BY TAKAKO OHARA
東海道の交通の要所として栄えた滋賀県・大津。江戸時代の宿場町の面影を、今もあちこちに残る古き町家に見ることができる。しかし、時代の流れで住む人のないまま放置される家屋も増加。そこで、町の歴史的財産ともいえる町家の活用を機に、商店街をはじめとする町全体の活性化を図るプロジェクトが始まった。
オーナーは、高品質な木造注文住宅を滋賀県で作り続ける谷口工務店。その依頼を受けてホテルを運営するのは、人気の宿「里山十帖」をはじめ、浅間温泉や箱根などで現代人が求める癒し宿を運営する「自遊人」だ。古い町家を改装して宿にする動きは、近年、京都を中心にさまざまな場所で進んでいるが、ここ大津で展開された「商店街HOTEL 講 大津百町」は、従来のものとは異なる新しいシステムで運営されている。
今年8月にグランドオープンした町家宿は、全7棟。複数の客室からなる2棟と1棟貸し切りの5棟は、人数や日数、好みに合わせて選ぶことができる。すべて築100年を超える建物だが、商家として使われていたものなど、太い梁や柱を持つしっかりとした木造建築で、床の間や欄間のある和室など、そのまま和風宿にしてもいいような造りだ。それをあえて、現代の旅人が快適に過ごせる機能性とHOTELのようなデザイン性の高い設備を備えた空間へと作り変えた。
現代の数寄屋建築を得意とする設計者、工務店、庭師が手がけた町家宿の外観は古き町家の趣そのままだが、一歩中に入ればホテルのようなプライバシーの保たれた客室となる。世界的に人気の高いデンマーク製の家具、アメリカのシーリー社のベッド、檜のバスタブをしつらえたバスルームなど、上質な旅館の雰囲気を漂わせながら、まるでラグジュアリーホテルに過ごすようなモダンな快適性が約束されている。
HOTELという名称は、設備だけではなく、そのシステムにも現れている。町に点在する全7棟の宿は、メインとなる「近江屋」のフロントで一括管理されるひとつながりの“講”を成す。ゲストは、ここのフロントでチェックインをし、それぞれの棟や客室に宿泊する。「近江屋」には、飲み物や菓子などが置かれたラウンジ、琵琶湖の食材が並ぶ近江らしい朝食を提供する食事処もあり、すべての棟の宿泊客が共通して利用することができる。またホテルのコンシェルジュに旅の相談ができるのも、従来の単体の町家宿にはないサービスだ。
古い宿場町には、昔ながらの味を守る漬物屋や和菓子屋、歴史を感じさせる工芸品の店などが並び、そぞろ歩きもまた楽しい。ミニキッチンがある貸切の棟に宿泊したら、地元の人達が愛用する食品店や滋賀県産の野菜が並ぶ八百屋、琵琶湖の鮎などを扱う店を利用するのもいいだろう。暮らすように楽しむ時間が過ごせるのも、この町家宿の魅力といえよう。
琵琶湖の周辺は、比叡山延暦寺、石山寺、三井寺など古刹が多く、大津はまさにその観光の拠点となる利便性の高い町。最寄りの「浜大津駅」からは直通で京都の名所へのアクセスがいいのも見逃せない。古き町を遊ぶ、新しいスタイルの町宿の誕生だ。
「商店街HOTEL 講 大津百町」
住所:滋賀県大津市中央1-2-6「近江屋」フロント
電話:077(516)7475
全7棟(うち貸切タイプ5棟、ほか3室、5室客室棟2棟)
料金:¥9,900~(1室2名利用の1名料金、税別・サービス料込)
公式サイト
エレン・カプロウィッツ写真展「アモルファス」
ニューヨークを拠点に活動する写真家、エレン・カプロウィッツが石川県珠洲市の陶芸家、中山達磨氏を訪ねて出合った陶芸の副産物「棚板」。その文様を和紙にプリントした写真展を「講」で開催する。宿泊客以外も観覧可能。
会期:2018年10月11日(木)~27日(土)
会場:商店街HOTEL 講 大津百町「茶屋」
開場時間:12:00~14:30 入場無料
電話:077(516)7475(10:00~21:00)