BY KIMIKO ANZAI
“マールボロのソーヴィニヨン・ブラン”が80年代に注目されたのを機に、世界的に高い評価を受けるプレミアムワインが次々と誕生しているワイン産地がニュージーランドだ。特にここ10年ほどはピノ・ノワールの進化がめざましく、“繊細で洗練されたマーティンボロ(北島)”、“芳醇ながらも優雅なセントラル・オタゴ(南島)”など、土地の個性を語るピノ・ノワールが次々と登場している。
「クラギー・レンジ ピノ・ノワール テ・ムナ・ロード ヴィンヤード マーティンボロ 2023」もそのひとつで、冷涼なテロワールの個性が感じられる魅力的な一本だ。サクランボやチェリーなど赤い果実の香りと心地よいスパイス香、豊かな果実味とピュアな酸味が心に残る。印象的なのがシルキーな質感で、ナチュラルなその味わいは、ブドウが育った壮大で美しい畑の風景を思い起こさせる。
「クラギー・レンジ」は、ニュージーランド北島ホークス・ベイに1998年に設立されたワイナリーで、『The world’s most admired wine brands(世界で最も称賛されるワインブランド)』では2020年から24年まで5年連続でトップ50に入り、権威あるワイン専門誌『ワイン・アドヴォケイト』では、ワイナリーのプレステージラインである「クラギー・レンジ・ル・ソル・ギムブレット・グレーヴェルズ・ヴィンヤード」(シラー100%)が常に高得点を獲得するなど、常に高評価を受ける生産者として知られる。
オーナーファミリーの3代目で、現在はブランドアンバサダーとして活躍するダヴィッド・ピーボディ Jr. 氏は言う。
「私たちファミリーは、アメリカ出身のオーストラリア移民で、国ではいくつかのビジネスを成功させていました。家族が集まる食卓にはいつもワインがあり、『いつか世界で認められるワインを造ってみたいね』と話していました。ワインを造ることは、家族の夢でもあったのです。その“夢の場所”を探すために、私の祖父母はフランスやナパなど世界のワイン産地を回り、見つけたのがニュージーランド北島のホークス・ベイとワイララパのマーティンボロでした。ホークス・ベイは温暖で肥沃な土地、マーティンボロは冷涼な気候で、ここでなら、良質のブドウが育つと思いました。私の両親はその可能性を見出し、ワイン造りをスタートさせたのです」。
今でこそ、ホークス・ベイは高品質のカベルネ・ソーヴィニヨンやシラー、シャルドネなどで有名で、マーティンボロは繊細でエレガントなピノ・ノワールやピュアな印象のソーヴィニヨン・ブランで知られるが、ワイナリーが設立された当時は未開の地も多かった。「クラギー・レンジ」では「何よりも大切なのはブドウ」と、一本一本ブドウの木を植えるところから始めたという。そして今では、天空まで届くかのような雄々しい岩山に囲まれたブドウ畑は青々と美しく、その壮大な景色に圧倒される。
現在、ワイナリーが注力しているのは自然との共生で、サステイナブルでの栽培を実践、畑の微生物などを調べて土地を理解し、生物生態系を実現させている。ブドウ栽培はオーガニックを実践中で、将来的にはホークス・ベイとマーティンボロのすべての畑をオーガニックに転換する予定だ。
また、栽培の上で興味深いのが、ブドウのクローン(樹の枝を接ぎ木するなどして作られたブドウの樹)へのこだわりだ。ブドウはクローンの違いによって味も違うため、多種のクローンを畝ごとに植えている。たとえば、マーティンボロのテ・ムナ・ロード ヴィンヤードでは、ピノ・ノワールだけで30種のクローンを植え、それを畝ごと、あるいは区画ごとに収穫、75のタンクで細かく発酵させているという。
「こうするとことでテロワールとクローンとの相性が明確にわかり、この地に合ったクローンがセレクトできるのです。土地の個性を生かすためには、クローンの選抜も重要。テロワールの魅力が感じられるワインを造りたいと思っています」とピーボディ Jr.氏。
「クラギー・レンジ」のワインは、洗練されたエレガントな味が特徴的だが、それもこの緻密な栽培とていねいな造りがあってのもの。だが、なにより大きな魅力は、グラスを手にする人にどこか肩の力が抜けていくようなリラックス感を与えてくれることだろう。優雅さと透明感を持ちあわせたワインは、週末、ほっとひと息つきたい時間にこそふさわしい。
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