人口減少により壊滅の危機に瀕したイタリアの山間の村や町。その苦境から脱するために、知恵を絞り、力を合わせた住民たちの闘いを追った

BY DEBORAH NEEDLEMAN, PHOTOGRAPHS BY DOMINGO MILELLA, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 しかし、フィレンツェやローマなどの主要都市から遠く離れた町の場合、週末の観光客を呼び寄せるのはもっと難しい。シチリアの奥地、標識が道にあいた大きな穴をあきらめがちに警告するでこぼこ道の先に、ぽつんとあるのがステラという町だ。険しい山の麓に沿うようにつくられたこの町は、2013年、ランペドゥーザ島沖で起きた船の悲惨な遭難事故で360人の難民が死亡した際、町長の要請で生存者たちに門戸を開き、空き屋だった家々に彼らを迎え入れた。ステラの人口は1970年代には5,000人だったが、年々減少して1,500人になっていた。町長は、衰退する一方だった町が、移民によって人道面と経済の両面で救われると考えたのだ。難民のほとんどはアフリカのサハラ砂漠以南の国の出身だ。コミュニティに迎え入れるにあたり、彼らを地元住民の家族とマッチングさせ、イタリア語のクラスを必修とし、町の住民が言葉を教えた(EUが食料や衣類、住居用の資金を提供し、それが移民と住民の両方に職を生み出すきっかけにもなった)。最初は住民のあいだに多少の抵抗はあったが、新しい住民が町にもたらした活力によって、そんな感情も消えていった。今では若いナイジェリア人たちが老人たちの隣で朝のエスプレッソを飲む姿や、地元の子どもたちが新しい仲間と通りでサッカーボールを蹴っている光景を見ることができる。そして町では毎年夏の一日、移民たちの伝統的な食と音楽とダンスの祭りを催している。

画像: 2013年、ステラの町長は、ランペドゥーザ島沖で起きた船の悲惨な遭難事故の生存者たちを町に迎え入れた。それ以来、さらに多くの移民たちがこの町に移り住み、かつて発展していた町に新しい息吹を吹き込んできた

2013年、ステラの町長は、ランペドゥーザ島沖で起きた船の悲惨な遭難事故の生存者たちを町に迎え入れた。それ以来、さらに多くの移民たちがこの町に移り住み、かつて発展していた町に新しい息吹を吹き込んできた

画像: ステラの町の静まりかえった道

ステラの町の静まりかえった道

 カラブリア州のリアーチェは、城壁の内側に移民を招き入れた最初の町のひとつだ。町長のドメニコ・ルカノは、昨年、フォーチュン誌の『世界の優れたリーダー50人』のうちのひとりに選ばれた。町がクルド人難民たちを受け入れた1998年、リアーチェの人口は第二次大戦後の2,500人から800人にまで減少していた。現在、20カ国以上からの移民が住むこの町の人口は1,500人だ。移民たちの中には職人に弟子入りし、刺しゅうやモザイクガラス製作や陶芸などの伝統技術を学んでいる者もいる。後継者不足で消滅の危機に瀕していた伝統技術を彼らが学ぶことで、イタリア文化を継承する助けになっているのだ。ルカノ町長はBBCの取材に対して、「多文化主義、つまりさまざまな伝統技術と移民たちが町にもたらした個人的な人生経験が、ゴーストタウンになりかけていたリアーチェに革命を起こしたのです」と語る。ほかの町も、リアーチェにならって移民を受け入れるようになった。人道的な救助の行動が、自分たちの存在を守ることにつながったのだ。

 都心と違って、丘の上の町は周辺の田園地帯と密接につながって形成されてきたため、生活の糧を得る手段からビジネスのやり方まで、それぞれの町に固有の存在理由がある。地形的にいえば、これらの町は突然地表に飛び出して、丘をテラス状に囲んだように見える。まるで地面からにょきにょき植物が育ったように。アペニン山脈の高い山々に囲まれたアブルッツォ地方では、驚嘆すべき中世の城壁に囲まれた町、サント・ステファノ・ディ・セッサーニオが、ドラマティックなまでに美しい山岳地帯を見渡す高台の上に鎮座している。かつては農業と羊毛生産の中心地として栄えたが、外国との競争に直面したイタリアの羊毛業が下降するにつれて町の勢いも衰えた。1990年代には、町の通年人口は100人ほどにまで減った。サント・ステファノはローマからほんの2時間の位置にあり、映画『サウンド・オブ・ミュージック』に出てくるオーストリアの丘に似た田園地帯に囲まれている。野生の花が咲く広大な野原の背後には、山頂に雪をいただく神秘的な山々がそびえている。夏にハイキングやサイクリングを楽しんだり、冬にスキーやスノーシューをするには最高の場所だ。だが、アブルッツォ地方は長いあいだ貧しく発展の遅れた場所だと見なされてきたため、イタリア人にそれほど愛されていたわけでもなく、それゆえ関心も浴びず、その存在も広く知られてこなかった。

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