガーギッチ・ヒルズ・エステート シャルドネ エステート・グロウンナパ・ヴァレー」は白い花やカリンの香りがとてもアロマティック。エレガントで、まるでグレース・ケリーが出てくる映画のようなクラシカルな美しさを湛えている。ヴァイオレットさんは柔らかな笑顔でこう語る。
「私はこのワインが大好き(笑)。これは父が造った味だから。父は苦労しましたが、いつも楽しそうでした。私は何不自由なく暮らせて、ピアノも習わせてもらった。幸福な少女時代でした。今の私の夢は、より多くの方に父のワインを知ってもらうこと。このワインで幸せになって欲しいと思っています」。
 

画像: 畑は2000年よりオーガニック栽培を始め、2003年よりビオディナミに転換した。写真はシャルドネが多く植えられている“アメリカン・キャニオン”の畑 PHOTOGRAPHS: COURTESY OF GRGICH HILLS

畑は2000年よりオーガニック栽培を始め、2003年よりビオディナミに転換した。写真はシャルドネが多く植えられている“アメリカン・キャニオン”の畑

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF GRGICH HILLS

「ガーギッチ・ヒルズ・エステート」のワインは、いわば“アメリカン・ドリーム”を成し遂げたワインだ。幸福な未来を願ったひとりの人間の夢と希望が詰まっている。大きな仕事をなそうとしている友人に、あるいは日々の小さな仕事に成功した自分に贈ってみたくなる1本だ。成功に大小はない。きっとこのワインが夢へと導いてくれるはずだ。

問合せ先
WINE TO STYLE
TEL. 03-5413-8831

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